朴訥とした歌声を持つ心優しきオールドボーイの傷だらけの歌たち

 初ソロ・アルバム『バルド』から14年、上々颱風のリーダー、紅龍の歌がいまどのあたりを旅しているのか詳細に報告してくれるのが、ニュー・アルバム『ラヂオ・マンチュリア』だ。コンセプトは〈歴史の中に消えた植民地国家“満州”(マンチュリア)にて夢見られたアジアのラジオ放送局からの仮想楽曲集〉(ライナーノーツより)とのことで、全体的にレトロな配色が施されているが、プログラムの曲調は実に多彩。

紅龍 『Radio Manchuria』 ライス(2024)

 永田雅代のピアノが紡ぐ黄昏色の響きといい、ランディ・ニューマンを彷彿とさせる音世界が広がる“木樵の唄”、アサイラム時代のトム・ウェイツの横顔がぼんやり浮かんだりする“悪い奴ほどよく眠る”、ラスカルズの懐かしいヒット曲がふと脳裏によみがえる“愛から始めよう”など、レイト60~アーリー70sに誕生したヴィンテージなUSロック・サウンドの断片がそこかしこに散見されるが、いま挙げた固有名詞に馴染みがなかったとしても、悠然としていてそれでいて甘美な音の調べに触れたなら、アルバムの底部に静かに流れる喪失感や郷愁を共有できるはず。

 ユーモラスなホンキートンク・ブルース“本日も人生に反省の色はなし”や、センチメンタルな情感に溢れた讃美歌“Glory Hallelujah”をはじめ、有名な楽曲の有名なフレーズが不意に顔を出すことから頻繁にデジャヴが発生するという特徴もまた特記すべき事項だろう。

 と、いろいろ書いてはみたけれど、何よりも魅力を放っているのは紅龍のヴォーカル、これに尽きる。とりわけ抒情的なメロディを持った曲で光る朴訥とした佇まい(どこか往年の西岡恭蔵を思い起こさせる味があり)。ときに刺すような痛みを与える毒のあるフレーズも含め、とにかくあらゆる言葉がこちらにまっすぐ届くところが良いのだ。

 約束の地をめざす船に乗り遅れてしまった者へ捧げる心優しきオールド・ボーイの傷だらけの歌たち。ユニークな顔立ちの道連れたちと奏でるアンサンブルも滋味豊かな極上楽曲集となっている。

 


LIVE INFORMATION
紅龍(上々颱風)ニューアルバム『RADIO MANCHURIA』発売記念ミニライブ&サイン会

2024年10月6日(日)タワーレコード渋谷店6F TOWER VINYL SHIBUYA
開演:19:00
出演:紅龍(ヴォーカル/ギター)/永田雅代(ピアノ)/その他ゲスト
対象商品:紅龍『RADIO MANCHURIA』(ライス・レコード:OSR-3258)
詳細:https://towershibuya.jp/2024/08/23/202962