英国ブリストルで結成され、2014年にアルバム『Dismantle And Rebuild』でデビューを果たした5人組、ラモナ・フラワーズ。今年の〈FUJI ROCK FESTIVAL〉で初来日を果たし、大きな話題を集めた彼らがニューEP『Magnify』をリリースした。新曲“If You Remember”“Take Me Apart”“Numb Drunk”の3曲に過去曲やリミックス、ライヴ音源などをコンパイルした本作は、80年代ポップからエレクトロ、最近のインディー・ロックまでを網羅した彼らの幅広い音楽性を堪能できる。
実は、ギターのサム・ジェームスは掃除機メーカー、ダイソンの創業者ジェームス・ダイソンの息子であり、来日中はダイソンのフラッグシップ店である青山店でインストア・ライヴも行なっている。デビュー・アルバムの冒頭に、その名も“Tokyo”という楽曲を持ってくるなど、日本に対して並々ならぬ思いを抱く彼らだが、今回はスティーヴ・バード(ヴォーカル)、ウェイン・ジョーンズ(ベース)、エド・ガリモア(ドラムス)に取材。新作についてはもちろん、80年代の映画談義やブリストルの音楽事情など率直に話してもらった。
80年代の映画音楽がサウンドの影響源のひとつになっている
――まずは、バンド結成の経緯から教えてください。
ウェイン・ジョーンズ「最初はサムとデイヴと僕の3人でバンドをやっていたのだけど、うまくいかずに解散してしまったんだ。それで、残った3人でバンドをやろうと思い、あるウェブサイトでヴォーカルを募ったところ、スティーヴから連絡が来た。オーディションをしたら、すごく良かったから採用したんだ。他に誰も応募してこなかったしね(笑)。その後ドラマーを探していた時にデイヴが知り合いのエドに声をかけて、やはりオーディションをして、5人組になり今に至るよ」
――その前は、どんなバンドをやっていたのですか?
ウェイン「ギターが主体のヘヴィーでロックなサウンドだった。で、このバンドを始める時に決めたのは、今までとは少し違ったサウンドにしようということ。スティーヴが加入したことで、自分たちのやりたいことがより明確になり、今の音楽性に変化していったんだ」
――3人の音楽的なバックグラウンドを教えてもらえますか?
エド・ガリモア「僕は大学でも音楽を専攻していて、ジャズからヒップホップまでさまざまなジャンルのバンドを組んできた。今も大学時代の友人たちとジャズ系のバンドをやっているよ。もっとも影響を受けたドラマーは3人いて、1人はビリー・コブハム。マイルス・デイヴィスやマハヴィシュヌ・オーケストラとの仕事で知られるフュージョン・ドラマーで、彼の演奏を聴いてドラマーになろうと決意したんだ。それからビリー・マーティン(メデスキ・マーティン&ウッド、ジョン・ルーリー・ナショナル・オーケストラ)。あまり知られている人ではないけど、とてもユニークなスタイルでとてもリスペクトしている。そして、もう1人がエルヴィン・ジョーンズ。ブルーノート・レーベルを中心にウェイン・ショーターやグラント・グリーン、ラリー・ヤングらのレコーディングに参加して、数々の名盤を残しているジャズ・ドラマーだ」
スティーヴ・バード「エドはメンバーの中で、もっとも音楽オタクだよね(笑)。僕は学生時代の友人と長い間バンドをやってきて、それからこのバンドに加入した。好きなヴォーカリストはINXSのマイケル・ハッチェンスと、ライアン・アダムス。ブライアンじゃなくてライアンの方ね(笑)」
ウェイン「僕は、ロック・ミュージックからの影響がもっとも大きい。兄がよく聴いてたレッド・ツェッペリンやアイアン・メイデンで開眼したんだ。一番好きなベーシストは、もちろんジョン・ポール・ジョーンズ。最近のロックももちろんよく聴いていて、以前一緒にツアーを回ったアッシュは大好きだし今も交流がある。それと、パール・ジャムなんかもすごく好きだよ」
――音楽の好みは結構バラバラなんですね。全員共通して好きな音楽はありますか? 例えば最近良かったアルバムとか。
スティーヴ「うーん、最近だとサンダーキャットの『Drunk』かな」
――なるほど。80年代っぽい要素を取り入れているという意味では、ラモナ・フラワーズとも共通点がありますね。では、曲作りは誰がイニシアチヴを取って行なっているのですか?
スティーヴ「特に誰か特定のリーダーがいるわけではなく、みんなでアイデアを持ち寄って作っている。例えばドラムのパターンから曲が生まれることもあれば、ウェインのベース・ラインがモチーフになることもある。あるいは、デイヴのギターからメロディーが思い浮かぶこともあるよ」
――バンド名は、映画「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」(2010年)のヒロイン、ラモナ・フラワーズから取ったそうですね。
スティーヴ「うん。あの映画を観たギターのサムが、クールでミステリアスな彼女のキャラクターにすごく共感したらしいんだ。それで、ネットでいろいろ調べてみたけど、他に同じ名前を使ったバンドはいなかったので、これに決まったんだよ」
――サムだけでなく、皆さん映画が好きそうですよね。
スティーヴ「そうだね。なかでもサムとデイヴが映画好きで、デイヴはシネマ・フリークだね(笑)」
――そういう、音楽以外の要素にラモナ・フラワーズが影響を受けていることはあります?
スティーヴ「すごくある。特に僕は歌詞を書くとき、映画からの影響は大きいと思うな。音の面でも、特に80年代の映画を観ると、JUNO※のサウンドがめちゃめちゃ使われていて、そういう音色を参考にすることもあるんだ。僕らみんな、80年代の映画が大好きだよ。世代的にもそのへんを観て育ったというのもあるしね。ツアーに出ていても、サウンドチェックが終わって開演までの空き時間は、大抵80年代の映画を控室で観ているね(笑)」
※ローランド社製のキーボード
――そうなんですね! 80年代の映画で特に好きなのは?
スティーヴ「僕は『ラビリンス/魔王の迷宮』(86年)かな」
ウェイン「僕は〈バック・トゥ・ザ・フューチャー〉と『カクテル』(88年)」
スティーヴ「ああ、『カクテル』最高だよね(笑)。『ブレックファスト・クラブ』(85年)も大好き。学校で問題を起こした異なるタイプの高校生が、週末に学校の図書室へ呼び出され、〈自分とは何か〉をテーマにした作文を書かされるっていうストーリーなんだけど、そこで描かれる生徒同士の交流や、先生との関係性が変化していく様子が丁寧に描かれているんだ」
エド「うん、あの映画はサントラも素晴らしくてよく聴いてるよ。エンドロールでかかる、シンプル・マインズの“Don't You (Forget About Me)”も大好きだ」
――80年代の映画が好きなのは、子どもの頃によく観たということ以外にも何か魅力があるからなんですかね?
スティーヴ「さっきも言ったように、音楽かな。ちょうど80年代が、アナログからデジタルに切り替わるタイミングということもあって、両方が混在しているところに魅力を感じるのかもしれない。それは音楽だけなく映像もそうだよね。まだフィルムが主流で、独特の温かみがあるし」