なんとなく始めたことが、大きな夢の扉を開くこともある。大阪府出身のシンガー・ソングライターである有華(ゆか)は、Instagramに投稿したカヴァー動画によって人生を大きく動かしたひとりだ。飾らない人柄とエモーショナルな歌声が同世代の心を掴み、フォロワー数は12万人を突破。ありのままの心を映したかのように真っ直ぐな歌詞の数々は多くの人に寄り添い、今もなお、着々とファンを増やし続けている。
そんな彼女が、約1年ぶりとなるアルバム『Cherish it』をリリース。本作はCD2枚組で、ディスク1にはバンドでの録音、ディスク2にはピアノの弾き語りによるアコースティック・ヴァージョンを収録。〈今伝えたいこと〉を詰めこんだという今作は、ポップなアートワークと裏腹にしっとりしたバラードも多い。
今、彼女は何を感じ何を考えているのか。Mikiki初登場ということで、彼女のバックグラウンドから紐解いてみた。

幼い頃から歌手になることを夢見て
――有華さんが歌手を目指したのは、いつ頃だったんですか?
「いわゆる物心ついたときには……っていうんですか。幼い頃から歌うことが大好きで、音楽番組を観るたびに〈歌手になろう〉と思っていました」
――卒業文集に〈将来の夢:歌手〉って書いたりとか。
「それが書けなかったんですよ(笑)。仲のいい友達が〈歌手になる!〉と常に言っているような子だったから、気後れしちゃって。同じ夢を語ると、友情が壊れてしまう気がしたんですよね」
――なるほど。
「家庭が厳しかったので、オーディションを受ける許可もなかなか下りなくて。ようやく音楽活動を始めたのは、高校生の終わりくらいから。それでも習い事のピアノとコーラスだけは小さい頃からずっと続けていました」
――習い事は、ご自身で〈通いたい〉とお願いしたんですか。
「そもそもは、姉の習い事についていっただけなんです(笑)。成り行きで習い始めたら、私だけがハマっちゃって」

――でもシンガーの歌とコーラスの歌だと、わりと別物ですよね。
「〈なんでコーラスをしているんだろう〉と思った瞬間も、もちろんありました。でも、〈軸として大事なんだろうな〉と頭のどこかで理解していたし、音大の声楽科に行きたい気持ちもあったので。学べることは学ぼうと」
――じゃあ、音大へ進学されたんですね。
「実は、そうでもなくて(笑)。結果的に、音楽療法や音楽全般を学べる女子大へ進みました。自分がやりたいのは声楽じゃなかったし、いろんなジャンルの友達が欲しかったので。音楽をしている人と話すのはすごく楽しいけど、いい意味でも悪い意味でも自分と比較しちゃう。そういう環境だと、大学がしんどい場所になってしまう気がしたんです。在学中に入っていたサークルも、インカレのフットサル・サークルでしたからね。音楽と全く関係ないという(笑)」
――プライヴェートで音楽活動をしつつ、大学生としての生活も満喫されていたと。
「経験したいと思ったことには、全部手を出していたと思います。あの頃はアグレッシヴでしたね。〈やりたいことを全部やるぞ〉って気持ちでした」
――〈あの頃は〉なんですね。有華さんは常に行動的なイメージですが……。
「学生時代は〈これしたい、やろう!〉って、思ったらすぐに行動できたんです。でも最近だと、リスクを考えたり守りに入ったりしてしまう。〈以前の素直な自分はどこに行っちゃったんだろう〉と感じることも多くて。これが大人になるということなら、ずっと子どもでいたいな……と。その気持ちは新作『Cheish it』のなかにも強く入っていると思います」
Instagramを通じて1万人ものリスナーに歌が届いた
――卒業後は就職も経験されているそうですね。会社員時代は、どんな感じだったんですか。
「普通の会社員でしたね。会社員としてやっていける自信もあったけど、本当にやりたいことは歌だし、常に迷っていたような気がします。土日休みだったので、平日の音楽のお仕事を受けられないのは悲しかったかな」
――順調だった仕事をやめて、音楽に絞ろうと決めたきっかけってあったんですか?
「一番近くにいた先輩が、〈有華ちゃん、音楽一本でやっていったら〉って提案してくれたことですね。一緒にランチをしているときの出来事だったんですけど、昼休みが終わったら、すぐ課長に〈会社をやめたいです!〉って伝えにいきましたもん(笑)。きっと誰かに背中を押してもらえる瞬間を、無意識に待っていたんでしょうね。先輩には今でもすごく感謝しています」
――知名度を一気に上げたInstagramでの弾き語りは2015年から始めていますね。なぜやろうと思ったのでしょうか?
「自分の歌を聴いてもらいたい一心でした。ファンを増やそうとか、ライブのお客さんを増やしたいとかも全く思っていなくて。Instagramに載せられる動画の尺が長くなったので始めてみたら、今のような状態に。あのとき始めて、本当によかったです」
――〈これは、すごいことになるかもしれない〉と思ったのは、どのタイミングでしたか。
「フォロワーが1万人を超えたときかな。増加していくスピードもどんどん速くなっていたし、2017年にワンマン・ライブのチケットを販売したら即完。いざライブで幕が開いたときも、お客さんがたくさんいてびっくりしました。こんなことってあるんだな、自分もアーティストなんだなって。
あのワンマン・ライブは、間違いなく自分のターニング・ポイントになりましたね。〈音楽で生きていくのは無理だろうな〉と諦めかけていた自分に、希望の光が差したというか。もっと音楽を頑張ってみようと思えました」
真っ直ぐな声で真っ直ぐな言葉を歌うのが有華
――1月13日には1年ぶりのアルバム『Cherish it』がリリースされました。どのような作品になっていますか?
「私が今伝えたいこと、歌いたいことを詰めこんだアルバムになっています。前作の『キミノサプリ』(2019年)は〈こういうシチュエーションで聴いてほしい〉という明確なイメージがあったんですけど、『Cherish it』はあまりそういうのがなくて。自分自身がずっとテーマにしている〈寄り添う〉に沿った1枚になりました。
サウンド面では“Only One”で初めて生のストリングスやグランドピアノの音を入れたり、“なんでなのかはわからないけど”ではピアニストとクリックなしの一発撮りに挑戦したりしています。以前のポップさに増して深みも出て、〈アーティスト有華〉になっているんじゃないかな」
――〈今伝えたいことを詰めこんだアルバム〉というと、最近の曲ばかりなのですか?
「そんなことないですよ。“ピーターパンシンドローム”は、3年前に出来た曲ですし。コロナ禍のなかで作ったのは“ココロのおはなし”と“なんでなのかはわからないけど”、“Only One”。昨年は身近な人が亡くなったり、コロナの影響で音楽ができなくなったり、〈自分にとって大切なものってなんだろう〉と考えた1年だったので、その気持ちを経て届けたいと思った7曲を選んでいます」
――自粛期間は、何をされていましたか?
「実家に帰り、姪っ子のベビーシッターをしていました。子どもって本当にストレートなんですよね。泣きたいときに泣くし、思っていることがあったら口に出して伝えるし。その素直さに、すごく刺激を受けました。“ココロのおはなし”の〈出来ない理由を繋げる力より/胸を張って宣言する力が欲しい〉という歌詞は、姪っ子と過ごすなかで思ったことなんです」
――じゃあ、推し曲も“ココロのおはなし”ですか?
「それは“なんでなのかはわからないけど”やと思います。リアルタイムの自分を一番表しているし、コロナが流行らなかったら出来ひんかったやろうなって。
2020年4~5月頃の外出自粛期間には、寝ようと思い布団に入ると〈ひとりぼっちやねんな〉って強く感じることが多かったんですよ。実家にいたから人と触れあっていたし、物理的にはひとりじゃなかったのに」
――〈ひとりぼっち感〉といいますと。
「結局、自分の味方をできるのは自分しかおらんな……って実感したというか。思うように音楽活動ができなくて、立ち止まっている感覚がすごく強かったんです。〈こんな状況でも頑張るぞ〉と思っていたつもりなんですけど、今思えばもがいていたように感じますね」
――その率直な気持ちがこの曲に、強く反映されていると思います。有華さんの書く歌詞って、どれもストレートですよね。
「本当はめっちゃおしゃれな歌詞とか書きたいんですよ。でも、残念ながら語彙力がなくて (笑)。本を読むのも苦手で避けてきたし、言葉に特化せず生きてきたから、伝え方がシンプルになってしまうんです。
コンプレックスに感じている部分でもあったので、いろいろ工夫してみたんですけど、どうにも気取っていて私らしくない。最近になって、真っ直ぐな声で真っ直ぐな歌詞を歌うのが私だと受け入れられるようになりました」
――気にされていた時期もあるんですか。
「この1年は、びっくりするくらい自信がなくて。Instagramのフォロワー数の増減に一喜一憂するし、SNSと向き合うことが初めて嫌になりました。ファンの方とお会いする機会が減って、不安になっていたんでしょうね。ライブで直接みなさんの顔を見たら、〈これだけ強く繋がっている人がいれば大丈夫だ〉って思えたので」

歌にとって大事なのは〈届けよう〉という気持ち
――1月末からは、『Cherish It』のツアーが始まりますね。
「正直なところ、歌える喜びよりも〈みんな大丈夫かな〉という気持ちのほうが先行しています。私のライブへ来ることで周りに何か言われているかもしれへんし、他の人と会う予定を諦めているかもしれへんので。心配性なところがあるので、わりとそういうことは考えちゃいますね。もちろん、来てくれた方は100%楽しませたいと思っていますけど」
――インタビューで前回のツアー〈有華弾き語りツアー2020~エナジーソングお届けに参りました~〉を振り返って、〈シンガー・ソングライターとしての未熟さを感じた〉と語られていましたが……。
「初日の公演が言葉にできないくらい、ボロボロのボロボロだったんです。最初から最後まで弾き語りでやるワンマンが初めてだったとはいえ、ちゃんとしたパフォーマンスを一発目からできないとダメじゃないですか。それが実現できなかったのが、本当に悔しくて。このままだったら〈SNSで見ているだけで十分〉と思われてもおかしくないなと、背筋が伸びました。ライブのほうがよくないと〈もう1回行きたい〉って、みんなならへんし。シンガー・ソングライターとして活動していくのであれば、もっと届ける力を強化せなあかんなって思いますね。
歌の上手さはもちろんですけど、いかに〈届けよう〉という気持ちを前に出すことができるか。前回は上手いとか可愛いとか思われたいという願望が先走ってしまい、届けることが二の次になってしまっていたので。今回はたとえちょっと音を外したとしても、届ける気持ちを優先したライブをしたいと思っています」
――やはりバンド・セットでやるよりも、ソロでステージに立つ方が緊張しますか?
「そうですね。伴奏もそうやけど、歌もトークも流れも全部が自分次第やから。オーディエンスの視線が全部自分に注がれているので、水を飲んでいる瞬間でさえ緊張します(笑)。
バンド・セットのときは、歌うことだけに集中できるので幸せですね。みなさん私が気持ちよく歌えるように演奏してくださるし、やっぱりバンドは盛り上がるので。東京、大阪、名古屋、福岡でのライブは、久しぶりのバンド編成の予定なので楽しみです」
ただ隣にいてくれる音楽でありたい
――今日お話をしていて思ったのですが、有華さんは本当に感受性が強いですよね。
「自分の周りを飛び交う情報を、常にガッと受け止めているんだと思います。喜怒哀楽に影響されやすいので、悲しいニュースを見たらずっと悲しいし、楽しいニュースを見たらずっと楽しい。
ただ、その喜怒哀楽をむやみやたらに表に出すかと言われたら話は別ですね。歌に落としこんだりライブのMCで話したりすることはあっても、SNSにわざわざ書きこんだりはしません」
――それは、なぜですか?
「ファンの方が大事に育ててくれた、私という存在を壊したくないので。正直に〈つらい〉と吐き出すことで〈同じように悩んでいるんだ〉と共感してくれるかもしれへんけど、同時に〈こういうこと書いちゃうんや〉ってガッカリさせてしまうかもしれへん。自分のことをすごく好きだと言ってくれている子に、少しでもマイナスな気持ちを抱いてほしくはないんですよ。私はネガティヴな感情をSNSに書きこむ人ではなく、歌で寄り添う人でありたい」
――有華さんの音楽を語るうえで〈寄り添う〉って、よく出てくるキーワードですよね。
「私自身が失恋したときや悩んでいたとき、音楽に救われることが多かったので。高校時代に進路で悩んでいたとき、絢香さんの“そこまで歩いていくよ”(2012年)に寄り添われたのは今でもよく覚えています。あの曲を聴いて〈抱えこまなくてもいいんだな〉と思えて、友達に相談してみたり、行動に移すことができた。今度は自分が、そういう存在になりたいんです。いろんな感情に、音楽で常に寄り添いたいというか……」
――ずばり〈寄り添う〉とは、なんだと思いますか?
「ただ隣にいるだけってイメージですかね。気持ちとしては、真横で背中をトントンしている感じ。伝えたいというより横から語りかけたい。それが〈寄り添う〉だと思っています」
――では最後に、2021年をどんな年にしたいですか。
「もっと多くの人に、歌を真っ直ぐ届けられる1年にしたいですね。SNSを4年間続けるなかでは出会えなかった、いろんな方にもっと出会いたい。きっかけは曲でも人柄でもなんでもいいので、いま以上たくさんの方に私の歌を聴いてもらえるような年にします。
私生活では、目指せ我慢ができる女! (他人が)いま何をしているとかSNSで誰と繋がっているとか気にしがちなので、そういうことに振り回される自分から卒業したいですね(笑)」

LIVE INFORMATION
有華ワンマンツアー2021「Cherish it」
2021年1月29日(金)宮城・仙台 Rensa
2021年2月4日(木)神奈川・新横浜 NEW SIDE BEACH
2021年2月10日(水)沖縄セントラル
2021年2月12日(金)兵庫 VARIT.
2021年2月13日(土)岡山 YEBISUYAPRO
2021年2月20日(土)北海道 cube garden
2021年2月26日(金)石川 AZ
2021年2月28日(日)京都 KYOTO MUSE
2021年3月5日(金) 福岡 DRUM Be-1
2021年3月6日(土)熊本 B.9V2
2021年3月12日(金)香川 DINE
2021年3月14日(日)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
2021年3月19日(金)広島 LIVE VANQUISH
2021年3月21日(日)大阪 BIGCAT
2021年3月26日(金)東京 LIQUIDROOM
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