サンタナとアイズレー・ブラザーズの濃密な魂の交感
ひと粒で何度美味しいんだよ?って話。キャリア63年を誇るソウル・グループとデビュー48年目のラテン・ロック・バンドの初コラボ・アルバム『Power Of Peace』が最高だ。サンタナとアイズレー・ブラザーズがアルバム作りに着手しているらしい……との噂が流れたのは、ロナルド・アイズレーをゲストに迎えたサンタナの2016年作『Santana IV』がリリースされて間もなくの頃。正調ラテン・ロックにロナルドの噛み付くような歌を乗せた『Santana IV』での2曲の出来が素晴らしかっただけに、〈あれだけで終わらせるのはもったいない〉という気持ちが当事者たちに働いたのは想像に難くないが、振り返れば両者は元来何かと触発し合う間柄だった。“Twist And Shout”をはじめとするアイズレーズのヒット曲に心酔していたカルロス・サンタナ、片やアイズレーズもサンタナの音楽に畏敬の念を抱いていたそうで。例えばアイズレーズは73年作『3+3』収録の“That Lady”でその時代に一世を風靡したサンタナのラテン・ロック感覚を注入していたし、同曲をサンタナが90年作『Spirits Dancing In The Flesh』でカヴァーするなど、さまざまなインスピレーションの交感が行われてきたわけだ。
THE ISLEY BROTHERS, SANTANA 『Power of Peace』 Legacy/ソニー(2017)
1曲のオリジナルと12のカヴァー曲から成る『Power Of Peace』は、サンタナ側のラヴコールが叶い、彼ら主導で作られた。2010年作〈Guitar Heaven〉でも披露していた、客人の魅力を巧みに引き立てながら官能的なプレイで縦横無尽に絡み付くサンタナ流儀のもてなし方は冴え渡り、ロナルドの歌声とアーニー・アイズレーのギターの魅力を熟知したうえでのベストなコーディネートが実現。ソウル、ジャズ、ラテン、ブルースなど雑多な曲調が揃い、ごく自然に多面的で多角的になっているのも平常通りだ。カルロスとアーニーのギターが唸りを上げる場面ではラフな勢いが良い具合に作用しているし、何よりレイドバックに寄っていく箇所は皆無。それぞれの醸すメロウネスが見事なほど溶け合っている点に、両者の魂の繋がりを確認できよう。また、カルロスの永遠のアイドルであるガボール・ザボ風のエキゾなフレーズが味わい深い“Gipsy Woman”を筆頭に膝を打ちたくなる名演は多く、“Mercy Mercy Me(The Ecology)”の終盤でいかにもな泣きのギターが飛び出すほか、サンタナ好きにとってキュンキュンするポイントが散りばめられているのも楽しい。
そんな本作から痛切に伝わってくるもの。それは〈いまこそ平和への願いと愛の大切さを発しておかねば〉という切迫感にも似た心持ち、そして〈この音楽を形にしておかねば〉という強い意志だ。〈後悔しないためにも、ここでアクションを起こそう!〉といった湧き上がる感情に従って作られたように思えて仕方ない。でも一番胸を打つのは、よりハイヤー・グラウンドをめざそうとする両者のミュージシャンとしての姿勢かも。それを受け取ったこちらはただただ感謝しかない。 *桑原シロー
本文中に登場した作品。
『Power Of Peace』に参加したアーティストの作品。