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カヴァー曲選びからも平和への願いはひしひしと

Are You Ready
アイズレー・ブラザーズ“Shout”をカヴァーしたこともあるチェンバース・ブラザーズの69年曲。チェンバース4兄弟を中心としたグループの歴史は50年代にまで遡るが、サイケデリック・ソウルの気運に同調した、この血湧き肉躍るファンクはロックやラテンの感覚もあり、同時期に出世したサンタナやアイズレーズが取り上げたのも納得だ。

 

Total Destruction To Your Mind
60年代からシングルを残し、裏方業にも勤しんでいたジェリー・ウィリアムズがスワンプ・ドッグと改名して70年に発表したファースト・アルバムの表題曲。ジョージア州の名門カプリコーン・スタジオで録音されたファンク・ロック調のサザン・ソウルで、黒人ながらミック・ジャガーに通じるハイテナーの歌声がロック感を一層強める。同じ頃のアイズレーズにも近い。

 

Higher Ground
ニュー・ソウル期を代表するスティーヴィー・ワンダーの73年作『Innervisions』に収録されたクラヴィネット炸裂のファンク・ソウル。人々を高みに導く歌で、このドライヴ感溢れるサウンドやポジティヴなメッセージは翌74年にアイズレーズが出した『Live It Up』に受け継がれた気がしなくもない。今作でのカヴァーはレッド・ホット・チリ・ペッパーズ版に通じる激しさもある。

 

God Bless The Child
近年ではホセ・ジェイムズも歌っていたビリー・ホリデイの名曲。ゴスペル・フィーリングを備えたこのナンバーはビリーが40年代初頭に発表して以降、多くのアーティストにさまざまな解釈でカヴァーされてきたが、今作でのサンタナ&アイズレーズ版はサビのバック・コーラスがインプレッションズの“People Get Ready”を思わせ、ロナルドの歌と共にリスナーを優しく鼓舞する。

 

Body Talk
元テンプテーションズのエディ・ケンドリックスが発表したソロ6作目『The Hit Man』(75年)に収録。プロデュースをフランク・ウィルソンとレナード・キャストンが手掛け、西海岸の腕利きがバックを務めたスムースなナンバーで、今作でのカヴァーは比較的オリジナルに忠実。同じファルセットでもエディとはタイプの違うロナルドが歌うおもしろさがある。

 

Gypsy Woman
カーティス・メイフィールド率いるシカゴの名門ヴォーカル・グループ、インプレッションズが61年に放った初期ヒット。作者はリードを歌うカーティスで、ファルセット系の声はロナルドに通じてもいる。アイズレーズはカーティスのトリビュート盤『A Tribute To Curtis Mayfield』(94年)でインプレッションズ“I'm So Proud”を歌い、後にカーティスのソロ曲“Think”も取り上げた。

 

I Just Want To Make Love To You
ウィリー・ディクソン作のブルースで、マディ・ウォーターズが54年に吹き込んだもの(当初のタイトルは“Just Make Love To Me”)が最初だが、これをマディがスライやジミヘンの向こうを張るような前衛電化ブルース・アルバム『Electric Mud』(68年)で再演したものが今回のカヴァーの元になったのだろう。ギタリストとしてアーニーも刺激を受けていたはずだ。

 

Love, Peace, Happiness
チェンバース・ブラザーズ作品からもうひとつ。フィルモア・イーストでのライヴ盤との抱き合わせでリリースされた同名タイトルのアルバム(69年)に収録された、まさしく愛と平和と幸福を謳ったフラワー・ムーヴメント全盛期らしいサイケ・ロック曲だ。思えばサンタナも60年代後半にフィルモア(・ウェスト)のライヴで世に登場した。

 

What The World Needs Now Is Love Sweet Love
バート・バカラック&ハル・デヴィッド作。65年にジャッキー・デシャノンが歌い、カヴァーも多いが、反戦を唱えた〈世界は愛を求めてる〉という邦題通りのメッセージは、スウィート・インスピレーションズのゴスペル歌唱でより説得力を持つ。ロナルドとバカラック曲の相性の良さは彼の2003年作『Here I Am』でも証明済み。

 

Mercy Mercy Me (The Ecology)
一時期はアイズレー・ブラザーズとモータウンの同僚でもあったマーヴィン・ゲイの社会派アルバム『What's Going On』でA面の最後を締め括った名曲。サブ・タイトルが示すように地球の環境破壊を嘆いた歌で、2017年の現在にも通じてしまうが、アイズレーズもほぼ同時期のアルバム『Brother, Brother, Brother』(72年)で疲弊した米国の気分を伝えていた。

 

Let The Rain Fall On Me
サンタナの73年作『Welcome』や74年のライヴ盤『Lotus』のソースとなった来日公演にも参加している前衛ジャズ・シンガー、レオン・トーマスの曲。ヨーデル唱法でもお馴染みの彼が69年にフライング・ダッチマンから出した初ソロ作『Spirits Known And Unknown』収録のピアノ・バラードで、スケールの大きいリオンの歌やフルートの音色が映える。ロナルドが歌っても違和感がない。

 

Let There Be Peace On Earth
邦題通り〈地上に平和を〉という願いを込めてサイ・ミラーとジル・ジャクソンの夫妻が書いた55年の曲。もともと子どもたちのクワイア用に書かれたこれはクリスマス・ソングとしても知られる聖歌で、一般的にはヴィンス・ギルが娘ジェニーと歌ったヴァージョンがよく知られているだろう。主題としてはアイズレーズ“Harvest For The World”に近いものがある。