なんとなく始めたことが、大きな夢の扉を開くこともある。大阪府出身のシンガー・ソングライターである有華(ゆか)は、Instagramに投稿したカヴァー動画によって人生を大きく動かしたひとりだ。飾らない人柄とエモーショナルな歌声が同世代の心を掴み、フォロワー数は12万人を突破。ありのままの心を映したかのように真っ直ぐな歌詞の数々は多くの人に寄り添い、今もなお、着々とファンを増やし続けている。

そんな彼女が、約1年ぶりとなるアルバム『Cherish it』をリリース。本作はCD2枚組で、ディスク1にはバンドでの録音、ディスク2にはピアノの弾き語りによるアコースティック・ヴァージョンを収録。〈今伝えたいこと〉を詰めこんだという今作は、ポップなアートワークと裏腹にしっとりしたバラードも多い。

今、彼女は何を感じ何を考えているのか。Mikiki初登場ということで、彼女のバックグラウンドから紐解いてみた。

有華 『Cherish it』 TOWER RECORDS(2021)

 

幼い頃から歌手になることを夢見て

――有華さんが歌手を目指したのは、いつ頃だったんですか?

「いわゆる物心ついたときには……っていうんですか。幼い頃から歌うことが大好きで、音楽番組を観るたびに〈歌手になろう〉と思っていました」

――卒業文集に〈将来の夢:歌手〉って書いたりとか。

「それが書けなかったんですよ(笑)。仲のいい友達が〈歌手になる!〉と常に言っているような子だったから、気後れしちゃって。同じ夢を語ると、友情が壊れてしまう気がしたんですよね」

――なるほど。

「家庭が厳しかったので、オーディションを受ける許可もなかなか下りなくて。ようやく音楽活動を始めたのは、高校生の終わりくらいから。それでも習い事のピアノとコーラスだけは小さい頃からずっと続けていました」

――習い事は、ご自身で〈通いたい〉とお願いしたんですか。

「そもそもは、姉の習い事についていっただけなんです(笑)。成り行きで習い始めたら、私だけがハマっちゃって」

――でもシンガーの歌とコーラスの歌だと、わりと別物ですよね。

「〈なんでコーラスをしているんだろう〉と思った瞬間も、もちろんありました。でも、〈軸として大事なんだろうな〉と頭のどこかで理解していたし、音大の声楽科に行きたい気持ちもあったので。学べることは学ぼうと」

――じゃあ、音大へ進学されたんですね。

「実は、そうでもなくて(笑)。結果的に、音楽療法や音楽全般を学べる女子大へ進みました。自分がやりたいのは声楽じゃなかったし、いろんなジャンルの友達が欲しかったので。音楽をしている人と話すのはすごく楽しいけど、いい意味でも悪い意味でも自分と比較しちゃう。そういう環境だと、大学がしんどい場所になってしまう気がしたんです。在学中に入っていたサークルも、インカレのフットサル・サークルでしたからね。音楽と全く関係ないという(笑)」

――プライヴェートで音楽活動をしつつ、大学生としての生活も満喫されていたと。

「経験したいと思ったことには、全部手を出していたと思います。あの頃はアグレッシヴでしたね。〈やりたいことを全部やるぞ〉って気持ちでした」

――〈あの頃は〉なんですね。有華さんは常に行動的なイメージですが……。

「学生時代は〈これしたい、やろう!〉って、思ったらすぐに行動できたんです。でも最近だと、リスクを考えたり守りに入ったりしてしまう。〈以前の素直な自分はどこに行っちゃったんだろう〉と感じることも多くて。これが大人になるということなら、ずっと子どもでいたいな……と。その気持ちは新作『Cheish it』のなかにも強く入っていると思います」

2020年のシングル“愛が溢れて胸いっぱい”のライブ映像。『Cheish it』にも弾き語りヴァージョンで収録されている