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手が届きそうな距離で丁寧に奏でられる音楽

こうした経歴を経て、4作目のアルバムとなる今作『True Love』では、ビッグ・シーフやボン・イヴェールといったUSインディーの重要アーティストの作品を多く手がけているアンドリュー・サーロが共同プロデューサーとして参加。また、過去の作品を発表してきたダブル・ダブル・ワミーからグランド・ジュライ・ミュージックに移籍しての最初のアルバムとなっている。

『True Love』収録曲“Junior Day League”
 

クレジットを確認して興味深かったことではあるが、このアルバムはチャーリーの作った楽曲と、ウィルの作った楽曲がほぼ交互に並べられている。具体的にいうと1曲目の“Sometimes”、3曲目の“Lake June”、5曲目の“Around Again”、7曲目の“Joy”、9曲目の“Blindsided”、12曲目の“I Never Wanna Make You Sad”がチャーリー作曲。2曲目の“True Love”、4曲目の“GSM”、6曲目の“Hope”、8曲目の“One Bottle”、10曲目の“Hue”、11曲目の“Junior Day League”はウィルによるものだ。ハウディは楽曲の大半を二人のどちらかが単独で制作しているというが、双方の楽曲がアルバムのなかで自然とマリアージュしているように思う。この二人の相性の良さがハウディの強みであろう。

例えば、アルバム中盤でのウィル作曲の“Around Again”からチャーリー作曲の“Hope”と続く流れ。前者がデスキャブ・フォー・キューティーの珠玉の名曲“I Will Follow You Into The Dark”をも彷彿とさせる美しくも静寂で悲しげな世界だとすると、後者はアレックス・Gの音楽のようなローファイフォークとエレクトロニックが混じり合う夢幻の風景。アルバム全体のメランコリックさを際立たせるこの2曲の流れは個人的にも最大のハイライトだ。

『True Love』収録曲“Around Again”
 

「このアルバムは、私たちにとって、自分自身や愛する人のために曲を書いてレコーディングするという形に戻ったように感じられます。人々の反応を気にするエネルギーを減らしたことで、正直で心のこもったアルバムを作ることに力を注ぐことができました」

アルバム発表に合わせてこうしたコメントを残しているが、チャーリーとウィルはそれぞれのパートナーと結婚し、ウィルは父親にもなったという。彼らのコメントやプライベートの変化が示唆するように、アルバム全編には沢山の〈君〉と〈僕〉が登場する。〈君〉に対象を定めて真っ直ぐな想いから紡がれる彼らの物語は、たとえばエリオット・スミスの作品などと同様に苦悩と希望の狭間を行き来しながらも、リスナーに親密に響き渡るであろう。SNSなどを通じて不特定多数に向けて発せられた大量の情報や感情に溺れてしまいかねない現代社会と対比するように、手が届きそうな距離で丁寧に奏でられる彼らの誠実な音楽。それは遠い場所から聴く我々のようなリスナーにとっても心地よさを覚えるものとなるはずだ。

『True Love』収録曲“Blindsided”