
新たなアーティストの台頭によって新潮流が生まれ、活況を呈している女性アイドルシーン。フリフリの衣装を纏い、圧倒的な自己肯定感とともに〈カワイイ〉を直接的に打ち出す超ときめき♡宣伝部のようなグループが目立つが、その筆頭はFRUITS ZIPPERらアソビシステムによるプロジェクト〈KAWAII LAB.〉のアイドルたちだろう。そんな彼女たちが表現する最新の〈カワイイ〉とは何なのか? 文筆家つやちゃんに論じてもらった。 *Mikiki編集部
主体的なエンパワメントとしての〈カワイイ〉
国内のアイドルシーンが、新たなモードに突入している。先頭で旗を振っているのは、アソビシステムによるアイドルプロジェクト〈KAWAII LAB.〉系のグループだ。“わたしの一番かわいいところ”や“NEW KAWAII”など、自己肯定的なカワイイ表現でお茶の間までを席巻しているFRUITS ZIPPERを筆頭に、より王道J-POP寄りのCANDY TUNE、サブカル要素も取り入れたSWEET STEADY、さらにコンセプチュアルで実験的なCUTIE STREETといったいくつものアイドルグループがひしめいている。彼女たちは何を表現していて、どういった点が新しいのか。改めて考えてみたい。
まずは、〈エンパワメントとしてのカワイイ〉として、カワイイを再定義した点が挙げられるだろう。FRUITS ZIPPERが“わたしの一番かわいいところ”で〈わたしの一番、かわいいところに/気付いてる/そんな君が一番すごいすごいよすごすぎる!/そして君が知ってるわたしが一番かわいいの、/わたしもそれに気付いた!〉と歌っている通り、私のカワイイを自ら名乗り上げる主体的な語りが特徴的だ。それぞれの中にあるカワイイを、自分で選び、自分で楽しむというスタンス。ただ、それらが必ずしもポリティカルなフェミニズムにもとづくのではなく、もっと感覚的で直感的な自尊感情(=セルフラブ)に近い印象で宣言されているのが印象的である。むしろ、その軽やかさこそがKAWAII LAB.系の特徴と言えるだろう。
大衆へ流れ込んでいく魅力と拡散力
近年、K-POPを中心としたガールクラッシュ系のかっこよさがアイドルシーンで注目されていたため、それらと対比すると、カラフルでフリフリのファンタジーを体現しながら歌う彼女たちの日本的かわいさは、いささか保守的にも見えるかもしれない。だが、彼女たちに、そう安易に片づけられない魅力が宿っているのも確か。たとえば、〈K-POPのように完成されていなくても、自分たちの「今」を楽しめばいい〉という、未完成の肯定としての強さ。あるいは、〈自分たちにしかできないかわいさがある〉という独自に確立されたアイデンティティ。さらには、1990年代〜2000年代のミニモニ。などを彷彿とさせる衣装や振付の復権が、〈TikTokで映える〉〈2.5次元的リアリティ〉といった現在のメディア環境と結びつきながら機能しているのもポイントで、そのあたりが戦略的なノスタルジーとして大衆の心をとらえている。
また、K-POPのような強固なファンダム文化ではなく、〈なんかかわいくて好き〉〈TikTokで流れてきた〉という感覚的な拡散で広がっているのも特徴だ。KAWAII LAB.系のファンの流入には、いわゆる推し活のような一体感だけではない、私の感性に合ったカワイイ存在を個人的/断片的に選んでいくという流動的な消費スタイルが紛れ込んでいる。それらは、〈かわいくある権利〉や〈感性の自己決定〉を肯定する自由が、部分的にでも大衆に受け入れられていったということだろう。