©2019「ダンスウィズミー」製作委員会

音楽が聞こえてくるとミュージカルスターに変身!?
矢口史靖監督が初めて挑んだコメディ・ミュージカル

 ミュージカル映画の魅力といえば、物語に散りばめられた歌とダンス。でも、世の中にはミュージカルが苦手な人達がいて「突然、歌ったり踊ったりするのは不自然」と眉をひそめる。それを自然に見せるにはどうしたらいいのか。その難問に挑んだのが、「ウォーターボーイズ」(01)「スウィングガールズ」(04)などを手掛けてきた矢口史靖監督だ。これまで良質のエンターテイメント作品を世に送り出してきた矢口監督が、初めてミュージカルに挑戦した「ダンスウィズミー」は、とあるきっかけで音楽が聞こえるとミュージカルスターのように歌い踊り出すカラダになってしまうミュージカル苦手女子が主人公。

 大企業に勤める鈴木静香(三吉彩花)は、密かにエリート社員の村上(三浦貴大)に憧れながら平凡な生活を送っていた。そんなある日、姪っ子と遊園地に行った静香は、そこでマーチン上田(宝田明)と名乗る怪し気な催眠術師に「音楽が聞こえると歌って踊り出す」という催眠術をかけられてしまう。翌日、憧れの村上の助手としてプレゼン会議に参加した静香は、こともあろうに流れてきた音楽に反応して会議中に歌って踊って大暴れ。術を解いてもらうために遊園地に向かうが、マーチンは夜逃げしていた。静香はマーチンを探して日本中を駆け巡ることになる。

 矢口監督は日本でミュージカル映画を成功させることの難しさを痛感していて、登場人物が歌うことの必然性や「ミュージカルでなければ描かけない物語」を作ることが大切だと考えていたらしい。そこで思いついた秘策が催眠術だった。音楽を聞いたら、強制的にミュージカル状態に入ってしまう静香。「もう、やめて!」と苦しみながらも音楽に反応して歌って踊る彼女の姿は、赤い靴を履いたばかりに踊り続けることになった少女の童話「赤い靴」のようだ(「赤い靴」にオマージュを捧げるように静香は赤いハイヒールを履いて踊っている)。静香は最初は嫌がっていても、スイッチが入ると満面の笑顔を浮かべて颯爽と踊る。でも、ちゃんと踊れているのは彼女の頭の中だけ。現実は好き勝手に暴れていて、みんなが大迷惑しているという残念なミュージカル・スターだ。

©2019「ダンスウィズミー」製作委員会

 矢口監督は趣向を凝らしてミュージカル・シーンを作り上げていて、オープニング・シーンでは、日本映画界を代表するミュージカル・スター、宝田明が55年振りに歌とダンスを披露。また、プレゼン会議でのミュージカル・シーンで、オフィスを舞台にサラリーマンやOLがダンスをする姿は、和製ミュージカル映画の傑作「君も出世ができる」(64年)を彷彿させる。そのほか、ダンスや小道具などに往年のミュージカル映画へのオマージュが見受けられるが、現代的なアレンジも施されている。高級レストランでのミュージカル・シーンでは、ポール・ダンスやテーブルクロス引き、果てはアクロバティックな宙返りなど、様々なアイデアが盛り込まれていて、まるでシルク・ドゥ・ソレイユ状態だ。

 聞こえてくる音楽に反応する、という設定のため、歌は既発曲を使用。山本リンダ“狙いうち”(79年)、シュガー“ウェディング・ベル”(81年)、山下久美子“Tonight 星の降る夜に”(91年)、orange pekoe“happy valley”(02年)など様々な時代の名曲が散りばめられていて、そうした親しみやすさも、ミュージカルが苦手な人に親しみを持ってもらえる作戦のひとつ。また、ミュージカルでは登場人物が自分の気持ちを歌にするが、矢口監督は登場人物の気持ちを反映しているような曲を選曲することで、しっかりと歌にミュージカルの機能を与えている。今回、楽曲の演奏を担当したのは新世代のジャズ楽団、ジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド。劇判音楽を手掛けたのは、矢口監督とは三度目のタッグとなる元サケロックの野村卓史で、彼らの生み出すフレッシュなサウンドが映画に躍動感を与えている。

©2019「ダンスウィズミー」製作委員会

 また本作には、ミュージカル以外にも様々な要素が盛り込まれている。マーチン上田を探していくなかで、静香はマーチンの助手として働いていた千絵(やしろ優)と出会い、二人で一緒にマーチンを探すことになる。そこにストリート・ミュージシャンの洋子(chay)や探偵の渡辺(ムロツヨシ)など個性的な脇役が加わりながら、様々なトラブルが静香を待ち受けている。静香を演じる三吉は、出ずっぱりで歌とダンスを披露して大活躍。もともとバレエを学んでいて基礎ができていたらしいが、撮影3ヶ月前から連日特訓を重ねて撮影に挑んで見事に大役をこなしている。相棒役のやしろはお笑い芸人として素地を活かして、ヒロインの相棒役をチャーミングに好演。モデル出身でスラリとした三吉とぽっちゃりしたやしろは「スター・ウォーズ」のC-3POとR2-D2を思わせるシルエットで、バディ感たっぷりに物語を引っ張っていく。そこに加わるchayは、トリッキーな役柄を自然体で演じて女性3人のガーリー・トライアングルを形成。矢口監督は「強制的にミュージカル」というアイデアを軸に据えながら、〈旅〉や〈仲間〉の要素も加えて遊園地のようにサービス満点のエンターテイメント作品を作り上げた。音楽が鳴り始めるといてもたってもいられない静香同様、「ダンスウィズミー」は歌とダンスで観るものをハッピーさせてくれるジェットコースター・ムービーだ。

 


「ダンスウィズミー」
原作・脚本・監督=矢口史靖
音楽=Gentle Forest Jazz Band/野村卓史
振付=Q-TARO/EBATO
出演=三吉彩花 やしろ優 chay
三浦貴大・ムロツヨシ 宝田明
配給:ワーナー・ブラザース映画(2019年 日本 103分)
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