ジャズピアニスト西山瞳さんがメタルについて綴る人気連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回はカナダのプログレッシブ/ハードロックバンド、ラッシュについて。伝説的なバンドが再始動を発表して話題になっていますが、現在もメタルを中心に多くのバンドに影響を与えています。そんな彼らの音楽的な魅力を西山さんが紹介してくれました。 *Mikiki編集部

★連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉の記事一覧はこちら


 

亡き達人ドラマー、ニール・パートの後任が大絶賛されている!

少し前からSNSを賑わせているラッシュの〈Fifty Something Tour〉、とても気になっており、流れてくる動画を片っ端から見ています。

来日の知らせは、まだですか……!?

そろそろアナウンスありますよね!?

皆様ご存知、カナダのプログレッシブロックバンド、ラッシュは、ゲディ・リー(ベース/ボーカル/キーボード)、アレックス・ライフソン(ギター)、ニール・パート(ドラムス)から成る3ピースバンド。1974年から一貫してこのメンバーで活動しています。2015年にツアーを行い、2020年にニール・パートが亡くなって、誰もがもう二度とラッシュを見ることはできないと思っていたところ、2025年に活動再開をアナウンス。ドラムにアニカ・ニルスを入れて、2026年にニール・パートトリビュートのツアーをすることを発表しました。

え、本当に?と、世界中のファンが思ったと思います。

ニール・パートは伝説的ドラマー。要塞のようなドラムセットで、非常にアーティスティックで正確無比なドラミングをする。様々な音楽や文学への造詣も深く、達人オブ達人、芸術家オブ芸術家、世界中からリスペクトされ続けてきたドラマーです。どんな素晴らしいドラマーであっても、ニール・パートの後任は荷が重すぎる。

しかし、SNSで流れてくる6月からの北米ツアーは激烈な絶賛コメントが多く、テスタメントのアレックス・スコルニック(ギター)が〈これは見逃してはならぬ〉と長文を書いており、ニール・パート直系のドラマーであるマイク・ポートノイ(ドリーム・シアター)はすでにこのツアーを何度か聴きに行っているようで、ドラムのアニカ・ニルスを〈クイーン〉と大絶賛。

見たい……見たいでしょう、これは!?

アニカ・ニルスのInstagramもフォローしたので沢山動画が流れてくるのですが、その度に〈この新生ラッシュで日本に来てくれないかなあ。日本武道館ぐらい埋まるよね〉とずっと考えています。

アニカ・ニルス、お姿もめちゃめちゃ格好良いんですよ。

 

難しい曲をカラッと明るく聴かせる驚異的演奏

ラッシュはライブ盤も含めて作品数が多く、改めてディスコグラフィを見てみると、70年代から80年代にこれだけ内容の濃いアルバムをほぼ毎年リリースしていたことに驚きます。音楽の密度を考えると、驚異的なペース。

外せないのは『夜間飛行』(1975年)、『2112』(1976年)、『Moving Pictures』(1981年)あたりでしょうか。

ラッシュを代表する作品、皆大好き『Moving Pictures』は、3ピースバンドの演奏に加えシンセサイザーを全面的に使用した近未来的なサウンドで、プログレッシブロックのマスターピースとなっています。聴いたことがない方には、やはりここから聴くのをお薦めします。

RUSH 『Moving Pictures』 Mercury(1981)

同時代の他のどのプログレバンドより、ラッシュのサウンドはカラッと明るい。初期のハードロック時代から明るいですが、『Moving Pictures』ではシンセサイザーの多用のためより明るくオープンで、キャッチーな曲が多いです。

この時代のシンセサイザー使いって、後年聴くと時代を感じたりダサく聞こえたりすることが多いのですが、不思議とそれが全然ありません。全体の世界観、サウンドに対するビジョンが強固にあり、その実現のために音色や全体での音量も含めサウンドプロダクションが徹底されていたのだと想像します。シンセの音が少しでも浮くと、おそらく古く聞こえちゃう。今聴いてもまだ近未来感があるって、凄いことだと思います。

そして、代表曲“Tom Sawyer”、“YYZ”、“Limelight”などが収録されており、複雑な曲なのに明るくばっちり聴かせてしまう。驚異的な演奏。

ラッシュは、この時代のプログレのわりに、よいしょっ! せーの! えーい!みたいなのが無いんですよね(笑)。いや、よいしょっ!はめっちゃ良いんですよ。気合いと身一つで山を登っていくみたいな、人間の血と汗と涙って格好良いじゃないですか。

ラッシュはそういう演奏ではなくて、常にスマート、タイト。難しいことをしている感じがないんですよね。そして、神妙さとか重苦しさがなくて、展開のたびに常に上昇していき、明るく楽しい。

〈難しいことが難しく聞こえない〉、〈速い曲なのに速さを感じない〉、〈シンプルなことが物凄く格好良い〉、これらは全部ミュージシャンにとっては最大の褒め言葉だと思います。技術的に滅茶苦茶上手く、余裕があるということの証左です(2つ目は、メタルでは褒め言葉にならないかも?)。

 

ブラッド・メルドーもカバーしたラッシュとジャズの関係

実はNHORHMを始めた2015年、再びこのアルバムを結構聴いていました。カバーする曲を検討していたわけではなく、ドラマーの橋本学がラッシュとニール・パートの大ファンだったからです。

当時私のブログで、メンバー3人の音楽歴とメタル関連の情報を載せていたのですが、橋本さんのお薦めアルバム5枚は、『神話大全』、『新約・神話大全』、『Roll The Bones』、『Moving Pictures』と是方博邦『MR. HEART』という、5枚のうち4枚がラッシュでした(笑)。

当時教えてもらったのですが、ニール・パートは当然ジャズも叩いており、ぜひともバディ・リッチトリビュートコンサートの映像を見ろと。

ジャズを叩いても、このシンプルなドラムセットでも、圧倒的にニール・パートですね。

そしてジャズピアニストとして特筆しておきたいのは、素晴らしいジャズカバーのトラック。

ブラッド・メルドーの『Jacob’s Ladder』(2022年)に“Tom Sawyer”のカバーが収録されているのですが、私が感激した曲でプログレファンの皆さんにぜひ聴いて頂きたいのは、このアルバムのオープナー“maybe as his skies are wide”。

BRAD MEHLDAU 『Jacob’s Ladder』 Nonesuch/ワーナー(2022)

“Tom Sawyer”の歌詞の一節のモチーフを織物のように編み上げ、その上でインプロビゼーションもしながら短いトラックを作っていて、その神々しさ、美しさにノックアウトされました。元のメロディも綺麗なメロディですが、この短い一節だけしか使っておらず結構な改変なのに、ラッシュへのリスペクトと本質的な美しさに気付かせてくれました。

メルドー版“Tom Sawyer”は、原曲をリスペクトしてアレンジされています。

プログレッシブロックのジャズカバーって、難しいんですよ。原曲に要素が多すぎるから、アドリブする余地があまりない。その多い要素を全部盛りしてジャズとして演奏するだけでも凄いと思うのですが、中間部のうねるベースラインの上でギターソロに突入する部分を大幅に広げ、ブラッド・メルドー&マーク・ジュリアナとのユニット〈メリアナ〉の流れのアレンジとなっていて、メルドーの音楽のルーツにも発展にもラッシュが存在するという、メルドー自身の文脈を感じるトラックでした。

以前、この連載のどこかにも書いたかもしれませんが、

・ジャズは1しかない要素を、言語とコミュニケーションと技術で100にする音楽
・メタルは元々10の要素を、過剰な技術と過剰な音量で100にする音楽
・プログレは元々100ある要素を、100完璧に演奏してさらに上乗せし、しかもお釣りがこないと許されない音楽

みたいなことを、NHORHMのMCでよく話していました。

NHORHMでは、プログレもやって欲しいというリクエストが結構多かったのですが、それに対する返答というか、言い訳です(笑)(イングヴェイがカバーしていたU.K.の“In The Dead Of Night”は、イングヴェイ枠です)。

 

世界に君臨する理由はハードロックの推進力

ここまで『Moving Pictures』の話ばかりしてきましたが、私が一番好きで最も聴いているのは『夜間飛行』だと思います。

RUSH 『Fly By Night』 Mercury(1975)

2作目にあたる今作、まだこの頃の音楽性はプログレではなくハードロックですが、ロックのピュアに前進するエネルギーが尊い。そして、シャープでタイトなリズムで、サウンドの切れ味が鋭く、聴いていて滅茶苦茶に気持ち良いんですよ。

ラッシュは後にプログレッシブロックの世界を切り開いていきますが、初期のこの真っ直ぐなハードロックのエネルギーが根底にあるから、明るく開かれたプログレとして、世界に君臨するようになったのだと思います。

ツアースケジュールを見ると、2027年4月までヨーロッパツアーが決まっています。まだオセアニア、アジア地域は発表されていないので、日本にも来てくれることを期待しています。本当に……!!

 


■西山 瞳
LIVE INFORMATION
2026年10月23日(金)東京・小岩 COCHI
開演:20:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター)
ミュージックチャージ:3,000円
ご予約:COCHIオフィシャルサイト http://www.jazz-cochi.com//TEL 03-3671-1288

CD発売ライブ
2026年10月28日(水)神奈川・横浜 桜木町 Jazz Spot Dolphy
開演:19:30 ※2セット
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)
ミュージックチャージ:前売り 4,000円/当日 4,500円
ご予約:Jazz Spot Dolphyオフィシャルサイト https://dolphy-jazzspot.com//TEL 045-261-4542

2026年10月31日(土)埼玉・蕨 Our Delight
開場/開演:18:30/19:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)
ミュージックチャージ:3,500円
ご予約:Our Delightオフィシャルサイト https://ourdelight.blog.jp/

The Tree of Lifeコンサート
2026年11月3日(火・祝)東京・尾山台 um
開場/開演:14:30/15:00
出演:The Tree of Life 西山瞳(ピアノ)、安ヵ川大樹(ベース)、maiko(バイオリン)
ミュージックチャージ:予約 4,500円/当日 5,000円
ご予約:um予約フォーム https://um-musica.com/

西山瞳トリオ+3 CD発売ライブ
2026年11月7日(土)東京・新宿 PIT INN
開場/開演:13:30/14:00
出演:西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)、鈴木孝紀(クラリネット)、橋爪亮督(テナーサックス、フルート)、maiko(バイオリン)
ミュージックチャージ:3,500円(税別/1ドリンク付き)
ご予約:昼の部はご予約不要
オフィシャルサイト:https://pit-inn.com/

2026年11月14日(土)神奈川・横浜 馬車道 上町63
開演:15:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
ご予約:メール kanmachimusic@gmail.com/TEL 045-662-7322
オフィシャルサイト:http://jmsu.web.fc2.com/63/

西山瞳 Debut 20th Anniversary & New Album Release Live
2026年11月18日(水)愛知・名古屋 金山 Mr.Kenny’s
開場/開演:18:00/19:30 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、坂崎拓也(ベース)、倉田大輔(ドラムス)
ミュージックチャージ:予約 4,000円/当日 4,500円/学生 2,500円
ご予約:Mr.Kenny’sオフィシャルサイト https://www.mrkennys.com//TEL 052-881-1555

西山瞳 Debut 20th Anniversary & New Album Release Live
2026年11月21日(土)京都・祇園四条 Bonds Rosary
開場/開演:18:30/19:30 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、大塚恵(ベース)、齊藤洋平(ドラムス)
ミュージックチャージ:前売 3,500円/当日 3,800円(+2オーダー)
ご予約:Bonds Rosaryオフィシャルサイト https://bondsrosary.com//TEL 075-285-2859

★その他のライブ情報は西山瞳のオフィシャルサイトで

 

RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

 

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal II』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax  track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4

冠徹弥(from THE 冠)vocal   track 4

 

西山瞳 『Layer』 MEANTONE(2026)

リリース日:2026年9月9日(水)
品番:MT-16
価格:3,520円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作編曲、8のみ梶純編曲)
1. Tidal タイダル
2. Black Water ブラック・ウォーター
3. Arrakis アラキス
4. Ebonies エボニーズ
5. Relief #1 レリーフ1
6. Layer レイヤー
7. Dot ドット
8. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano,compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet
橋爪亮督 テナー・サクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute
maiko ヴァイオリン maiko violin

2025年11月15日 渋谷 公園通りクラシックスにてライブ録音

録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
ライナーノーツ:和田信一郎(s.h.i.)

 


PROFILE: 西山 瞳 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年に日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降、2作のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自身のバンドで録音したアルバム『Parallax』がスイングジャーナル誌の日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門の3位を受賞、コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表の『Music In You』はタワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン、CDジャーナル誌の2011年ベストディスクに選出されるなど〈芸術作品として重厚な力作である〉と高い評価を得る。2014年に自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義の2作目『Shift』を発表。同作の好評を受け、アナログでもリリースする。2015年にヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得、ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトのほかに東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供などで幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。