Layer』はジャズピアニスト西山瞳のデビュー20周年記念盤であり、2023年発表の『Dot』および2024年発表の『Echo』での取り組みをさらに推し進めた作品だ。メタルのエネルギーやストリームを管弦込み6人編成で換骨奪胎する試みはいっそう見事な形に結実し、ジャズやプログレッシブロックのような型に括りきれない個性を築き上げている。

今作では〈リフ〉が重要な軸となり、激しいインタープレイと微睡むようなアンビエント/ドローン感覚を自然に橋渡ししているのだが、そこには〈ドゥーム〉〈メタルコア〉〈ハードロック〉のような古今のメタルの知見が息づいている(筆者が担当したライナーノーツではそのあたりの話を主にメタルの文脈からまとめている)。今回のインタビューでは、そうしたところも含めた今作の成り立ちについて、掘り下げた話を伺うことができた。

西山瞳 『Layer』 MEANTONE(2026)

 

公園通りクラシックス移転前に行った〈拍手なし〉のライブ

――今作の企画が立ち上がった経緯はどうだったのでしょうか。

「渋谷の公園通りクラシックス(2025年末に一旦閉店したライブハウス)がこの場所から移転すると分かったとき、すぐ決めました。この編成はあそこから始まったので。新宿ピットインとかだとPAを通して演奏しますが、クラシックスはバイオリンやベースでアンプを使うくらいでほとんど生音なんです。その状態で録りたかったし、他ではなかなかできないので録っておこうと。

アルバムありきのライブというより、録ってから音源にするかを考えようと思っていました。私はそのとき体調が悪かったので(2025年4月から聴覚過敏が続いていた)んですが、〈この場所がなくなるタイミングでライブ録音をしなかったから後悔した〉ということが何回もあったんです。だから、とりあえず録っておこうと」

――今作は、ライブ当日(2025年11月25日)のセットリストとは曲順が違っています。アルバム構成はどうやって決めたのでしょうか。

「1曲目は“Tidal”にしようと決めていました。『Dot』のなかで、この曲が好きだという人が多かったのもあって。後はそこから決めていきました。一番入れたかったのは“Black Water”と“Relief #1”だったので、それらをどこに配置するかを考えましたね。

特に“Black Water”は、(自分の音楽を)メタルと繋げるという点でうまくできた曲でした。この2曲は、自分の成果物として出したかったんです」

『Layer』を録音したライブで観客に配られた〈拍手なし〉についてのお願い

――今作はライブアルバムですが、スタジオ録音作とは別枠なのか、オリジナルアルバムに連なるものなのか、どちらとして捉えていますか。

「そのあたりは曖昧な感じがします。ライブアルバムでもあるんですが、新曲も多いからスタジオ作に繋がる意識もある。拍手もないですからね(西山の耳へのダメージを防ぐため、拍手をしないでほしい旨が観客に伝えられていた)。ライブレコーディングということでただでさえ緊張感があったのが、拍手がなかったことでさらに緊張感が高まって。お客さんのほうが張り詰めていたくらいで、申し訳ないなと思いました(苦笑)」

 

奏者の考えやその場のストリームを止めないことが大事

――資料には〈本作は73:30と収録時間が非常に長いが、このBye Bye Blue Fishで終わらなければと思った〉と書かれていました。そのボリューム感と各曲の展開ペースが寄り添う感じがあって、ちょうどいい長さだと感じますが、西山さんとして収録時間が長いのは好ましくないですか。

「人間が集中できる長さはレコードだと45分くらいまでだと思うんです。特にジャズだと、ずっと違うことをしているから聴いていると疲れるので。

今作については、“Dot”で切るか、最後に一曲入れるかで悩んだんです。それで、アンコールとして演奏した“Bye Bye Blue Fish”を入れるほうが収まりがよかったので入れることに決めました。他者の目線が入ることで立体的になるかなという思いもあったので、この曲(梶純にアレンジを委託)を入れたかったのもあります」

――アルバムの構成について、ミニマルで抽象寄りのところから具象的で物語性が前面に出てくるところに至ります。資料では色彩感というキーワードも出していましたが、曲順構成の際、こういったことも意識しましたか。

「もやっとした曲の後に開けるような曲を置きたい、という思いはありました。ただ、もやっとしたところから開けるまでの間は、どの曲も時間がかかっている。長さに耐えてくださいという感じです」

――ただ、ジャズを聴く方であればこのくらいの長さの演奏は慣れている気もします。

「ライブだと長めになりがちですからね。ただ、サブスクだと10分以上の曲は別の形での申請が必要になるんです。なので、長いと好まれないんだろうなと思ってしまいます」

――『Dot』や『Echo』とは展開部が異なる曲も多いじゃないですか。これについては、事前に共有していたのでしょうか。

「特にしていなかったですね。“Tidal”はスタジオ版と同じサイズだと思うんですけど、“Arrakis”は長くなりがちで。オープン(各人の裁量で展開できる箇所)になったところで私がキューを出して次に行くことも多いんですが、スタジオ録音に比べればそのタイミングにゆとりがある。ミュージシャンの考えたことやその場で生じているストリームを止めないのが大事で、ギチギチになってしまうと良くない。迷ったら伸ばす、みたいな感じでやりました」

 

ジャズにおいて邪魔な〈リフ〉をテーマにした理由

――今作は〈リフ〉がテーマになっていて、一定のフレーズを繰り返す場面が多いから伸ばす流れにも対応でき、逆にそれをどれくらい続けるかが難しいということも生じると思います。リフをテーマとした理由はなんだったのでしょうか。

「最近聴くものがそちら寄りになっていたことが大きいです。メタルや好きなものを活かす方向を考えるとそちらに行く、というのもありましたし。ただ、意識してそうなったわけでもないです。

去年はスリープ・トークンにハマっていましたが、それ以外はメッサばかり聴いてましたね。新しいアルバム(『The Spin』)も、その前のアルバム(『Close』)も。あのバンドのバランス感覚が好きで。古い感じの音でもあるけど、面白いなと思います」

――リフを軸に音楽を捉える姿勢はいつ身についたのでしょうか。

「中高生のときに洋楽ロックとメタルを聴きだしたんですが、その頃はリフを重視してなかったと思います。それより、曲の構成やギタリストの個人技が気になっていました」

――メタルを意識的に聴き始めたのはいつ頃でした?

「1994年頃だったと思います。イングヴェイ(・マルムスティーン)が最初でしたけど、近いものとしてその前からクイーンやボン・ジョヴィも聴いていました。イングヴェイで一番ハマったのが『The Seventh Sign』だったのは覚えています。パンテラの『脳殺』も高校のときに聴いてました」

――イングヴェイというとギターソロに注目が集まりがちですが、リフも良いものが多いと思います。

「そうですね。イングヴェイでリフの強さを最初に感じたのはカバー集の『Inspiration』ですが、これはイングヴェイの曲ではない(笑)。ここに入っている曲はどれも好きです。“Child In Time”なんかも、ディープ・パープルの原曲を先に聴いていたのにイングヴェイのバージョンのほうが印象に残ってます」

――プレイヤーとしてリフを意識するようになったのはいつですか。

「ジャズにおいては、何も意識していなかったです。アドリブの中でリフを使って展開していく演奏の手法は意識していたんですが、曲の構造として見ると、ジャズだとリフは邪魔なんですよ。リー・モーガンの“The Sidewinder”のようなジャズロックは、変化しないことが面白いという、既存のスタイル(ビバップなどの即興を志向するもの)に対するカウンターだったわけじゃないですか。それは、ジャズの源流の一つである〈踊る音楽〉を追求していて、もちろんそれも良いけど、特に興味は持たなかったですね」

――ちなみに、好きなリフを挙げるなら何が思い浮かびますか。

「パンテラなら、『脳殺』に入っている“I’m Broken”は印象に残ってます。スラッシュメタルになると速さのインパクトが強くて、リフ云々というよりは勢いやパワー、エネルギーを聴いているのかもしれません。他には、(『Inspiration』でカバーされた)U.K.の“In The Dead Of Night”みたいな入り組んだものは楽しいなと思っていました。

イングヴェイで良いなと思うのは、速弾きのピッキングが綺麗なところ。そういう音に対する思想が好きだというのはあります。インペリテリとかがよく引き合いに出されますけど、音の立ち上がりやタイムが突っ込み気味なところが好きじゃないんです」

 

ディープ・パープルとリッチー・ブラックモアの影響を昇華

――リフって、サウンドや演奏のニュアンスも大事じゃないですか。そういう部分も意識されましたか。

「“Black Water”は、敷き詰める(同じフレーズを反復し続ける)のが私の役割なので、曇った音で小さくやろうと気をつけています。資料で〈ドゥーム系のものは、音が自然減衰するアコースティック楽器で演奏することで、間、空間が立ち上る〉と書きましたけど、スペースやレゾナンスに関しては、楽器や演奏する場所の状態に合わせています。〈こうしよう〉とあらかじめ決めてライブをやってもいいことにならないから、決まったものを練習してはいないですね」

――この曲の拍子、自分は9拍子とか4/4を4回+2/4を1回と考えて聴いています。こういう字余り的なフレーズはどこから出てきたのでしょうか。

「ああいうフレーズを弾いていて刻み心地がいいものを採用したら、結果的にこの拍子になったんです。〈拍子〉というより、フレーズの間にある空白、休符がどのくらい欲しいかという感覚でした」

――ここからは曲単位で質問したいと思います。“Arrakis”は長くなりがちだという話が出ましたが、今回の演奏はどういう感じに仕上がったと思いますか。

「最初にテーマが終わったとき、ピアノとベースでアドリブするパートがあって。そこはワンコードなんですけど、メジャーかマイナーかを決めずにやっていて、それが長くなるんですよ。ワンコードだとゆっくり進めていくから、カタルシスを得るまでの時間が長くなる。ライブはお客さんも一緒に〈連れていく〉ものなので、聴いてくれる人を信頼して余計長くなってしまうこともあります。

その後、サックスとバイオリンがアドリブするパートに渡してからは、そこまでの流れでボルテージが上がっているので長くはならないです」

――資料でリッチー・ブラックモアの名前が挙げられていて、確かにレインボーに通ずる中近東風味があるなと納得しました。これは最初から意識されていたのでしょうか。

「そうですね。ジャズでもそういう音階を使うものがあるので、近似性は感じていました。昔のアメリカのジャズミュージシャンにあった、エキゾチシズムへの憧れが反映された曲作りを面白いと思っていたんですけど、自分がそれを〈又聞き〉で実践するのも違うなと。井上淑彦さんの楽曲に、それをうまく自然な形で昇華した曲があって好きだったので、いつか自分でもトライしたかったんです。これは(ディープ・パープルの)“Child In Time”ですね」

――西山さん的に、リッチー・ブラックモアってどういう存在なのでしょうか。

「〈イングヴェイが好きな相手〉ですね(笑)。イングヴェイに比べると演奏のエグみが強い。高校のとき、イングヴェイの綺麗なピッキングに慣れてから聴くと、エグみをすごく感じました」

――ただ、70年代当時の基準からすれば整っているほうだと思います。

「そうですね。ブルースよりクラシックの影響を感じるのが特殊で面白いなと思いました。リッチー関連なら、レインボーの最初の3枚が好きですね」

――ディープ・パープルもレインボーもスタジオ盤に比べてライブ盤の演奏が大きく変わる、曲展開も拡張される傾向があって、そのあたりも今回のアルバムに通ずるなと思いました。

「確かに。パープルのライブってジャズっぽいですからね。その時々の即興でやっている感じや展開も。ジャムバンドみたいなところがありますし。

“Arrakis”ではハーモニックマイナースケールに取り組むというテーマもあったんですが、一番大事なそのスケールでアドリブするところはサックスに任せています」

 

スリープ・トークンなど現行メタルの〈救済感〉を分析

――次の“Ebonies”については、資料で〈自分のトリオでは、ライブ開始の1曲目はなるべくバラードを演奏し、音色を整えながら出発することにしている。その1曲目用として作曲した〉と書いています。アルバム全体でいうと、アンビエントやドローンに通ずる音響がハマっていて、曲順構成における大事な箸休めになっていて良いと思います。

「これは1曲目用に作ったので、細かいコンポジションをするというより、コースが緩やかだったりフリーインプロでできていたり、あと全部ルバートとか、そういう感じになりがちなんです。

トリオで何回もやっていたんですけど、そのまま6人編成でやったら音が小さすぎて。管弦の3人が我慢してくれていたので、窮屈にさせたかなと後で思いました」

――続く“Relief #1”がアルバムのトロというか肝みたいになっている印象ですが、この曲については、近年のメタルコアが備える個人の痛みをシェアし寄り添う〈救済感〉を意識したと資料で述べていました。

「最近のメタルって、ウィスパーを使うものも増えたじゃないですか。聴取環境の変化も影響しているのかもしれませんが、心と心が近い状態を目指すというか、(80年代までのメタルに顕著だった)〈強いものについていく〉のではないものが増えた印象で。ブリング・ミー・ザ・ホライズンの『amo』などが象徴的だと思います。

それを良い方向だなと思いつつ、どのバンドも手段が似通っていると思うんです。こういう印象がどこから生じるのかということを分析して、そのクセを使ってみようとしました。その1曲目がこれなんです。2曲目は中学生が作ったような曲になりましたが(笑)。

ただ、リフよりもコード進行のエモさ、それこそメジャーとマイナーをひっくり返していくようなカタルシスもあるんだなと思いましたね。

アンプロセストは、〈救済感〉のあるバンドの中でも複雑なことをしていて面白いと思って何曲か採譜しました。骨格は大したことをしていなくて、その中でテクニックを使っている曲も多かったです。一方で、ブラック・ミディみたいに要素が多すぎて切り貼りしたような音楽をやるバンドもいるじゃないですか。私としては、骨格がシンプルなもののほうが好きだなと思いましたね。スリープ・トークンの『Even In Arcadia』はすごく良くて、一枚丸々研究しました」

――スリープ・トークンだと、歌メロとバッキング、どちらが大事だと思いますか。

「どっちが大事だと言えないところがありますね。歌メロが大したことないところでも歌い方で〈大したこと〉になっちゃってますから。一つの要素が一つのところに留まっていないから、面白いと思って研究しました。採譜してみたら、やっぱり大したことをしてないんです。同じことを繰り返していても、歌い回しでメリスマが変わったりしていて。メロディーじゃなくてメリスマが変わっていくのがR&B的な歌い方なんだと感じます」

 

ピアノリフの刻みが追い立てる焦燥感

――そういう感覚がメタル経由でジャズに混入しているのが『Layer』の面白いところだと思います。タイトルトラックは、今作のなかで最もドローンやアンビエントに近いサウンドです。

「これは“Dot”の前奏の即興部分として作った曲です。各人に〈この音からこの音を目指してちょっとずつ進めてほしい〉とだけ伝えて、その間に私は“Dot”のサビをピアノで弾く。そうやって、靄の中から“Dot”を始めたかったんです。

演奏時間は、このくらいの尺に自然に落ち着いた感じです。もっと時間をかけたかったんですけど、こういうことをやったのも初めてだったので。台湾に八部合音という祈りの歌があるんですよ。20〜30人で輪になって、ピッチを段々上げていく歌を20分くらいかけて歌う宗教儀式みたいなものです。そういうのを目指したかったんですよね」

――そこから“Dot”に繋がりますが、スタジオ版との違いについてはどうですか。アルバム全体の流れでは、一気に音量が上がる箇所も出てきます。

「この曲は、最初はコップにちょっとしか水が入っていなかったのに気付いたら溢れていた、みたいな感じになればと思っていました。ライブでやると、お客さんが集中して聴いてくれていることから感じる圧もあるし、その場に人間がたくさん居ることが力になっているところもありますね」

――スタジオ版だと演奏がシームレスに続く印象ですが、今回のライブ版は6分頃に明確にブレイクが入りますね。

「ライブのときはそうなりますね。その箇所の一つ前がベースソロで、西嶋(徹)さんも〈いつもやめとこうと思うんだけど暴れちゃう〉と言ってました(笑)。ピアノの音を一定の間隔で刻んでいると、追い立てられるような感じになるので。このピアノのフレーズは弾いてるとゲシュタルト崩壊してくるんです(笑)。いま何拍子の何をやってるんだろうって。シューベルトの“魔王”の右手で連打する部分とか、ピアノでそういうことをやると焦燥感や追い立てる感じが強く出ると思います。そこから奏者が変わって、私の独り語りのコーナーになり、全員合奏へ繋がります」

――そして、 “Bye Bye Blue Fish”での大団円に繋がります。

「この曲は、もともとセッションライブでよく演奏していたんです。ピアノトリオでやっていて、ライブに来てくれるお客さんには定番だったんですが、アルバムに収録する機会がなくて。去年のソロ録音(『Songs』)に入れたんですけど、アンサンブルの曲なので、いつか収録したいなと思っていました。

それで、『Dot』や『Echo』の6人編成で最初にライブしたとき、ライブ1回分のレパートリーを揃えられるか自信がなくて、親交のあるオーケストレーターの梶純さんにこの曲のアレンジを依頼したんです。映画音楽をやっていて、ストーリーを組み立てる力が強力にある音楽家なので。この曲自体がストーリー性のはっきりしている曲なので、彼にやってもらえたらと。

それで出来たものは、私が『Dot』『Echo』で体現しようとしたことと違うんですが、曲自体は私のものだし、モノクロな世界を描いているアルバムからこういう色があるところに至るのは大きなカタルシスになる。何より梶さんのことを尊敬していて、この編成に最初から関わってくれたから、アルバムにちゃんとクレジットしたいという思いもあって。それで収録を決めました」

 

会場の音響を活かして捉えた生々しい演奏

――西山瞳トリオ+3という編成を長く続けていますが、メンバーの演奏表現についてはどう思っていますか。

「一人一人が付き合いの長い方々で、クラリネットの鈴木(孝紀)さんは20年ほどの付き合いになります。なので、何も言わなくてもわかってくれる人ばかりです。誰かが欠席したからトラ(代役)を入れることは考えられないですね」

――それから、公園通りクラシックスの特性が、サウンドや演奏に影響を及ぼしていると思うのですが。

「そうですね。ジャズに限らない箱だから響きもありますし。ジャズ箱だとデッドになりがちなんですけど、そういう感じもなく、自然にやらせてくれるところでした。

私はいつも会場(のレイアウト)を横に使っていたんですね。あの編成の場合、天井のコンクリートやパーテーションの塩梅も考えて、お客さん全員が綺麗な音で聴けるようにするには横配置が良かったんです。奏者がみんな自力でボリュームを調整して、それが音源にも反映されているので、そのあたりの生々しさも楽しんでもらえたらと思います」

――録音のマイクはどこに置きました?

「真ん中ですね。ベースかピアノの前です。みんなでマイク1本を囲んで演奏しました。お客さんもキャンプファイアー状に座ってもらって」

 

レディオヘッドなど西山瞳がいま聴いている音楽

――『Dot』、『Echo』、そして『Layer』とメタルから受けた影響に取り組む作品が続きましたが、あくまでストリームやエネルギーといった概念の話で、メタル的な質感に取り組んだわけではないとのことです。逆に、ギタリストと共演してメタルに取り組むことを考えたことはありますか。

「ないですね。メタルに関しては、私はお客さんでいたいから(笑)。それと、ジャズに慣れきってるから、自分でやるものとしては固定のバンドが好きじゃないんでしょうね」

――それでは、リスナーの立場として、メタルその他の領域で注目されている方はいますか。

「日本のバンドのEND ALLの新しいアルバム『HAIL MIND』が良かったです。ずっとスラッシュをやっていたのにポップになったり広がりが出ていたりして。こういうバンドの飛躍に立ち会えるとワクワクします。

それから、新譜ではなく〈聴き逃していた歴史的名盤シリーズ〉ですけど、ジョージ・ラッセルの『The Jazz Workshop』をめっちゃ聴いてました。なんでこんな大事なものを聴き逃してたんだろうって。

それと、〈こんなに良いアルバムだったんだ〉と今さら思ったのが、レディオヘッドの“Pyramid Song”が入ってるアルバム(『Amnesiac』)で、よく聴いてましたね」

―― “Pyramid Song”は現代ジャズの人たちがよくカバーしている曲でもありますね。この時期のレディオヘッドはチャールズ・ミンガスから影響を受けていて、“Pyramid Song”は過去と現在のジャズと深い関わりを持つ曲です。

「『デアデビル:ボーン・アゲイン』の最後でこの曲が流れるんですが、今聴いても全然古くない。以前は興味がなかったんですが、面白いなと思って聴いてました。

新譜だと、ヒューマン・ビーイング・ヒューマン&クリス・チークの“Human Lights”がすごく良くて、よく聴いてました。

それから、今年4月にOffice Osawaの企画でツアーをしました。Office Osawaはジャズ方面では知られた事務所なんですが、ノルウェーなどの欧州の新進アーティストを呼んで日本でツアーを組んでいるんです。私のツアーの一つ前にやっていたのがアック・クインテット(Akku Quintet)というスイスのバンドで、ライブには行けなかったんですが、音源が良くて結構聴きました)」

 

聴覚過敏との闘いと今後の活動

――ありがとうございます。最後に今後の活動方針について、ご体調なども含めて伺いたいと思います。

「今回の編成が落ち着いたら、もともとやっていたトリオをちゃんとやりたいと思っていたんですけど、ベーシスト(佐藤“ハチ”恭彦)が亡くなって続けられなくなってしまいました。今はまだ、次のことはあまり考えられないですね。

耳は聴覚過敏になっていて、つらいときは響きすぎてピントが合わない感じです。日によって症状が変化することもあり、編成や会場は気にしてますね。以前悩まされていためまいは今は出ていなくて、一番しんどかった状態からは脱してきています。

コンサートホールの拍手が一番きつくて、突然の破裂音やボリュームが変化することがしんどいようです。メタルのライブは意外と大丈夫なんです。もともと耳栓して聴いていますし、最初から最後までボリュームが一定してうるさいですから(笑)」

――ありがとうございます。今作も素晴らしいアルバムですし、無理のない活動をしていただけますと幸いです。

 


RELEASE INFORMATION

西山瞳 『Layer』 MEANTONE(2026)

リリース日:2026年9月9日(水)
品番:MT-16
価格:3,520円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作編曲、8のみ梶純編曲)
1. Tidal タイダル
2. Black Water ブラック・ウォーター
3. Arrakis アラキス
4. Ebonies エボニーズ
5. Relief #1 レリーフ1
6. Layer レイヤー
7. Dot ドット
8. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano,compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet
橋爪亮督 テナー・サクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute
maiko ヴァイオリン maiko violin

2025年11月15日 渋谷 公園通りクラシックスにてライブ録音

録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
ライナーノーツ:和田信一郎(s.h.i.)

■録音について
会場の公園通りクラシックスは、2025年末にこの場所での営業を終了。その前に、記録としてライブ録音を実施した。Sennheiser Amber VRマイクを中心に、6人が中心を向く配置で録音。観客50名もそれを囲む形で着席。西山の難聴のため、観客には曲間の拍手無しをお願いして、レコーディングライブを開催した(西山はこのライブの後4か月間、演奏活動を休養。現在は回復)。

 

LIVE INFORMATION
『Layer』発売ライブ

2026年9月14日(月)東京・池袋 Apple Jump
開演:19:30 ※2セット
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)
ミュージックチャージ:3,500円
住所:東京都豊島区西池袋3-33-17 東武西池袋サンライトマンションB1
TEL:03-5950-0689
オフィシャルサイト:https://applejump.net/

2026年10月28日(水)神奈川・横浜 桜木町 Dolphy
開演:19:30 ※2セット
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)
前売り/当日:4,000円/4,500円
住所:神奈川県横浜市中区宮川町2-17-4 第一西村ビル2F
TEL:045-261-4542
オフィシャルサイト:https://dolphy-jazzspot.com/

2026年11月7日(土)東京・新宿 PIT INN
開場/開演:13:30/14:00 ※2セット
出演:西山瞳トリオ+3 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)、鈴木孝紀(クラリネット)、橋爪亮督(テナーサックス/フルート)、maiko(バイオリン)
ミュージックチャージ:3,850円
住所:東京都新宿区新宿2-12-4アコード新宿 B1
TEL:03-3354-2024
オフィシャルサイト:http://pit-inn.com/

2026年11月18日(水)愛知・名古屋 金山 Mr. Kenny’s
開場/開演:18:00/19:30 ※2セット
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、坂崎拓也(ベース)、倉田大輔(ドラムス)
予約/当日:4,000円/4,500円(いずれも+2オーダー)
住所:愛知県名古屋市中区金山5-1-5 満ビル2F
TEL:052-881-1555
オフィシャルサイト:https://www.mrkennys.com/

2026年11月21日(土)京都・祇園四条 Bonds Rosary
開場/開演:18:00/19:30 ※2セット
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、大塚恵(ベース)、齊藤洋平(ドラムス)
前売り/当日:3,500円/3,800円(いずれも+2オーダー)
住所:京都府京都市東山区廿一軒町236 鴨東ビル3F
TEL:075-285-2859
オフィシャルサイト:https://bondsrosary.com/

 


PROFILE: 西山 瞳
1979年生まれ。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデン録音の1stアルバム『Cubium』でデビュー。2007年には日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、以降、2作のスウェーデン録音作品をリリース。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)のジャズ部門で3位を受賞。2011年発表の『Music In You』は、CDジャーナル誌の2011年ベストディスクに選出されるなど〈芸術作品として重厚な力作である〉と高い評価を得る。2015年にヘヴィメタルの名曲をカバーするユニットNHORHMを始動させた。アルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』は発売前よりヘヴィメタルとジャズ両面から話題になり、ジャンルを超えたベストセラーとなった。以降、文筆活動も通じてジャズとヘヴィメタルを横断した活動を継続中。タワーレコード運営のサイトMikikiにて継続中の連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉は同サイトで圧倒的人気を誇る。全国のジャズフェスティバルやコンサートホール、ライブハウスなどで演奏。これまでに27作品のアルバムをリリースし、いずれもジャズチャート上位にランクインを続け、文筆活動を通じてのメディアの活動も多い。オリジナル曲は高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。
オフィシャルサイト:https://hitominishiyama.net/

PROFILE: 西嶋 徹
1973年、東京生まれ。5歳でヴァイオリンを始め、高校でベースへ転向。ジャズとアルゼンチンタンゴを軸に綾戸智恵や葉加瀬太郎、パブロ・シーグレルら多数のアーティストの作品や舞台に参加する。林正樹との『El retratador』やソロ作『Phenomenology』、Remboato名義の作品などリリースも多数。現在は自身のプロジェクト幽けき刻をはじめ多くのグループで、ジャンルを超えて国内外のライブシーンで幅広く活動中。

PROFILE: 則武 諒
名古屋出身。14歳のときにドラムに出会い、ヘヴィメタル、ハードロックなどから影響を受けるが、次第にジャズや即興音楽に傾倒する。甲陽音楽学院、バークリー音楽大学(B.M. Summa Cum Laude)を経てニュージャージーのウィリアム・パターソン大学にて音楽修士号(M.M.)を取得。帰国後は名古屋を中心に活動したのち、2014 年頃に上京し、活動の幅を広げる。間や質感を大切にした演奏を信条とし、様々なミュージシャンのライブ、レコーディングなどに参加している。

PROFILE: 鈴木孝紀
大阪音楽大学卒業後、クラシック奏者を経たのち、ジャズに傾倒する。2015年からオリジナル曲を収録したアルバムを自身のユニットで発表。2018年、キューバ・ハバナで行われた〈日本人キューバ移住120年記念コンサート〉に日本政府より派遣され出演。2024年、〈なにわジャズ大賞〉を受賞。2025年に大阪フィルのメンバーとモーツァルトの楽曲を録音したアルバム『Timeless Stories』を発表。2026年に自作曲が世界的ファッションショー、パリ・コレクションのランウェイで起用され高い評価を得ている。

PROFILE: 橋爪亮督
岡山大学在学中、ボストン・バークリー音楽大学から奨学金を受け渡米。1996年、同校のジャズ作曲科を卒業。2作のリーダー作をアメリカでリリースし、1997年に帰国。2006年、国内初となるリーダー作『WORDLESS』をリリース。全曲オリジナルによる自身のグループや、管楽器に加えアナログシンセサイザーも自身で演奏する完全即興のプロジェクトDARK MATTERなどを中心に、新宿ピットインをはじめ首都圏ライブハウスなどで活動中。NHK-FM「セッション2010」「セッション2019」に橋爪亮督グループで出演。

PROFILE: maiko
神戸市出身。京都市立芸術大学音楽学部卒業。ジャズバイオリニスト寺井尚子に師事。2001年からの8年間で2,000回を超える圧倒的な数のライブパフォーマンスをおこない、独自のジャズスタイルを確立する。〈第19回 浅草ジャズコンテスト〉でベストプレイヤー賞、2001年に〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉で向井滋春賞を受賞。コンポーザーとしての才能も高く、歌心あふれるオリジナル曲は好評を博している。2015年より伴奏者のいない完全なソロバイオリンのライブにライフワークとして取り組んでいる。

PROFILE: 梶 純
12歳でトランペットを始め、16歳で単身渡米。ハート音楽院音楽学部作曲科および音楽理論科を、いずれも最優等位(Summa Cum Laude)で卒業。その後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校エンターテインメント学部映画音楽作曲科を修了。ハリウッドのメジャースタジオ作品や舞台作品などに作曲家、オーケストレイター、脚本家、映像編集者、プロデューサーとして幅広く携わる。2020年、COVID-19のパンデミックをきっかけにオーケストラ専門のマスタリングにも活動を広げる。現在は高松を拠点に、映画館とマスタリングスタジオを併設したペンギン館で音楽制作や後進の教育に取り組んでいる。