小田和正の『自己ベスト-3』のリリースを記念して、タワーレコードではフリーマガジン「TOWER PLUS+ 小田和正 特別号」を発行! ここでは中面に掲載されたレビューを掲載いたします。「TOWER PLUS+」はタワーレコード全店にて配布中です!  *TOWER PLUS+編集部

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小田和正 『自己ベスト-3』 ARIOLA JAPAN(2024)

 

小田和正の記録ずくめのベストアルバム『自己ベスト』。前作の『自己ベスト-2』から約17年の月日を経て、3作目となる『自己ベスト-3』がリリースされた。2023年の配信限定シングルや2024年の最新タイアップ曲など、小田和正自身の納得がいくまで練られた選曲となっている。17年後に3作目が発売に至った経緯や選曲について本人が語ったコメントと共に『自己ベスト-3』を解説していこう。


 

残したい曲がまだまだある

小田和正のベスト・アルバムといえば、他のアーティストとは一線を画す『自己ベスト』のシリーズが高名である。単なる過去のベスト・セレクションにとどまらず、ソロとなった小田が、オフコース時代の名曲を、その時点で最良のものへ〈セルフ・カバー〉したトラックを含んだのが特徴だった。これにより、全キャリアから本人納得ずくのヴァージョンでの選曲が可能となり、その第一弾であった2002年4月『自己ベスト』は、内容的にもセールス的にも、大きな成果を上げたのである。その5年後には、続編の『自己ベスト-2』もリリースされている。

そして、あれから17年という歳月を経て、新たに『自己ベスト-3』がリリースされることとなった。『3』が発売されることを、ファンは想像していなかったかもしれない。なにしろ、これだけの歳月が流れたのだ。しかしこれは、小田自身の意向でもあったようだ。

「再びこうしたアルバムを出そうと思ったのは、自分には残しておきたい楽曲が、まだまだあったからなんだよ。もちろんベストとなると、〈この曲は入れておきましょう〉みたいな周囲の意見もあるわけで、そこにも従いつつ、でも自分としては、こういう機会に入れておかないと〈埋もれてしまうような曲〉にもこだわってね。全体としては少ないものの、そういう作品も選びましたね」

 

〈みんなが歌えるもの〉を目指して

全16曲。主な内容を紹介する。まずは、ここ最近の活発な楽曲制作の様子を伝える歌たちだ。ドラマ「この素晴らしき世界」主題歌“what’s yourmessage ?”や、同じくドラマ「ブラックペアン シーズン2」の主題歌“その先にあるもの”、さらに明治安田企業CMのための“すべて去りがたき日々”などである。どれも小田ならではの自然で味わい深いメロディと、真摯な眼差しによる日本語が活かされ、極上のポップ・ソングに仕上がっている。

この3曲のなかで特に注目されるのは、いま現在、明治安田企業CMとして我々の耳に触れる機会が多い“すべて去りがたき日々”だろう。小田はこの作品に関して、こんなことを話してくれた。

「“すべて去りがたき日々”というタイトルは文学的というか、ちょっと社会派な印象もあるけど、音のほうはイントロとかカントリーみたいにホンワカしているんだよ。曲を書いていた時は、“この広い野原いっぱい”(森山良子の歌でヒットした1967年リリースのフォーク・ソング)のように、シンプルで〈みんなが歌えるようなもの〉になったら、ということだったけどね」

実は〈みんなが歌えるようなもの〉というのは、今回の『自己ベスト-3』のテーマのひとつかもしれない。コロナ禍のなかで制作された“風を待って”と“こんど、君と”にも、それは共通するのである。

「結局この2曲は、気づけば同じようなテーマになっていたんだ。みんなに日常が戻ってきた瞬間を想いつつ、むしろ、コロナを感じさせない歌を目指して書いてみたりもした。“風を待って”は、確かに〈みんなが歌えるようなもの〉を目指していたところがあった。またいつか、ステージと客席が一緒になって歌える日を願ってね」

この曲には数多くのアーティストがコーラスで参加しているのだが、当時は一堂に会することが不可能だったため、ひとりひとりがマイクの前に立ち、それをあとからミックスダウンして完成されている。