期待の印象派が初の公式盤で描き出した、エレクトロニックな音の絶景

 星野源の話題作を丸ごとリミックスした『印象I: 黄色の踊り』、宇多田ヒカルの復活作を素材にした『印象VII: 幻の気配』など、ブートレグな再構築/カヴァーを行う〈印象〉シリーズによって、ライヴ・パフォーマンスでも顕著なヒップホップ/サンプリング・アートの醍醐味を追求してきた京都のクリエイター、TOYOMU。なかでもシリーズ第3弾として今年3月に発表された『印象III: なんとなく、パブロ』は、その時点で日本では聴けなかったカニエ・ウェスト『The Life Of Pablo』を想像だけで構築するという試みで、その発想が瞬く間に世界中から注目を集めることとなったのも記憶に新しいだろう。

 そんなシンデレラ・ボーイが、このたびオフィシャルとしては初となるEP作品『ZEKKEI』をリリースした。

TOYOMU ZEKKEI TRAFFIC(2016)

 ネタのサンプリングを禁じ手にして臨み、胸いっぱいに吸い込みたくなるクリアで清涼感溢れるエレクトロニクスを基調にした本作が、単なるチルなエレクトロニカの佳作で終わらないのは、J・ディラトラッププログレヴェイパーウェイヴなどを並列に置くデジタル・ネイティヴなディガー魂が豊かなビートの語彙から滲み出てくるからだろうか。Seihoとの〈apostrophy〉などで注目を集めるKiyoshi MatsumaeによるファンタスティックなMVも話題の“The Palace”や、地元の猿山で採取したという自然音にスクリューしたクォンタイズ・ビートがたゆたう桃源郷“Social Grooming Service”など、文字通りの〈絶景〉なサウンドスケープが並ぶ全5曲。主宰するイヴェント/コレクティヴ〈Quantizer Kyoto〉の活動も含めて期待するほかない新たな才能が、ここに息吹いております。