ツインギターが幾何学的に絡み合い、目まぐるしく展開するアンサンブルの上を、スリリングかつ高揚感あふれるメロディーが駆け抜けていく。吉國唯をゲストボーカルに迎え配信リリースされたRyo Umekawaの新曲“Analog Intelligence”は、高密度でスリリングなポストロック/オルタナティブロックであると同時に、AI時代に人間が音楽を作る意味を問いかける一曲だ。
一方、asmiと歌う“週末のマーチ (Weekday Version)”では、ブラスを交えたカラフルなサウンドとコミカルな掛け合いによって、働く日々の慌ただしさをポップに描き出す。こちらは2026年9月30日(水)にタワーレコード限定でCDシングルとしてリリースされる。
一見対照的な2作だが、そこには〈誰もが抱えながら、わざわざ口にしないことを歌う〉というRyo Umekawaの姿勢が一貫している。
会社員として働きながら、週末を中心に作曲、作詞、編曲、録音を行ってきたRyo Umekawa。ほぼ初めてとなるロングインタビューで、その歩みと制作方法、AI音楽に対する率直な感情、そして人と人をつなぐものとしての音楽について聞いた。
〈誰もが思っているけど、わざわざ口にしないこと〉を口にする
――音楽を始めたきっかけから教えてください。
「中学2年生の頃、母親が姉にギターを買ってきたんです。でも、姉は2日くらいでやめてしまって(笑)。そのまま置いてあったギターを僕が触るようになり、ようやく1曲弾き語りができたところから、本格的に音楽を聴くようになりました。最初によく聴いていたのはスピッツや斉藤和義さんなど、フォークソング寄りの音楽です」
――その後、かなり早い段階から曲作りや録音も始めたそうですね。
「中学3年生くらいでバンドを始めました。人に見せるには音源があった方がいいけれど、当時は誰かに録音してもらえる環境もなかった。それで家のパソコンにソフトを入れて、ある程度聴ける形にできないか研究し始めたんです。バンドではオリジナル曲を中心に活動して、僕が作曲することが多かったですね」
――吉國唯さんとのユニット〈カシコ、阻上ノ鯉〉は、どのように始まったのでしょう?
「最初にやっていたロックバンドが解散した頃には、DTMのスキルも少しずつ身についていました。僕らは北海道出身なんですけど、当時、札幌で別のバンドにいた吉國さんの歌がすごく良くて、自分の曲を歌ってもらえたら面白いだろうと思って声をかけたんです。対バンなどを通じて知り合っていて、仲も良かったので、〈いいよ、やろうよ〉と言ってくれました」
――そこからRyo Umekawa名義のソロ活動に移ったのは?
「仕事の都合で転勤することになって、吉國さんとすぐに会うのが難しくなったことがきっかけです。ユニットでの活動を進めにくくなったし、異動先には友人もいなかったので、それなら自分で歌ってみようと思いました。その頃にはアレンジも含めて、だいたい自分で曲を形にできるようになっていました。
DTMの扱い方は音楽の学校などに行かず、ほぼ独学です。ソフトの使い方は調べましたが、フレーズや音作りは世の中に参考となる曲がたくさんあるので、それを聴いて試行錯誤しながら学びました。影響を受けたアーティストとして一番大きいのはRADWIMPSで、比較的最近ではヨルシカですね」
――楽曲制作はどのように進めていますか?
「曲にもよりますが、まずテーマから考えることが多くて、最初からパソコンには向かいません。何を伝えたいのか、それを伝えるにはどんな曲調やメロディーが合うのかを考え、頭の中で全部の音を鳴らす。そこで8割くらい作ってから、パソコンで再現していく感覚です。歌詞を考えるのは最後ですね。座って考えることもあれば、歩いたり走ったりしながら考えたりもします。そうして考えた歌詞をパソコンに打ち込んではまた外で考える、そんなことを繰り返しています」
――Ryo Umekawaらしさは、どんなところにあると思いますか?
「ずっと大事にしているのは、〈誰もが思っているけど、わざわざ口にしないこと〉を自分が口にすることです。僕自身、本当に辛い時には音楽が頭に入ってこなくて、そういう時に聴ける音楽はあまりにも少ないと感じていました。辛い時に綺麗事なんて聞こうとも思えない。だから、そういう人にも聴いてもらえるよう、言葉にしづらいことをテーマにしてきました。音の面では、メロディーとコード進行だけで、言葉がなくても少し泣けるようなものを目指しています。そこに良い歌詞がはまるのが理想です」

AIで生成された曲は応援する相手がいない
――会社員として働きながら音楽を作ることは、作品にも影響していますか?
「影響していると思います。僕のように働きながら音楽活動をしている人は珍しいと思いますが、聴いてくれる人の中には同じように日々頑張って働いている人もいると思うんです。その大変さや、本当の気持ちを口にしづらいことも痛いほどわかるので、発信する手段を持っている僕が代わりに言わなければ、という思いがあります。
デメリットはやっぱり時間ですね。平日の昼間は何もできないので。一方で、一般的な会社員の生活に属しているからこそ、どこで何に悩むのかを具体的に理解して、解像度の高い言葉にできる。それは強みだと思います。限られた時間だから集中できている部分もあるかもしれません。会社員としての収入があるので、生活面での不安を抱えずに制作できているのも大きいです」
――“Analog Intelligence”は、どんな問題意識から生まれた曲ですか?
「空いた時間にショート動画を見ることが多いのですが、AIが作った曲がかなり増えていて、意外とかっこいいんですよね。それを聴いた時、僕を含めたミュージシャンたちはどう思うのだろうと考えました。悔しくなったり、自分がやっていることをもったいなく感じたりする人もいるだろうなと想像していたら、実体のないAIを相手にクリエイターが喧嘩を仕掛けている絵が浮かび、それが面白いと思ったのが最初の発想です」
――AI生成された曲を一方的に否定するのではなく、その完成度を認める気持ちも歌われています。
「正直、良い曲もあります。でも、良いと思って聴いても、自分の中だけで終わってしまう。作曲の勉強にはなりますが、CDを買おうとか、応援するためにコメントしようとは思えないんです。そこには応援する相手がいないので。この感動をどこにぶつければいいのか。音楽の醍醐味の一つが欠けているという違和感を、思い切り曲にしようと思いました」
――ご自身は音楽制作にAIを使っていますか?
「制作には基本的に使っていませんが、今回は〈AIとの対話〉という設定で敢えて作詞にGoogle Geminiを一部使用しました。普段の仕事では文章の構成を考えたりする時に使うこともあります。ただ、音楽で使っていないのは積極的に拒んでいるというより、僕自身が制作に使えるAIツールをまだ十分に知らず、対応できていない面もあります」

“Analog Intelligence”は僕自身の決意の歌
――吉國さんとの再共演は、最初から想定していたのでしょうか。
「この曲は2人が言い合う形を前提に作っていました。誰に歌ってもらうかを後から考えたというより、作っている最中から吉國さんの声で脳内再生していたんです。以前一緒に音楽をやっていたので、どんな歌になるかも想像できましたし、この曲に合っていると思って、最初からお願いするつもりでした」
――ツインギターが幾何学的に絡み合う、高密度で硬質なバンドサウンドも印象的です。どのように組み立てていきましたか?
「このテーマなら、熱くてかっこいい、少しハードなサウンドにしようと最初から考えていました。まず特徴的なリフが頭に浮かび、その続きを作るように別のセクションが次々と出てきて、それを打ち込んでいったんです。AメロとBメロは歌詞の密度が高いので、とにかく言葉を詰め込みたかった。音数が多い上に音程まで激しく動くと歌詞が入ってこないので、16分音符が横一列に並ぶようなメロディーにした方が伝わるだろうと、感覚的に判断しました」
――この曲を通して、人間が音楽を作る意味をどのように考えましたか?
「二つあると思います。一つは、人が作ることで新しいものを生み出せること。もう一つはコミュニケーションです。聴く人は〈このアーティストはこう考えているんだ〉〈自分と同じ意見だ〉と感じられる。僕もリスナーの方からコメントなどで〈同じことを考えていた〉〈言いたいことを言ってくれた〉と伝えられると、同じように考えている人たちがいるんだとわかる。遠いようで近いコミュニケーションが、音楽の魅力だと思います」
――人間も過去の音楽から影響を受け、その組み合わせによって曲を作ります。それでも人間固有のオリジナリティーは存在するのでしょうか?
「もちろん人間も過去のものを参考にします。音楽という枠組みではドレミファソラシドしかなく、その組み合わせだという点ではAIも人間も同じかもしれません。ただ、人間にはその人にしか生きられない人生がある。それによって同じものを見る角度が変わり、作品も大きく変わる。そこが、人間が音楽を作る意味であり、オリジナリティーだと思います」
――Ryo Umekawaの作品史において、“Analog Intelligence”はどんな位置づけ作品ですか?
「これまでの会社員の日常に沿った曲からは少し外れますが、僕自身の決意の歌です。音楽を作るスタンスを前面に出した曲で、〈僕は手作りで、誠実に曲を作っていく〉という姿勢を表しています。これまでもそうしてきましたし、これからもそうしていく。その決意を示す作品です」

asmiと成長した新入社員の平日を歌った“週末のマーチ (Weekday Version)”
――“週末のマーチ (Weekday Version) feat. asmi”は、以前発表した“週末のマーチ”をasmiさんとともに再構築したものです。まず、元になった“週末のマーチ”は、どんな経験から生まれたのでしょう?
「もともとは、札幌を離れて地方勤務をしていた頃にできた曲です。当時は土日も連絡がくれば動かなければならないような働き方でした。週末も予定を入れず、作曲をしていてもすぐ車で出られるようにしていたんです。
一方、同期には、平日はものすごく早く帰って、土日は会社からの電話を無視してでも遊び尽くす人がいました。僕自身はそういう生活ができなかったけれど、本来はその人の方が正しいと思うんです。しっかり休むことや早く帰ることを悪とする空気に対して、〈休む方が正しい〉と大きな声で言いたかった。それがこの曲の背景です」
――二宮和也さんによるカバーを経て、曲の届き方は変わりましたか?
「反響が大きくなり、聴いてくれる人が増えました。二宮さんのファンの方もたくさん聴いてくださるようになったのですが、SNSの通知が平日の昼間になると、きっかり止まるんです。それを見て、その方たちも平日にしっかり働いているのだと実感しました。そういう生活を送っている人たちに届いたことが、個人的にはすごく嬉しかったですね」
――今回、“週末のマーチ (Weekday Version) feat. asmi”として曲を再構築したきっかけは?
「レーベルのスタッフさんから〈Weekday Versionを作ってみたらどうか〉と提案されたのが発端です。〈平日版〉という言葉が自分の中ですごくしっくりきました。オリジナルのリリースから2年ほど経ち、当時の新入社員も、何もわからない状態から仕事を任され、忙しく働く時期に入っている。そこへ平日の慌ただしさをぶつけ、過去の作品をリバイバルしようとインスピレーションがどんどん湧いてきました」
――asmiさんを迎えた理由を教えてください。
「この曲も最初から二人で歌う前提でした。何より僕自身がasmiさんの大ファンで、今回も勝手にasmiさんの声で脳内再生しながら作っていたんです。特に2番のBメロは台詞の掛け合いのようになっていて、asmiさんと男性ボーカルが少しあざとく掛け合ったら、すごくかわいくなると思いました。思い切ってお願いしたら快諾してもらえました」
――初のフィジカル作品を、タワーレコード限定のCDシングルとして発表する意味は?
「3曲入りで、1曲目が“週末のマーチ (Weekday Version) feat. asmi”、2曲目がA.G.Oさんによる“週末のマーチ (Friday Night Version) A.G.O Remix”、3曲目がオリジナルの“週末のマーチ”です。平日、金曜の夜、そして週末という流れを表しています。サブスクではアルバムやカップリングを順番に聴く機会が少なくなっていると思うんです。CDなら3曲を並べて聴いてもらえるので、この流れを体験してほしい。それがフィジカルにした理由です」
人に直接会って自分の音楽をぶつけたい
――最後に、今後挑戦したい音楽や表現について聞かせてください。
「“Analog Intelligence”では、これまでにない激しい曲調に挑戦し、サウンドの幅を広げられたと思います。これからも表現の幅は自由に広げていきたい。ただ、〈誰もが思っているけれど、わざわざ口にしないこと〉を、自分の本音で歌詞にする姿勢は変えません。サウンドはどんなジャンルにも挑戦したいですが、メロディーとテーマの部分はぶれさせないつもりです。
あと、ライブもやっていきたいです。これまではかなりインドアな活動をしてきたので不安もありますが、単純にライブへの憧れがある。こういう曲を作っている以上、人に直接会って音楽をぶつける機会はあった方がいいと思うので、今後準備していきたいです」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年8月26日(水)
TRACKLIST
1. Analog Intelligence feat. 吉國唯
リリース日:2026年9月30日(水)
品番:NCS10362
価格:550円(税込)
タワーレコード限定CD(完全生産限定)
TRACKLIST
1. 週末のマーチ (Weekday Version) feat. asmi
2. 週末のマーチ (Friday Night Version) A.G.O Remix
3. 週末のマーチ
PROFILE: Ryo Umekawa
平日会社員/週末クリエイター(作詞、作編曲)。生活の中で目を背けたくなるような現実、苦闘や葛藤を赤裸々に描き出すリリックで、慣れることのない痛みに正面から向き合う人間の〈リアルミュージック〉を体現し、リスナーにとっての救いや逃げ場となる音楽を創造する。
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