冒頭4カウントから鳴らされる鈍く歪んだエレキ・サズにも驚いたが、カナニの風貌がそんな音を出すとは到底想えない普通のおじさんでさらに驚く。もちろん普通のおじさんではなくアナドル・ロックの伝説ジェム・カラジャ周辺のバンドで活躍した偉大なサズ奏者であり、トルコはマラシュから渡独した70年代半ばからドイツで不当な扱いを受ける移民労働者の辛苦を歌い続けてきた表現者でもあるのだ。音源は40年ぶりとなるそうだが演奏は全盛期さながら。タイトなロック・ビートに哀愁メロが乗り、時に不協和音のようにも聞こえる複雑なトルコ音階ならではのゆらぎがサイケデリック。