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服部良一

“東京ブギウギ”誕生、〈ブギの女王〉の時代到来

まさしく〈どん底〉にいた笠置の芸能界へのカムバックのため、同年、公私ともに支えとなった師匠・服部良一が一つの曲を書き上げる。それが、アメリカ南部のブルースの流れを汲んだ躍動感あふれる演奏スタイル〈ブギ〉を取り入れた“東京ブギウギ”だった。

    1948年のシングル“東京ブギウギ”

終戦後すぐに復興の象徴として大流行した並木路子の“リンゴの唄”とはまた違う、底抜けに陽気なブギのメロディーと歌詞、パワフルに歌いながらステージ上を跳ねる笠置のパフォーマンスは、敗戦によって暗く沈んだ人々の心を明るく鼓舞し、明日への活力を与えるものとなる。そんな日本人、そして笠置自身の歌手としての〈復興ソング〉ともなった“東京ブギウギ”は、幼き日の美空ひばりがモノマネをし、〈ベビー笠置〉として脚光を浴びるきっかけになったことでも知られている。

美空ひばりの“東京ブギウギ”のカバー

この爆発的なヒットによって一躍スターの座に躍り出た笠置は、その後も“ジャングル・ブギー”“ヘイヘイブギ−”“ホームラン・ブギ”“買物ブギー”など、服部が繰り出す多彩なブギで大衆を熱狂させる。この時30代半ばにして〈ブギの女王〉となった笠置は、華々しい活躍でキャリア絶頂期を築いていく。

1948年のシングル“ジャングル・ブギー”

1948年のシングル“ヘイヘイブギー”

1949年のシングル“ホームラン・ブギ”

1950年のシングル“買物ブギー”

やがてブギの人気が下火になると、57年、歌手廃業を宣言し、芸名を〈笠置シヅ子〉と改め、女優業に専念。その再スタートにあたって笠置は映画会社やテレビ局を回り、これまでの歌手としての高いギャラはいりません、と出演料のランクを下げるよう自ら申し出ている。その後、晩年まで映画やドラマ、舞台、CMなどで活躍し、85年3月30日、70歳でその生涯を閉じた。

 

趣里や草彅剛が出演、スターへ駆け上がる少女を描く朝ドラ「ブギウギ」

そんな笠置シヅ子をモデルにしたヒロイン・花田鈴子が、歌って踊るのが大好きな少女から戦後にスターへと駆け上がっていく姿が描かれる連続テレビ小説「ブギウギ」。自身4度目となる朝ドラのオーディションで、2,471人のなかから見事鈴子役を射止めた趣里をはじめ、作曲家・服部良一がモデルの羽鳥善一を草彅剛、笠置のライバル的存在だった〈ブルースの女王〉こと淡谷のり子がモデルの茨田りつ子を菊地凛子、大阪にある日本随一の演芸会社・村山興業の御曹司であり、鈴子の人生に大きな影響を与える運命の相手・村山愛助を水上恒司が演じるほか、蒼井優、水川あさみ、柳葉敏郎らがキャストに名を連ねている。物語の語りはNHK大阪放送局アナウンサーの高瀬耕造、脚本は、日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した映画「百円の恋」の足立紳と大ヒットドラマ「マルモのおきて」の櫻井剛が担当。なお本作はオリジナル作品となる。

 

服部家が継ぐ〈ブギ〉の音楽と昭和のビッグネーム登場への期待

さらに注目すべきは、大河ドラマ「新選組!」「真田丸」や「HERO」「半沢直樹」など数々の話題作を手掛けてきた作曲家であり、服部良一の孫でもある服部隆之が音楽を担うことだろう。祖父・良一からバトンを受け継ぎ、彼が紡いだ昭和歌謡の魅力あふれる世界を現代に蘇らせていく。

また、服部は主題歌“ハッピー☆ブギ”を作詞作曲。EGO-WRAPPIN’の中納良恵、シンガーソングライターのさかいゆう、そしてヒロインの趣里をボーカルに迎えた“ハッピー☆ブギ”は、服部いわく〈笠置シヅ子と服部良一によるブギへの讃歌〉。軽快なブギのリズムに乗せたパワフルでソウルフルな3人の歌声がドラマのオープニングを彩ることになる。

劇中には“東京ブギウギ”や“買物ブギー”といった数々の名曲が登場することが予告されているが、笠置シヅ子という伝説が刻まれたそれらのナンバーに挑む趣里の、かつて打ち込んだクラシックバレエ仕込みのパフォーマンスは必見だ。

そして、服部良一や淡谷のり子のみならず、戦後に度々共演して名コンビとなった喜劇王の〈エノケン〉こと榎本健一や、笠置の1年後輩にあたり、長く交流を続けた東京松竹楽劇部の男装の麗人〈ターキー〉こと水の江瀧子、48年に公開された映画「酔いどれ天使」の挿入歌として笠置が歌った“ジャングル・ブギー”の作詞を手掛けた黒澤明と主演を務めた三船敏郎、さらに〈ベビー笠置〉からやがて天才歌手へと急成長を遂げて歌謡界に君臨した美空ひばりなど、笠置と関わりのあった昭和の傑物たちとのエピソードが描かれるのかどうか、実現するとすればその配役にも大いに期待がかかる。