全国のタワーレコードの音楽好きな店長が今おすすめしたい1枚をピックアップし、店頭やオンラインで展開する企画〈マスターズチョイス〉。Mikikiでも選盤とコメントを月~金曜日に毎日紹介します。本日は、吉祥寺パルコ店の村越辰哉さんがジェイムズ・ブッカー『Behind The Iron Curtain ... Plus』を推薦。 *Mikiki編集部

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JAMES BOOKER 『Behind The Iron Curtain ... Plus』 Richard Weize Archives(2023)

 

映画「ジェイムズ・ブッカー/愛すべきピアノ・ジャンキー」からの入門編にして究極のBOX!

ニューオーリンズの音楽シーンを作った重要人物たちが口をそろえて〈天才ピアニスト〉と評価し、その一方で〈奇人変人〉とも称される謎多き人物……ドキュメンタリー映画「ジェイムズ・ブッカー/愛すべきピアノ・ジャンキー」でその生涯が恐らく初めて世界に知られたジェイムズ・ブッカー。残念ながらその真価を伝えるフィジカル商品が入手困難な2026年現在、その最高峰がこのBOX。ユニークな個性と高い音楽性が評価された70年代後半のヨーロッパでのライブ録音はブッカーもゴキゲンで絶頂のパフォーマンスと言えます。

本CDには以下の3公演を収録。

Haus Der Jungen Talente(東ベルリン、東ドイツ)- 1976年12月22日
Radio Lausanne, Studio 8(ローザンヌ、スイス)- 1977年1月27日
Moritzbastei(ライプツィヒ、東ドイツ)- 1977年10月29日

いずれもブッカーのソロでのライブ。オリジナル、カバーを含め代表的レパートリーをほぼ網羅。映画登場曲42曲のうち半数の21曲を収録。半数では物足りなく思えるかもしれないが、映画登場曲はキャリア初期音源も多く含むため〈ブッカーのライブでの定番〉という意味では〈ほぼ網羅〉と言って過言はないはず※。

※正直に申し上げると映画本編でも歌詞の深掘りパートがあったオリジナル曲“Papa Was A Rascal”未収録が残念だが、それでも本BOXの価値は揺るがない、と思います

ブッカーのライブは、アレンジがその日によって異なったり、テンポなんかも思いつきで変えてみたり、別の曲につなげてみたり……とトリッキーなところと、エキセントリックなバカテクを披露したと思ったら、突然エレガントでロマンチックになったり……と全く読めない。その様子を見事にとらえています。

同じ曲が複数回演奏されていますが、そのノリは日毎に異なっており聴き飽きさせません。

・ジャズスタンダード“On The Sunny Side Of The Street”→4回
・キャリア初期に録音に参加したジョー・テックスの“Come In My House”→4回
・アラン・トゥーサン作でドクター・ジョンで有名な“Life”→3回
・レッド・ベリーで有名なフォークソング“Goodnight Irene”→3回

また意外なカバーも飛び出します。

・ザ・ビートルズ“Eleanor Rigby”“Let It Be”“I Saw Her Standing There”
・ポール・マッカートニー“My Love”Let It Be”
・ベートーヴェン“エリーゼのために”
・ショパン“子犬のワルツ”
・フランク・シナトラ“My Way”

などなどブルースやニューオーリンズR&Bにとらわれず、唐突に意外なレパートリーがブッカー解釈で演奏されるのもスリリング。

映画本編で印象的だった楽曲もしっかり収録しています。

“On The Sunny Side Of The Street”→ハリー・コニックJr.が驚異的な奏法を解説
“Classified”“Junco Partner”→特異な世界観が垣間見えるオリジナル曲
“People Get Ready”→葬儀のシーンで登場したカーティス・メイフィールドのカバー

などなど充実の5CDです。

映画でブッカーを知ってちょっと聴いてみたい……という方には価格的にも少々ヘビーかもしれませんが、現時点ではこれに替わるアルバムはなく、安価な初期音源集『Birth Of The Bayou Maharajah (1954-1962)』は、ブッカーのピアニストとしての真価を伝える音源ではないので、ぜひこのBOXを入手していただきたい!