Remy Le Boeuf @ Shapeshifter Lab. Brooklyn NY, 2016.©Takehiko Tokiwa

21世紀のアメリカン・ミュージック・コンポーザーの鮮烈なビッグバンド・デビュー・アルバム

 双子の兄弟のパスカル・ルブーフ(p)とのルブーフ・ブラザースでの活動でニューヨークのジャズ・シーンの注目を集め、今年5月にソロ・アルバム・デビューを果たしたレミー・ルブーフ(as,ss,fl)の、初めてのビッグバンド作品は、多士済々のコンテンポラリー・ジャズ・ラージ・アンサンブル・シーンに新たな才能の登場を大きく印象づけた。

REMY LE BOEUF Assembly of Shadows SoundSpore Records(2019)

 冒頭の 『Strata』は慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサエティの委託作品であり、この曲の制作を機会にルブーフは、本格的にビッグバンド作品に取り組み始めた。唯一のカヴァー曲 《Honeymooners》は、ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラの依頼で編曲したオーネット・コールマン(as,tp,vln)へのトリビュート曲だ。3~7は、アメリカン・コンポーザース・フォーラムの委託を受けたタイトル曲の《Assembly Of Shadows》組曲だ。女の子が森の中に迷い込み眠りに落ちて、目覚めると木々の影が生きてるかのごとく踊り、彼女を楽しませたり怖がらせたりする。そして木々に導かれるように家路につき眠る。目覚めると、森での出来事は現実だったのか夢だったのかわからないという幻想的なストーリーを、現代ニューヨークの注目の若手である、ルブーフ自身や、フィリップ・ディザック(tp)、カール・マラギ(bs,b-cl)、加藤真亜沙(p)らが、きらびやかなソロとアンサンブルで語りかける。

 ルブーフは、少年時代にヴァチカンでレナード・バーンスタインの 『ミサ』でボーイ・ソプラノのソロを取った経験があり、バーンスタインやアーロン・コープランドらアメリカのクラッシック作曲家の音楽を愛し、またチャールス・ミンガス(b)とマリア・シュナイダー(arr)の音楽の影響を強く受けて、音楽的人格を築いてきた。ジャンルを超えた、21世紀の新たなアメリカン・ミュージック・コンポーザーが、鮮烈なデビューを高らかに宣言した。