ああでもないこうでもない、を体現する音楽集団

――身体性に目覚めていったのは実際にバンド・メンバーと音を鳴らすようになったことも大きいと思うのですが、現在のメンバーとはもともとどんな関係性なんですか?

聖絵「全員ライブハウスでナンパしました(笑)。その人のプレイが好きっていうのはもちろん、〈今の人めっちゃかっこよかったね〉と私が言ったときに、それをわかってくれるっていうのも大事。あとは、自分でも私にはめんどくさい部分がたくさんあると思うから、サポートするのが大変だと思うんです。なので、唯一の共通点は〈聖絵のめんどくささに付き合える人たち〉です(笑)」

――じゃあ、プレイヤーとしてのバックグラウンドは人それぞれ?

聖絵「ピアノの(船本)泰斗くんはジャズ/フュージョン系のインストをやってて、秀くん(渥美秀仁)はヒップホップとかロック寄りの音楽が好きだったり、全員バラバラなんですけど、それが逆におもしろくて。

共通点ももちろんあるけど、まったく同じではなく、私がポンと出した曲に対して、違う角度から解釈を加えてくれるんです。例えば、(目の前のお茶を指して)〈これは何ですか?〉と訊いたときに、〈これはお茶です〉じゃなくて、〈これはコーヒーじゃない〉とか〈これはオレンジジュースじゃない〉みたいな言い方でお茶を説明してくれる。ずれることもあるけど、それによって広がりが生まれるのが好きなんですよね」

――あくまで聖絵さんの〈バンド・プロジェクト〉であって、〈バンド〉ではないというのはある意味今っぽいですよね。

聖絵「一周回ってそうなってきちゃいましたね。2011年当時は〈バンドにしなよ〉といろんな人に言われたんですけど、私はすごく違和感があったんです。今やプロジェクト的な在り方が当たり前になって、映像の人も交えてチームでやってる人がいたり、〈コレクティヴ〉という言葉を使う人がいたり……。でも本当に、始まってすぐの頃は〈バンドにしなよ〉とすごく言われたし、2017年に『MUSIC ALLEY』を出したときですら、〈バンドじゃないの?〉と言われましたけど、今回はまだ一度も言われてないですね。10年後にはどうなってるんだろう?」

――また時代が変わって、〈運命共同体、最高!〉となってたりして(笑)。

聖絵「去年は人に会いにくくなったので、オンラインのコミュニケーションが主流になったけど、Zoomで打ち合わせするのにも限界を感じたら、〈もう一緒に住もう〉となるかもしれないですよね。時代はそうやってアンチテーゼで動いていくというか。

〈un-not〉という名前はそういう意味なんですよ。違和感に応えていくことで、前に進んでいく。私的には〈un-not〉の翻訳って〈ああでもないこうでもない〉なんです。一個前のものが否定されて、次のものが出てくるけど、でも一個前のものが悪いわけではなくて、そうやって進んでいくものというか。登山で言うと、右足を乗っけて、ちょっとグラついて、次に左足を乗っけて、そうやって右左右左を繰り返して進んでいく。そんなイメージなんですよね」

 

我が道を貫くネオアコースティック・ポップ

――『MUSIC ALLEY』のリリース時には、un-notの音楽性について〈シティ・ポップ×ポスト・ロック〉という表現をされていたと思うんですけど、どちらの音楽にも様々なタイプがあると思うので、聖絵さんの考える〈シティ・ポップ×ポスト・ロック〉について、もう少し具体的に話してもらえますか?

聖絵「ポスト・ロックはロックのポストだから、かっちりしたロックを受けて、どう壊しにかかるかという挑戦だった気がするんです。『MUSIC ALLEY』の制作時はダーティ・プロジェクターズにハマってたんですけど、〈こんなのアリなんだ?〉という混ぜ方をしていて、崩し方が上手いなって。

シティ・ポップに関しては、人の歩く速度がビート感に繋がってるのか、ネオンの色がコードの音色に繋がってるのか、〈何をもってシティと言ってるんだろう?〉と思ったときに、私自身が東京生まれ東京育ちだから、シンプルに私が生きてきたビート感を音楽にしたらどうなるんだろうなと思ったんです。当時世間でシティ・ポップと呼ばれていたSuchmosさんとかも聴きつつ、自分なりにシティ感のある音楽を作ってみた感じ」

――ジャンルをジャンルとして捉えるというよりも、その言葉をどう自分なりに解釈するかを大事にしてきたと。資料には〈我が道を貫くネオアコースティック・ポップ〉とありますけど、これもジャンルとしての〈ネオアコ〉を指しているわけではなくて、〈アコースティック楽器を使って新しいポップ・ミュージックを作る〉という意味ですよね。

聖絵「そうなんです。ジャンルって難しいですよね。シューゲイザーがジャンルなのかって考えても、単純に空間系の音を使ったバンドのことを表しているような気もするし」

――ジャンルの表層をなぞるのではなくて、どう自分なりに解釈して、どう混ぜるかによって、他とは違うものが生まれるわけで、un-notはそれを体現してると思います。だからこそ、すごくいい意味で明確なルーツが見えにくい音楽になってると思うし。

聖絵「だから売りづらいって怒られますけどね。誰かのフォロワーって言った方が売りやすいから、そうしてくれと言われたこともあったけど……。〈まあいっか〉って(笑)。もちろん、リスペクトしてる人はたくさんいるんです。

ただ、ceroさんだったら“Yellow Magus”(2013年)アナログフィッシュさんだったら“PHASE”(2011年)bonobosさんだったら“THANK YOU FOR THE MUSIC”(2005年)とか、キャリア全体を通して好きというよりは特に好きな1曲があるという感じ。〈その人の全部をリスペクトしてます〉というよりも〈この人のこの瞬間がたまらない〉みたいなリスペクトの仕方で。だから、こんな変な混ざり方をしてるんでしょうね(笑)」