PR
コラム

映画「コーダ あいのうた」耳が聞こえない家族の中で育った少女は美しい歌声の持ち主だった――マーヴィン・ゲイ、ジョニ・ミッチェル、デヴィッド・ボウイなど名曲の数々に彩られた家族の絆の物語

©2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

サンダンス映画祭で4部門受賞!
耳が聞こえない家族の中で育った少女は美しい歌声の持ち主だった。マーヴィン・ゲイ、ジョニ・ミッチェル、デヴィッド・ボウイなど名曲の数々に彩られた家族の絆の物語

 アメリカ、マサチューセッツの小さな港町。高校生のルビーは、耳が聞こえない両親と兄とともに暮らしていた。家族の中でただ一人、健聴者のルビーは家族の通訳係。子供の頃から家族をサポートしてきた。父親のフランクと兄のレオは漁師で、ルビーは2人の仕事を手伝うために毎朝3時に起きて一緒に漁に出る。おかげで学校では居眠りばかり。そんなある日、気になっていたクラスメイトのマイルズが合唱クラブに入部したことを知ったルビーは、衝動的に自分も入部。それが彼女の運命を大きく変えることになる。

 サンダンス映画祭でグランプリを始め、4部門を受賞した話題作「コーダ あいのうた」は、フランスで大ヒットした映画「エール!」(2014年)のリメイクだ。タイトルの「コーダ(Coda)」とは、音楽の世界では最終楽章のことだが、ろうあ者の親を持つ子供のこと(Children of Deaf Adults)でもある。監督/脚本を手掛けたシアン・ヘダーは「エール!」の設定を活かしながら、より家族の問題にフォーカスした物語にしている。

 ルビーは合唱クラブで音楽教師に才能を見出され、マイルズとデュエットで発表会で歌うことになる。ところが、ルビーは人前で歌うのが大の苦手。というのも、耳が聞こえない家族の中で育ったために、子供の頃に喋り方が変だとからかわれたことがあったからだ。そんなトラウマを乗り越えて、もともと歌うことが好きだったルビーは歌の才能を開花。バークリー音楽大学を受験することを勧められる。さらに歌の練習を通じてマイルズと良い雰囲気になっていくのだが、そこで思わぬハプニングが起こり、家族のことが原因でマイルズと絶交状態になってしまう。

©2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 ルビーにとって家族は大切な存在だが、10代の彼女には重荷でもある。両親はルビーに負担をかけていることは知っていながら、どうしても頼らずにはいられない。そんな関係に疑問を感じているのが兄のレオだ。ルビーが家族の犠牲になっていること、そして、自分も彼女に頼っていることが我慢できない。そんななか、以前から漁業組合のやり方に疑問を感じていたレオは、仲間の漁師たちと新しい組合を立ち上げることを決意。ルビーの力を借りず、父親と母親と3人で組合をスタートさせる。ルビーと家族はそれぞれに葛藤を抱えながら、新しい世界に踏み出そうとする。そんな物語のなかで、重要な役割を果たしているのが音楽だ。

©2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 ルビーとマイルズの課題曲はマーヴィン・ゲイとタミー・テレルによるヒット曲“You’re All I Need To Get By”。ルビーとマイルズがこの曲を学校で発表し、ルビーの歌声を聞けない父親が、ルビーの才能に気づく様子をヘダーは静寂を効果的に使って見事に捉えている。そして、バークリーの受験でルビーが歌うのはジョニ・ミッチェル “Both Sides Now”。このシーンでも家族が重要な役割を果たしていて、これまで歌うことを純粋に楽しんでいたルビーは、ここで歌を通じて想いを伝えようとする。彼女の中で歌が大切なものになった瞬間、そして、初めて歌で家族と繋がった瞬間だ。そうした名曲に混じって、調子外れの演奏で伝説になったシャッグスの“My Pal Foot Foot”が、ルビーのお気に入りとして流れるのには驚かされた。思えばシャッグスは、父親のプロデュースのもとで3人姉妹が結成したバンド。ルビーは彼女たちの曲を聴いて笑いながら、不器用でユーモラスなシャッグス一家に親近感を感じていたのかもしれない。

©2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 また本作で重要なのはキャスティングだ。ルビー役のエミリア・ジョーンズ以外、家族を演じた役者は全員、耳が聞こえない。母親のジャッキー役を「愛は静けさの中に」(1986年)で注目を集めたマーリー・マリトンに任せているところに、ヘダー監督のキャスティングにかける強い想いが伝わってくる。彼らの身体に染み付いた手話の力強く繊細な動きは、まるでダンスのように表情豊かだ。そして、彼らに負けないほど手話をマスターして、歌声も披露するエミリアの存在感も光っている。子供の頃から家族を支えてきたルビーの責任感、家族の中で一人だけ耳が聞こえることに対する疎外感など、ルビーが抱える複雑な感情をエミリアは熱演している。

 ルビーと家族はハンディキャップを持っていることを嘆いたりはしない。時に激しくぶつかりながらも、なんとか前に進もうとする。これまで助け合って生きてきたからこそ生まれた彼らの絆は、パンデミックに揺れ動く社会の中でひときわ力強く見える。その一方で、思春期を迎えて家族の中で孤立してしまうルビーの不安は、どの家庭でも若者が直面すること。そんな時、親は子供をどんな風に見守ってやれるのか。最後に父親のフランクのルビーに向けた一言、この映画で彼の唯一のセリフに、親の想いが凝縮されているように思えた。開放的な自然を背景にした爽やかな語り口で、ルビー一家にとってハンディキャップが悲しみではなく、希望に繋がっていることを描き出した本作は、まるで美しいメロディを持った歌のように心地良い余韻を残してくれる。

 


CINEMA INFORMATION
映画「コーダ あいのうた」
監督・脚本:シアン・ヘダー
音楽:マリウス・デ・ヴリース
音楽プロデューサー:ニコライ・バクスター
出演:エミリア・ジョーンズ/トロイ・コッツァー/マーリー・マトリン/ダニエル・デユラント/フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
配給:ギャガGAGA★(2021年|アメリカ|112分|PG12)
©2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
https://gaga.ne.jp/coda/
2022年1月21日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷他、全国ロードショー!

タグ