ペルー生まれの日系3世、エリック・フクサキ。2009年秋、18歳の時に演歌歌手を志して単身来日し、ポップ・デュオ、アルマカミニイトでの活動を経て、昨年春にカヴァー・シングル『信じるものに救われる/すべての悲しみにさよならするために/追憶』でソロ・デビューを果たした彼だが、1年4か月ぶりとなるニュー・シングル『Ai Yai Yai !/行かないでセニョリータ』で決意新たに、シンガー・ソングライターとしての第一歩を踏み出した。

エリック・フクサキ Ai Yai Yai!/行かないでセニョリータ hachama(2015)

 「日本に来てからずっと作曲はしてたんですけど、いつも途中で諦めちゃってたんですね。良くも悪くも完璧主義というか、考え過ぎちゃって。そもそも、経験も浅かったし、日本での友人も少なかったので、見てる世界が狭かったんだと思います。それが、とあるミュージシャンの方からジャム・セッションに誘われたことをきっかけに、いろんな人たちと交流する機会が増えていったんですね。ライヴ・バーで演奏を聴いたり、ミュージシャンや音楽好きの人たちと話をしていると、〈音楽って頭で考えるものじゃないな、もっと深く感じなきゃ〉って思えるようになって……そしたら急にインスピレーションが降りてきたんです。以前よりいろんな音楽を聴くようになったのも大きいし、ジャズとかファンクとかブルースとか古い音楽も聴きはじめたり、あとは相変わらず演歌も。それでまた〈曲を作ってみよう!〉って」。

 両A面となっているうちの“Ai Yai Yai !”は、コンガやティンバレス、ピアノ、ブラスなどが華やかさを添えるラテン・フレイヴァーのポップ・ナンバーで、日本語詞は、彼が書いたスペイン語の歌詞を三浦徳子(70年代から数々のヒット曲を手掛けてきた作詞家)が解釈したものだ(スペイン語ヴァージョンはカップリングに収録)。リズミカルで楽しいサウンドのなかにも、日本人に訴えかける情緒的なコード感をさりげなく忍ばせているあたりは、ペルーで生まれ育ちながらも演歌や歌謡曲を好み、そのわびさびも知る彼らしさと言えるだろう。

 「深く感じなきゃ、感じない限り歌は生まれない。完璧である必要はないし、ありのままの自分を見せればいいーーそう思って作曲をするようになってからは、子供の頃から日常的に耳にしていた音楽が身に付いていたことに気付いたんです。“Ai Yai Yai !”で採り入れているフェステホ(アフロ系のダンス音楽で、12/8のビートを刻む)みたいに、日本の人にはわかりづらいリズムも子供の時から学校で習わされてましたし、そういう環境で育った僕のグルーヴ感が自然に出てくるんですよね。で、使ってるコード・スケールはペンタトニックっていう、日本人が親しみやすいものだったりして」。

 一方の“行かないでセニョリータ”は、スパニッシュ・テイストのメロディアスなナンバーで、〈ラテン歌謡〉とでも呼びたくなるノスタルジアを感じさせるもの。

 「この曲は、いろんな悩み事だとか、ネガティヴな感情をメロディーにぶつけてみた曲なんですね。ネガティヴなエネルギーもポジティヴに変えられるんじゃないかって。リズムはラテン、メロディーは歌謡曲ですけど、ギター・ソロではフラメンコ……今回の2曲に限らず、自分が作曲するうえで〈文化交流〉は大きなテーマなんですよ」。

 ペルーと日本ーー2つのルーツをベースに、さまざまな音楽を貪欲に吸収しながら、最近では自分が歌えないようなアイドルっぽい曲も出来たり、作曲が趣味のようにもなっているというエリック。

 「いろいろ試してみることは大事で、間違ってもいいけど、いちばんは最終的な自分。格好悪いって言われても、格好良くなるんだって思ってることが大事だと思います。いろいろ悩んだり、気持ちの変化もあったけど、いまはペルーで歌手を志していた頃の情熱が100倍ぐらい大きくなってますね」。

 

エリック・フクサキ
91年生まれ、ペルーはリマ出身のシンガー・ソングライター。10歳で演歌に魅了され、17歳の時には本国でのオーディションや歌謡コンクールで優勝を果たす。2009年に演歌歌手を志して来日し、宮沢和史主催のイヴェントなどに出演を重ねていく。2011年にオーディション〈FOREST AWARD〉で特別賞を受賞し、翌年に2人組のアルマカミニイトとしてデビュー。2013年よりソロ活動を開始し、2014年4月に『信じるものに救われる/すべての悲しみにさよならするために/追憶』でソロ・デビュー。今年に入ってTV番組「水曜歌謡祭」へのレギュラー出演も話題を集めるなか、ニュー・シングル『Ai Yai Yai !/行かないでセニョリータ』(hachama)をリリースしたばかり。"