タワーレコード渋谷店6階にオープンしたスタンディングバー、〈TOWER RECORDS BEER〉。10万枚のレコードに囲まれてビールが飲める、音楽好きにとっては至福の場所だ。そこに今年でデビュー50周年の節目を迎えたムーンライダーズの鈴木慶一が来店。まずは酒のツマミになるレコードを選んでもらい、TOWER RECORDS BEERでしか飲めないオリジナルビールを飲みながら、共に長い付き合いとなる酒と音楽をめぐる話を訊いた。

レコード掘って一息ついて、TOWER RECORDS BEERで〈とりビー〉
――随分、熱心にレコードをご覧になってましたね。
「レコードを見るのは久しぶりだったよ。もう、指でこういうの(レコードをめくっていく仕草)がやれなくなってきた。だから、レコード探しに疲れた時にバーで一杯飲めるのはありがたい。でも、酔っ払って気前が良くなって高いレコードを買っちゃいそうだな(笑)」
――確かに危険かも(笑)。慶一さんが選んだレコードには数万の値段がついているものありますから。
「びっくりしたよ。これ、全部持ってるレコードなんだけど、なんて言ったりしてね」
――レコードショップのフロアでお酒を飲む、というのは不思議な感じですが、これまで慶一さんは、そういうところで飲んだことがありますか?
「ないね。ニューヨークのレコード屋の入り口にバーがあったことがあったけど、あまり例がないんじゃない?」

――慶一さんがTOWER RECORDS BEERでビールを立ち飲みしている姿がすごく様になってました。キンクス『Muswell Hillbillies』(1971年)のジャケットみたいで。
「やっぱり、ビールは家で飲むより店で店員に入れてもらう方が美味しいね。さっき(TOWER RECORDS BEER)もそうだったけど、ヘラでビールの泡を整えてビールが美味しく飲める泡の量にしてくれる。自分で入れるのとは味がかなり違うと思うな。
家から80歩くらいの近所にスタンドで飲めるところがあって深夜2時まで開いているんだ。夜中に作業が終わって1時半くらいだと、〈よし、今から1杯飲みに行こう〉ってことになる。といっても、1杯では終わらなくて3杯は飲んでしまうけどね。1杯で帰れたら世界新記録(笑)。TOWER RECORDS BEERはビールの種類が多くて驚いたよ」
――こちらでメニューから3種類のビールをチョイスしてみましたが味はいかがですか?
「〈TEN DAYS AFTER〉はかなり個性が強いね。〈BRIT HOP〉は飲みやすい。でも、好みで言うと〈BAY PILSNER〉かな。チェコのピルスナーの味。いちばんビールらしいビールっていう感じがする」
――そういえば、ムーンライダーズに“冷えたビールがないなんて”という曲があります。歌詞に〈恋愛と同じでコップは小で/何度も飲むのが通よ〉という一節がありますが、それが慶一さん流のビールの飲み方ですか?
「それはね、昔、音響ハウスでCM音楽のレコーディングした後に野宮真貴ちゃんと銀座のライオンで飲んだことがあったんだよ。中ジョッキでビールを飲んでいたら、隣に座った知らない老紳士にいきなり声をかけられたんだ。〈あなた、ビールは小で頼んだ方がいいよ。中は飲んでるうちにぬるくなるから〉って言われた。なるほどそうかと思って、それ以来、ビールを頼む時は小を頼むようにしている」
――へえ、粋な紳士ですね。慶一さんはいろんな種類のお酒を飲まれていると思いますがビールはよく飲みます?
「店に行ったらとりあえずビール。〈とりビー〉だよ。そして、ここ10年くらいビールのあてはハムエッグにしている」
――ハムエッグですか。こだわりを感じさせますが、何かきっかけがあったんですか?
「サッカーをした帰りによく寄る三ちゃん食堂っていう大衆食堂があって、そこは昼間からお客さんで満員なんだよ、そして、ほとんどの客がビールとハムエッグを頼んでいる。ハムエッグっていうのは店によって全然味が違うんだけど、ここの店は絶品。多分、卵の焼き方が重要なんじゃないかな。私は半熟で薄い膜が張っている卵が好きなんだ。その店のハムエッグは、卵が2つ、ハムは3枚、それにキャベツを添えてある。私はハムエッグには醤油とコショウ。キャベツにはソースをかけるんだ
――猛烈にハムエッグが食べたくなってきました(笑)。慶一さんとお酒の付き合いは長いんでしょうね。
「ロック喫茶ではビールが飲めたから、ロック喫茶を入れたらバーには1970年くらいから通ってる。昔はそんなに量は飲めなかったけど、バンドを始めてやさぐれた生活になって、今に至るまで毎晩飲んでるよ。昼ご飯を食べる時にビールがないと物足りないし、朝何も食べないでビールを飲む、〈朝ビー〉をすることもある(笑)」
――〈とりビー〉に加えて〈朝ビー〉とは(笑)。これまで慶一さんはいろんなバーで飲まれてきたと思いますが、慶一さんにとってバーというのはどんな場所ですか?
「2種類あって、ひとつは音楽を聴きに行く場所。渋谷のジャズ喫茶、ブラック・ホークはお喋り禁止だった。もうひとつは喋る場所。ワールドカップとかスポーツ観戦をしながらマスターやお客さんとの会話を楽しむ。どっちにしても良い音楽がかかっているバーがいいね」