僕らもポーティスヘッドやマッシヴ・アタックは大好きだよ
――では、ラモナ・フラワーズの過去作についてもお聞かせください。2014年にリリースされたファースト・アルバム『Dismantle And Rebuild』は、今振り返るとどんな作品ですか?
エド「僕らの音楽性の〈原点〉という意味では、今も重要なアルバムだね」
スティーヴ「もちろん気に入っているアルバムだし、今も演奏する曲はあるのだけど、やはり最初の作品ということもあって、いろいろと納得いっていないところや、改善すべき点も多い。だからこそ、ライヴではアレンジをブラッシュアップしているしね」
ウェイン「当時はまだ、バンドを始めたばかりでお互いのことをよくわかっていなかったこともあったし、後の作品と比べると自分たちの持ち味をうまくまとめきれていなかったのかもしれない。なので、このアルバムと次の『Part Time Spies』を聴き比べてみると、バンドがどのように変化していったのかがよくわかると思うよ(笑)」
――バンド内の関係性も、活動初期に比べてだいぶ変化した?
スティーヴ「そうだね。今となっては、家族よりもバンドのメンバーやスタッフといる時間の方が長くなっているし。いろいろなことを率直に言えるような関係になってきたと思うよ」
――ところで、このアルバムには“Tokyo”というタイトルの曲が入っていますよね。デビュー作の1曲目が東京をテーマにした曲だなんて、僕ら日本人としても何か特別な気持ちが湧いてきます。
スティーヴ「このタイトルにしたのは、東京でライヴをやりたかったからだよ(笑)」
――なるほど! 念願叶ったというわけですね(笑)。ちなみにこの曲はどうやって作ったのですか?
エド「僕らの曲作りというのは、基本的にはコンピューター上で組み立てていくのだけど、“Tokyo”に関してはデイヴがベース・ラインをシンセで持ってきて、そこに僕がメトロノームでリズムを合わせたのが最初のモチーフ。それをもとに、メンバー全員でジャム・セッションをしながら組み立てていったんだ。ラモナ・フラワーズではあまりやらないアプローチだね」
スティーヴ「歌詞は、僕らのイメージする〈東京〉を持ち寄って作ったよ」
――それって、どんなイメージ?
スティーヴ「とにかく〈素晴らしい場所〉というイメージだね(笑)」
ウェイン「メンバーの中では僕がもっとも日本に精通していいる。マーシャルアーツ※も2年間習っていたし、旅行にも行ったことがあるからね。日本映画も大好きだし、すべてがアメイジングだよ」
※拳法や格闘技などの日本の武芸
スティーヴ「僕は日本の歴史が好きだね。西洋の歴史とはまったく違うから非常に興味がある」
エド「僕は食事かな。日本食も、日本酒も大好きだよ」
――みなさん、メチャクチャ酒呑みらしいですね。昨夜もかなり深酒だったとか。
スティーヴ「誰から聞いたの(笑)? そんな呑んでないよ。ほんの2、3杯だけだったはず……なんてね。いや、実際問題、翌日のライヴに影響を与えるほど呑んだりしないように気をつけてる。そうじゃないときはメチャ呑むけどね」
エド「行く先々で、地元の居酒屋に入って呑むのが好きなんだよね。そこで出会った見知らぬ人と、リラックスして話すのが楽しい」
――東京とブリストルはやっぱり違いますか?
スティーヴ「ブリストルはとても静かで落ち着いた街だし、賑やかな東京とはまるで違うね。ブリストルって、イギリスの中でも変わっているところなんだ」
エド「ロンドンの郊外にあって、どこからの影響も受けていないというか。例えばマンチェスターでアシッド・ハウスが流行った時も、オアシスが登場してブリット・ポップが隆盛した時も、まったくどこ吹く風(笑)。それでいて、例えばトリップ・ホップとか独自のシーンを生み出している。ストリート・アートも盛んで、バンクシーなどさまざまなアーティストがいるしね」
ウェイン「何しろ、最初の1音を聞いた瞬間に〈あ、こいつらブリストルのバンドだな〉ってわかるんだよ」
――へえ。そうなんですね。僕はポーティスヘッドも大好きなので、なんだかいっそうブリストルへ行ってみたくなりました。
ウェイン「僕らもポーティスヘッドやマッシヴ・アタックは大好きだよ。ああいうサウンドはまさにブリストルだし、彼らからの影響もいつの間にか自然と受けているような気がする。音楽的にというよりも、ヴァイブレーションというか」
エド「大きな街ではないので、例えば大学卒業後に初めて借りたスタジオが、ジェフ・バーロウの所有スタジオだったりして、気づけば繋がりが出来ていることはよくあるよね。そのあたりはロンドンとはまったく違う環境だと思う」
――今、ブリストルでお気に入りのバンドっていますか?
エド「アイドルズ(IDLES)というパンク・バンドがいて、彼らは今、勢いがあるね。だけどバンド単位というより、今はミュージシャン単位で優れた人がたくさんいるイメージかな」
――ブリストルに限らず、今の音楽シーンの中で共感・共鳴するバンドはいますか?
スティーヴ「そうだな、他のどのバンドとも違うサウンドを追求しているつもりだから、そういうふうに考えることってあまりないのだけど、サウンド的に近いなと思うのはフレンドリー・ファイアーズとM83かな。そうそう、セカンド・アルバム『Part Time Spies』のプロデューサー、クリス・ゼインはフレンドリー・ファイアーズやパッション・ピットなどを手掛けている人物だ。彼はNYからロンドンに拠点を移して、それで一緒に仕事をしたのだけど、すごく良かったよ。僕ら自身もファーストを経て、どんなアルバムを作りたいのかがより明確になっていたからね。自信もついていたし」
――新曲が3曲収録されたニューEP『Magnify』は、これまで以上に壮大でスケール感のあるサウンドに進化しています。リード曲“If You Remember”は、ミュージック・ビデオも印象的ですが、これはどんなイメージで作ったのでしょうか。
ウェイン「基本的にはプロデューサーやディレクターにアイデアを出してもらった。全部で7つあったんだけど、どれもスティーヴの書いた歌詞とはしっくりこなくて。それで、一から擦り合わせてようやくスクリプトが出来上がったんだ。ストーリーは、昔名を馳せたが今は落ちぶれてしまった老映画監督が、最初は変人扱いされながらも最終的には近所の少年少女たちと再び映画を作り始める、というもの。たとえ周囲に理解されなくても、最後まで自分がやりたいことを貫き通せば、それに共感する人たちが集まってきて、最終的には目標を達成することができるというメッセージが込められている。何か打ちのめされるようなことがあった時は、一旦ルーツに立ち返り、自分を見つめ直すことの大切さというのが、この曲の歌詞と共振するテーマだね」
――さっきも映画の話が出ましたが、ラモナ・フラワーズのMVは、どれも映画的というか。メンバーたちの演奏シーンはほとんどなくて、ストーリーの中で役者が役を演じているものが多いですよね?
スティーヴ「確かにそうだね。最初に作ったMVは初めての経験ということもあり、ディレクターと一緒に作り上げていく中でいろいろと勉強させてもらった。セカンド・アルバムの収録曲のMVに関しても、みんなで満足しているし、そこでも映画的なクォリティーは出せたと思う。で、ちょうど今作っているMVは、今までとはまた違ったアプローチに挑戦しようとしている。ディレクターを誰にするかも、これから吟味する予定だよ」
――ラモナ・フラワーズにとっては、音楽と同じくらい映像も大事な表現手段なのですね。
スティーヴ「そうだね。音と映像が組み合わさったことで想起するイメージを、僕らはすごく大事にしている。それに、今の時代はYouTubeなどで簡単に映像にアクセスすることができるので、そこはちゃんと意味を持たせながらクォリティーの高いものを作りたいと思っているよ」
――では最後に、次回のアルバムの構想をお聞かせください。
エド「“If You Remember”は、今後リリースするニュー・アルバムに向けて初めて書いた曲だよ。なので、この曲を聴くと、ニュー・アルバムのテイストを理解してもらえると思う。今度のアルバムは、セカンドよりもさらに方向性が明確になっているし、ラモナ・フラワーズの最高傑作になるんじゃないかと思う。12月の再来日公演までには完成させるつもりだから、ぜひとも期待して待っていてほしいな」
Live Information
ラモナ・フラワーズ来日公演
日時:2017年12月16日(土)
会場:東京・原宿アストロホール
開場/開演:17:00/18:00