男女混成の5人組、LILI LIMITが昨年10月に発表したファースト・アルバム『a.k.a』に続く新EP『LAST SUPPER EP』を完成させた。日本のポスト・ロック譲りの構築的なバンド・アンサンブルと、オーガニックなエレクトロニクスの融合は、アートワークへのこだわりも含めて非常にアーティスティックでありながら、〈自分たちの土俵はあくまでJ-Pop〉とするスタンスは、ある意味今の若手バンドらしい。しかし、まるでエッセイストのように日常の風景を巧みに切り取る牧野純平(ヴォーカル)の歌詞と、プロデューサー/エンジニア気質の強い土器大洋(ギター)のサウンドメイキングを軸とした楽曲からは、その他大勢のバンドとは明らかに一線を画す、新たなポピュラリティーの萌芽が確かに感じられる。
『LAST SUPPER EP』は、〈衣食住〉をコンセプトとしたEP3部作の〈食〉にあたる2作目。よりメンバー1人1人の顔が見える曲作りへと移行し、柏井日向、土岐彩加、葛西敏彦という3人の個性的なエンジニアを迎えて制作された本作は、バンドの持つポテンシャルの大きさを改めて示す一枚となったと言えるだろう。〈バンドがネクスト・ステージに行くことで、『a.k.a』の存在をもっと多くの人に知ってもらいたい〉という牧野に、LILI LIMITの現在地を訊いた。
道端でおじさんが歌っている鼻歌に見た〈アートの本質〉
――LILI LIMITのベーシックには〈バンドの生演奏とエレクトロニクスのオーガニックな融合〉があると思うのですが、その音楽性はどのように構築されたものなのでしょうか?
「メンバーが5人になったときに、〈シンセを入れたらどうか?〉という話になって、当時で言うと、ミューとかパッション・ピットとかの影響を受けつつ、自然な流れでそこが自分たちのアイデンティティーになっていった感じですね」
――ルーツとしては、ネイキッド・アンド・フェイマスの名前もよく挙げていますよね。
「そうですね。バンド・サウンドからどんどんエレクトロ寄りになっていく流れも含めて、ネイキッドにはすごく影響を受けていると思います。もともとはバンド・サウンドがメインだったから、ミューのタイトルがめちゃくちゃ長いアルバム(『No More Stories…』※)あたりの影響が大きかったんですけど、今はネイキッドの作品ごとにエレクトロ要素が増えていく感じに影響を受けていて、去年リリースしたアルバム(『Simple Forms』)もすごくよかったですね」
※ミューの2009年作。正式名要は『No More Stories Are Told Today, I'm Sorry They Washed Away // No More Stories, The World Is Grey, I'm Tired, Let's Wash Away』
――でも、LILI LIMITはネイキッドみたいなスケール感のあるサウンドとはまたちょっと違いますよね。
「そこが難しいところというか、僕らはJ-RockというよりもJ-Popでやっていきたいと思っているバンドなので、スケール感が出ちゃうと、洋楽的なサウンドに走っちゃうと思うんです。そこのバランスは常に考えているんですけど、この先もっと僕らのことを認知してくれる人が増えたら、(スケールの大きなサウンドも)やっていきたいとは思っています」
――ホールやアリーナ、フェスのメイン・ステージとかに立つようになったら、それに見合うスケール感のサウンドもやってみたいと。
「自分たちにはそっちのほうが似合うんじゃないかとも思うんです。ただ、今はどちらかというと室内で、天井低目みたいなところでやることが多くて、そういう規模感でありながら、ちょっと先が見えるような音を目指していますね」
――では、ここ一年くらいで影響を受けたアーティストはいますか?
「ホントに最近の話ですけど、アルト・ジェイの新作(『Relaxer』)が良くて(笑)。もともと彼らのクリエイティヴな部分には、アートワークや映像も含めて影響を受けていたんですけど、今後はより影響されそうな気がしています。彼らはコンセプトを考えるのにすごく時間をかけているんじゃないかな。日本のアーティストは〈わかりやすくしないと伝わらないんじゃないか〉という意識が強い気がするけれど、自分たちはそうではなく、アルト・ジェイみたいにちゃんとしたコンセプトを基にした活動をしたいと思っています。あとは写真家の(ウォルフガング・)ティルマンスが音楽活動をし出していて、その音もカッコよかった……」
――海外への憧れがありつつ、それをいかにJ-Popのシーンに落とし込んで活動するのかを常に考えていると。
「そうですね。でも、メジャー・デビューのタイミングあたりから、音楽を聴く量が減ったんです」
――それは意図的に?
「ですね。本質が見えにくくなっちゃうんじゃないかと思って。そのきっかけが、これ信じてもらえるかわかんないですけど、道端でおじさんが鼻歌を歌っていて、その鼻歌がめちゃくちゃ良かったんですよ。で、〈これが音楽の本質なんじゃないか〉と思ったんです。いろんなものを聴いたあとに出てくるものじゃなくて、鼻歌みたいに自然に出てくるものこそが自己表現であり、アートに繋がるんじゃないかって。なので、それからは外からの影響を受けるよりも、より自分を見つめ直すようになったんです」
――メジャー・デビューまではLILI LIMITというバンドの色を確立するためにもいろいろ聴いていたけど、今は自分の内側を見つめ直すフェイズに来ていると。
「ある程度知識がないと作れない音楽が評価されるのもわかるんですけど、カウンターというか、そうじゃない人が作る音楽があってもいいんじゃないかと思ったんですよね」
――昨年の10月に発表されたファースト・アルバム『a.k.a』を経て、今回のEPはどのようなコンセプトで制作に向かったのでしょうか?
「『a.k.a』は個人的にすごくいいアルバムができたと思っていて、自分の評価はめちゃめちゃ高いんですけど、まだ世の中に浸透させることができてないなと思っていて。そんななかで、スタッフも含めたチームで〈来年どうしよう?〉という話をしたときに、最近は主に土器が曲を作ることになっていたんですけど、メンバー全員が曲を作ってみようという話になってから、みんなで1~2か月で40曲くらい作り、そのなかから選ばれたのが今回の4曲なんです。一回メンバー全員の個性を知ってもらって、その先で、『a.k.a』という素晴らしいアルバムがあったと知ってもらえるような、そのきっかけになるEPを作りたいと思って」
――大量の曲の中から、どのように収録曲を選んだんですか?
「表題曲に関しては、僕は客観的な視点や意見も含めて決めるべきだと思っているので、みんなで話し合ってまずはそれを決めました。あと“LIKE A HEPBURN”は4月に配信でリリースしようという話があったので、その2曲が先に決まっていて、あとはバランスを見ながら、3、4曲目を選んだ感じです」
――表題曲の“LAST SUPPER”は牧野くんの作曲で、さっき伝えてくれた鼻歌の話のように、自分の内側から出てくるものを大事に作られたわけですか?
「僕は今回全部で18曲くらい作って、毎日全然違う曲を作っているような感じだったんですけど、そのなかで、〈これいいかも〉と思ったやつをパソコンで具現化したという感じです。何もない状態でギターやパソコンと向き合って作ったとかではなく、感覚的な部分を信じて、ずっと頭の中で鳴っていたものを形にしたので、時間はかからなかったですね。作業は年末年始に実家でしたので、同郷の黒瀬(莉世/ベース)も呼んで、ベースやコーラスを入れてもらいながら形にしました」
――牧野くんって基本何を使って作曲をするんですか?
「基本はギターです。ギターのメイン・フレーズを決めて、それに対してどう鍵盤を入れるか、もしくはそのフレーズを鍵盤に任せるのかを考えています。僕、ギターめっちゃ好きだから、ギター発信のほうが、いい曲が生まれることが多い気がします。弾き語りでやってもいい曲がホントにいい曲だと思うから、一回ギター主導で全体を作ったものを、後から弾き語りで歌ってみたりもしますね」
――ちなみに、“LAST SUPPER”のベースって、ミュージック・ヴィデオだとエレベだけど……。
「(音源では)シンベです(笑)。もともとファンキーな感じだったんですけど、土器のアレンジとすり合わせるなかでエレクトロの要素をどのくらい入れるかを相談して、ドラムのパターンではなく、鍵盤の感じでその要素を出そうと思って」
――この曲のエンジニアは、the HIATUSやSHISHAMOなどの作品を手掛けてきた柏井日向さんですね。
「柏井さんのおかげでめっちゃいいものになったという手応えがあります。余談ですけど、シャムキャッツの新作(『Friends Again』)も柏井さんがやっていて、あのアルバムは写真も僕らと同じ伊丹(豪)さんが撮っているので、いろいろ被っているんですよね(笑)。伊丹さんファンだから、店頭でシャムキャッツと一緒に並んだらいいな」
――シャムキャッツ自体はもともと好きなんですか?
「はい、シャムキャッツやミツメはすごく好きです。夏目さんの歌詞は言葉の選び方や表現の仕方がすごいから、勉強になります」