植物学の父・牧野富太郎の人生に寄り添う花や草木の音楽を聴く
4月から始まったNHK・朝の連続テレビ小説「らんまん」の主人公・万太郎のモデルは植物学の父・牧野富太郎博士だ。1862年高知県佐川の造り酒屋の長男として生まれ、物心ついたときから大の植物好き。もぐさのお灸で病弱な子供時代を乗りきる。小学校中退で東大の講師に。自叙伝によると「独学で植物学を学び、植物分類学の権威として、新種1000種、新変種1500以上の日本植物を命名。採集した標本は60万点に及ぶ」。(「牧野富太郎自叙伝」講談社学術文庫)
観察眼と審美眼の持ち主は、音楽と歌謡も好み、西洋音楽の普及運動にも貢献。東京から帰郷した明治25年〈高知西洋音楽会〉結成。楽譜を集め、指揮して歌い、小学校に高価なオルガンを寄付した。
さて、ドラマ「らんまん」の劇中音楽を手がけているのは、ピアニストで作曲家の阿部海太郎だ。箱根〈クレマチスの丘〉の美術館庭園イメージ曲を発表している彼の音楽には、植物への慈しみの心が溢れている。パリ大学留学中は、蚤の市でボタニカルアートのレプリカに魅せられて蒐集していたというエピソードも。
アルバム『らんまん』には、牧野富太郎に縁のある植物を中心に、草木や花の名を冠した曲が並んでいる。一曲目の“ヤマトグサ”は、主人公のテーマソングだ。“ジョウロウホトトギス”に文明開化の響きあり。“オオバコ”の生命力溢れる躍動感。“スイフヨウ”の耽美的な神秘性。“ササユリ”に古楽的な弦楽の響き。“コオロギラン”にモリコーネの映画音楽のような世界観。“ミツバアケビ”にサティを感じ、ベルエポック時代の五人組や、図形楽譜を夢想する。叩きものが粋に響く“ヤマザクラ”。17曲目の“ユキモチソウ”には実存主義哲学な自由への調べ。21曲目“ヨウラクラン”は、帰天した坂本龍一へのオマージュのように感じる。ラスト曲“カサスゲ”には、カヤツリ科スゲ属の生命力。人生に寄り添う花や草木のような音楽たち。ドラマの登場人物の心象風景に重ね、牧野富太郎の描いた植物図鑑を眺めながらしみじみ聴くのもいい。
TV INFORMATION
連続テレビ小説「らんまん」
作:長田育恵
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん “愛の花”
語り:宮﨑あおい
出演:神木隆之介/浜辺美波/志尊 淳/佐久間由衣
笠松 将/大東駿介/成海璃子/池田鉄洋/安藤玉恵/宮澤エマ/牧瀬里帆
ディーン・フジオカ/寺脇康文/広末涼子/松坂慶子 ほか
制作著作:NHK
https://www.nhk.jp/p/ranman/ts/G5PRV72JMR/