フォルクローレ音楽の比類無き愛好家=研究者=紹介者、碩学のクラシック音楽評論家として長く第一線で活躍された濱田滋郎氏(1935~2021)の遺作である。氏が愛して止まなかった3人の作曲家――19世紀末~20世紀のスペインとフランスで活躍、しかし日本ではまだまだ知られていない――についての論考をまとめている。深い研究に裏打ちされた内容ながら、学究的な固さは皆無。その語り口はつねに柔らかく、読んでいて氏の好奇心の行方を追体験しているような気分となり、紹介された作品を聴きたくて仕方がなくなってくる。氏がSNSの遙か以前からの比類無き〈インフルエンサー〉であったことを再認識させられた。