HARIKUYAMAKUの沖縄民謡 × ダブに身を任せて

 沖縄出身で現在も同地に在住しているHARIKUYAMAKUがニュー・アルバム『Mystic Islands Dub』をリリースする。沖縄の古謡をダブワイズした2012年のアルバム『島DUB』で注目された彼だが、子どもの頃は沖縄の音楽を熱心に聴いていたわけではなかったという。

 「特に夏のお盆の時期とかには普通に耳にするので、熱心に聴かなくとも頭の中で流れているくらいでした。でも、中学時代はレッチリのコピー・バンドをやってたので、アメリカのロックが自分の中ではいちばんカッコ良かったんです」。

 バンドではベースを弾いていたが、ヒップホップや打ち込みの音楽を聴きはじめたことから、サンプラーを使い1人で曲作りを始めるようになった。

 「THA BLUE HERBのトラックメイカーのO.N.OさんのソロやDJ KRUSH、外国人だったらプレフューズ73とかを聴くようになり、ラップはなくてインストで聴かせるビート・ミュージックを制作するようになりました」。

 

沖縄民謡とレゲエの共通点とは

 現在のHARIKUYAMAKUの音楽の根幹を成すひとつの大きな軸は、間違いなくビート・ミュージックだ。2000年代後半から2010年代にかけて、フライング・ロータスらを輩出したムーヴメントはピークを迎えていたが、その時代にHARIKUYAMAKUもビートを作り、CD-Rに焼いて手売りしていた生粋のビートメイカーだった。ただ、彼は民謡の存在を忘れなかった。

 「〈民謡はダサい〉とかには絶対にならなかったですね。カッコいいってわけでもなかったんですけど、なんかこう、ちょっと特別ではあったと思います」。

 その〈ちょっと特別〉な存在が、彼に転機をもたらした。バックパッカーで東南アジアを巡る旅を経て民族音楽への興味が湧き、やがて沖縄の音楽を再発見することになる。

 「他の国の音楽を探してんのに沖縄の音楽はよう知らんな、みたいな気持ちになってきてからですね。沖縄の音楽を自分なりに意識して、民族音楽的な視点で聴くようになったんです」。

 そして、沖縄の音楽を自分のトラックに取り入れるようになった。同時にダブにもハマり、そのふたつがトラックで融合した。そうしたアプローチの後押しをしたのが、京都から沖縄に拠点を移したDJのSINKICHIだったという。

 「今回の『Mystic Islands Dub』のマスタリングをしていただいたSINKICHIさんは、もうとんでもなくいいDJで、昔から大好きなんですけど、自分には畏れ多い人だったんです。でも、音源にすごく反応してくれて、〈ライヴをしなよ〉って最初に誘ってくれた。そこで初ライヴをしたのを覚えてますね。SINKICHIさんはエンジニアとしても凄いので、作業を見ながら技を盗んでました(笑)」。

 沖縄の音楽とダブ、その交わりには確かな手応えを当初から感じていたが、実際に制作することでその理由は明らかになった。

 「作ってみると、本当にハマったのは裏ですね。裏でリズムを取るのがレゲエの特徴でもありますけど、沖縄の民謡も本当にそうで、まずリズムの取り方が一緒だった。あと、沖縄の民謡にないものがベースなんです。低音のメロディー楽器がないんですけど、逆にレゲエはベースがいちばん目立つ音楽だなと思ってたので、沖縄の音楽に低音を付け加えるっていうおもしろさがありましたね」

 まさにピンポイントで音楽的な共通点と補うものが見つかったと言える。

 「本当にそうですね。沖縄の民謡では、囃子も絶対に裏なんです。囃子が録音されてない曲だとしても、例えば盛り上がったときに〈イエーイ〉って言うんじゃなくて、みんな〈ハ、ハ、ハ〉と裏で言うんですよね。それをレゲエの裏打ちにまた転換できて、まさに補完し合える関係というか。そこにすごい興奮しながらやっていました」。

 

原曲の雰囲気を強調したかった

HARIKUYAMAKU 『Mystic Islands Dub』 コロムビア(2023)

 『Mystic Islands Dub』では、ギター、ドラム、ベースなど生楽器も目立ち、スカ・バンドのように聴こえることもある。一方では、ミニマル・ダブやアンビエントのような響きも聴かれる。多彩なレイヤーがあるのが魅力になっている。

 「最初は自分一人だけで、パソコンのDTM上で簡単な打ち込みのデモを作っていったんですけど、そのときはジャマイカ的なレゲエ~ダブと民謡で一貫した方向性のアルバムを作ろうっていう気持ちでした。その考えをバーンって開いてくれたのは、バンド・メンバーでしたね。みんなでスタジオに入るたびに、いろんな音楽をまず聴かせてくれるんですよ。〈こんな感じを混ぜてもいいんじゃん〉って。そういった影響を受けながら、どんどん考え方が広がっていって、 ヴァリエーションがいっぱいあったほうが絶対おもしろいとなっていったんです」。

 バンドとは、以前から活動を共にしてきた銀天団だ。当初はレゲエ・バンドだった彼らも、音楽性を広げていった。

 「レゲエの有名な曲、有名なリディムをカヴァーして、ダブで遊ぶところから始まり、 やっていくうちに、エレクトリックな要素や2000年代のダンス・ミュージックもどんどん取り入れるようになって、謎の進化を遂げていったんです(笑)。自分ももともと、実験っていうのはとても好きだったので、銀天団の面々と一緒になると〈何でもやりたいようにやっていいんだ〉という感覚を思い出します」。

 本作は、沖縄が本土復帰する以前の65年にリリースされ、いまは失われた歌も含めて同地の伝統音楽を網羅した、極めて資料的価値の高い16枚組のレコード『沖縄音楽総攬』に収められた古謡の音源が使われている。つまり膨大なアーカイヴ音源から生まれたダブ・ミックス作品でもある。

 「『沖縄音楽総攬』の存在は知ってましたし、CDとして音源化されてたのもだいぶ前から聴いていました。いちばん好きな沖縄の音楽です。だから、使用させてもらえることになって、このうえなく嬉しかったです。民謡っていうよりは、まさに民族音楽として聴けるっていうところが好きな点。あの音源は、売るための音楽とはかけ離れた存在というか、そこに痺れますね」。

 伝統的な音楽を現代的な手法を介して再構築することは、さまざまなジャンルで試行錯誤が為されてきた。本作『Mystic Islands Dub』もそうした試みのひとつではあるが、より自然に混じり合い、成立しているように感じられるのが、とても印象的だ。

 「まず経験があったのは、デカかったのかなと思います。一人で淡々とやってたので、沖縄の伝統的な音楽のメロディー、構成的なところは癖を掴んでた。今回、上手いアレンジができたのも決め手としてありましたね。原曲の持つ雰囲気を絶対に邪魔しないっていうのを、本当に強く意識しました。かつてないぐらいに意識したんです。壊すのではなく、むしろそれを強調させる、音に溶け込むようなアレンジは強く心掛けてました。そこが上手くいったような気がします」。

 確かに、『Mystic Islands Dub』は単なるダブ・ミックスとは言えない。原曲のメロディーやハーモニーを尊重して、丁寧にアレンジが施されている。

 「いままでは自分が好きなダブのトラックを作って、それに沖縄の音楽をハメるみたいな、DJ的なミックス、違うものを合体させるやり方でしか考えてなかった。今回はトラック自体も元の曲にちゃんと寄り添うものを作ろうとした。その影響はあるんじゃないかと思ってます」。

 HARIKUYAMAKUは、54分に及ぶサウンドスケープ作品『Subtropica』を配信で発表している。シンセサイザーやフィールド・レコーディング音源から作られたものだ。多様な文化、文脈が織り成す『Mystic Islands Dub』には、それらも潜んでいる。だから、本作には風通しの良さと、さらなる開かれた可能性を感じるのだ。

HARIKUYAMAKUの2012年作『島DUB』(tower of dub)

HARIKUYAMAKUの参加作品を一部紹介。
左から、ODODOAFROBEATの2023年の12インチ『kokumo』(oneblowrecord/JET SET)、稲嶺ゆきの&HARIKUYAMAKUの2021年の7インチ“大島ヤンゴー節”(Tower Of Dub/JET SET)、THEUSの2016年作『Just to of THEUS』(guruz)

『沖縄音楽総攬』収録曲から久保田麻琴が選曲/リマスターした2018年のコンピ『かなす ウチナー』(コロムビア)。HARIKUYAMAKUもリミックスで参加。

 

〈沖縄〉や〈ダブ〉をキーワードに、『Mystic Islands Dub』から広がる12枚

CHURASHIMA NAVIGATOR 『LIFE IS TREASURE』 budryukyu(2018)

HARIKUYAMAKUは、沖縄の民謡や民俗芸能をベース・ミュージック視点から再解釈するこのグループにも関わっている。沖縄民謡の唄者である堀内加奈子の歌声とヘヴィーかつダビーなトラックが混ざり合い、唯一無二の南洋ダブを生み出している。 *大石

 

blue asia 『Sketches of MYAHK』 HIGH CONTRAST/ヴィヴィド(2009)

沖縄本島や八重山諸島とも異なる神唄の文化を育んできた宮古諸島。その世界に魅了された久保田麻琴が、同地の神唄や古謡に楽器演奏を重ねて作り上げた一枚。のちに同名のドキュメンタリー映画が制作され、国内外で大きな話題を集めた。 *大石

 

DJ GEETEK 『RYUKYU STANDARD Remix by DJ GEETEK』 Tuff Beats(2018)

沖縄民謡をサンプリングしたダンス・ミュージックの先駆者といえば、沖縄出身の彼だ。本作は沖縄民謡のスタンダードに取り組んだ比屋定篤子とサトウユウ子の2015年作をリミックスしたもの。チルアウト的なムードもまとったメロウなダンス・トラック集だ。 *大石

 

琉球アンダーグラウンド 『ウムイ』 リスペクト(2009)

沖縄民謡とダブを混ぜた先駆者としてHARIKUYAMAKUもリスペクトしているデュオの現時点での最新作。半数が沖縄のわらべ唄を使った楽曲で構成されており、郷愁を呼ぶ歌の残響に溶けていく様が気持ち良い。アフロに接近した楽曲など、いまだに新鮮だ。 *田中

 

沖縄電子少女彩 『doomsday~終末~』 infogarage(2022)

2000年生まれの彼女は、新垣睦美と並んで沖縄ローカルのエレクトロニック・ミュージックを作る注目株。ノイズ~アヴァンギャルドの領域にも足を踏み入れ、これまでに灰野敬二や非常階段とも共演。本作には七尾旅人も作詞作曲で参加している。 *大石

 

KOJUN 『THE WATER GARDEN/水中庭園』 BE-JAM/em(1993)

沖縄の伝説的なバンド、六人組のメンバーとして知られる國場幸順がソロ名義で発表した一枚で、30周年を迎えて初LP化が実現したばかり。琉球王朝交易時代の〈平和なアジア〉がテーマの本作は、微笑と極楽気分をもたらしてくれる電子音楽集だ。 *田中

 

Wa No Wa 『Wa No Wa RMX&DUB』 CROSSPOINT/TUFF VINYL(2023)

奈良にある障がい者支援施設の利用者12名がクワイアーチャイムを演奏した2011年のアンビエント作を内田直之らがリミックス。ラッパーのRITTOやSINKICHIら、HARIKUYAMAKUと親交のある沖縄勢も参加しており、ドープなグルーヴを加えている。 *田中

 

OKI 『Tonkori In The Moonlight』 Mais Um(2022)

アイヌの伝統弦楽器、トンコリ奏者のOKI。彼はOKI DUB AINU BANDでアイヌの伝統を土台とするルーツ・ロックを鳴らしているが、本作は世界各地の音楽を紹介しているロンドンのレーベルから出たソロ集。トンコリのディープな音色がダビーに響く瞬間も。 *大石

 

こだま和文, Undefined 『2 Years/2 Years in Silence』 rings(2022)

MUTE BEAT時代から今日に至るまで、静けさ漂うトランペットの音色を響かせてきたこだま和文。ミニマル・ダブに軸足を置くUndefinedと彼の共演作からは、アンビエントとダブの親和性が浮かび上がる。HARIKUYAMAKUとの共通点も多い一枚。 *大石

 

NST & THE SOUL SAUCE, KIM YULHEE 『Version』 Eastern Standard Sounds/Pヴァイン(2019)

韓国でも自国の伝統芸能や民謡をアップデートする動きが盛んになっている。韓国の伝統芸能であるパンソリとルーツ・レゲエ/ダブをミックスする彼らは、その先頭を走るバンドだ。日本を代表するダブ・エンジニアである内田直之の参加もポイント。 *大石

 

HOLLIE COOK 『Happy Hour In Dub』 Merge(2023)

ダブの醍醐味を堪能できる作品として本作を挙げておこう。ホリー・クックが昨年発表したラヴァーズ・ロックの傑作『Happy Hour』のダブ・アルバムである。深い音処理によって原作が持つ甘さをサイケデリックに変換。骨格となるリズムの太さも浮き彫りに。 *大石

 

AFRICAN HEAD CHARGE 『A Trip To Bolgatanga』 On-U Sound/BEAT(2023)

こちらはガーナ音楽×ダブか。パーカッショニストのボンジョ・アイヤビンギ・ノアとUKダブの牽引者、エイドリアン・シャーウッドによるユニットの新作。ダビーな音響処理が施されたアフリカの多彩なリズムには脳内トリップ必至。仕事中は聴いちゃダメ! *田中