©Tomoko Hidaki

埋もれた名作にも光を当てる、意欲的なデビュー作

 国内外のコンクールで入賞し、現在もリヨン国立高等音楽院マスター課程に在籍しながら、演奏活動を展開している角野未来。彼女の初めてとなるアルバムがリリースされたが、その選曲がとても興味深い。ドビュッシーとラヴェルという近代フランスを代表する作曲家だけでなく、彼らと同時代に生きていたが、長く埋もれていた女性作曲家メル・ボニス(1858~1937)の作品“伝説の女たち”を収録しているから。

 「メル・ボニスのピアノ曲はオーケストラ用にも編曲されていて、それをパリのフィルハーモニーでのコンサートで聴きました。そこから関心を持って調べ始めたのですが、300曲以上の作品を残していて、まだまだ埋もれている存在だということが分かりました。それで私の最初のアルバムではぜひ取り上げたいと思って、今回の録音に加えました」

角野未来 『Appels』 APPELS(2026)

 そのメル・ボニス作品“伝説の女性たち”は“メリザンド”に始まり、“デズデモーナ”“オフィーリア”“サロメ”など全7曲、7人の女性を音楽で描き出したポートレート集のような作品だ。聴き手が関心のある女性から聴き始めても構わないだろうとも(実際に筆者はオフィーリアから聴き始めた)思われるので、まず聴きたい女性から始め、最初から全7曲を聴いてみるなど、様々な聴き方ができる作品集だと思う。実際に近年の研究では、このタイトルは出版社によって付けられたものであるという事も分かったので、聴き手がそれぞれに想像を膨らませることも楽しいかもしれない。

 「彼女の作品には独自の和声の魅力があって、表現力が本当に豊かだと思いました。そこに加えるのは、やはり同時代に活躍したドビュッシーとラヴェルしかないと思い、“喜びの島”と“夜のガスパール”を選びましたので、同じ時代を生きた3人の音楽を楽しんでいただけたら嬉しいです」

 実はこのアルバムのタイトル〈Appels(アペール)〉はフランス語。〈呼びかける〉という意味だが、同じタイトルのレーベルも同時に創設するという意欲的な企画でもあるのだ。

 「このアルバムをきっかけに、もっと多様な作品や、知られざる作曲家の作品なども、レーベルとして展開して行けたら楽しいだろうなと考えています」

 メル・ボニスに限らず、まだまだいるはずの埋もれた作曲家を紹介して欲しい。ちなみにこのデビュー盤に収録されたドビュッシー“月の光”は配信がなく、CDのみでしか聴くことができない。ぜひアルバムを手に取ってみよう。