歌のチカラで元気になれるエナジームービー!
みんなに笑顔をもたらす映画。それが「SING/シング」だ。歌がもたらす前向きなエネルギーと明るいユーモアに溢れた老若男女が楽しめる作品となっている。
監督・脚本はガース・ジェニングス。「銀河ヒッチハイク・ガイド」「リトル・ランボーズ」などで知られる監督のアニメ―ション初挑戦である。ただし、アニメは初めてでも、彼は音楽と映像の組み合わせの専門家だ。90年代にブラーやR.E.M.などのミュージック・ヴィデオの監督として名を挙げた人で、近年もレディオヘッドとのコラボを続けているのだから。
「SING/シング」の世界は多種な動物が人間のように暮らす街。主役はコアラのバスター・ムーンで、子供のときからミュージカルに魅せられ、亡き父の援助を受けた劇場を経営してきたが、どの作品も当たらず、銀行に差し押さえに合う瀬戸際だ。そこで起死回生をねらった興行を考えつく。音楽の力を楽天的に信じる一方で、口先巧みなペテン師的な部分もある男の声をマシュー・マコノヒーが好演する。
基本的な筋は目新しくない。ミュージカル黄金時代によくあった「レッツ・プット・ア・ショウ・オン(ショウを上演しよう)」と呼ばれる、初日の幕が開くまでの経緯を描く作品に倣ったもの。だが、そこに現在の要素が加えられる。上演されるのは「アメリカン・アイドル」のようなタレント・オーディションなのである。
賞金が10万ドルと誤って印刷されたため、大挙押し寄せた出場希望者から選ばれた決勝進出者たち。彼らはその結果が人生に変化をもたらすことを願っている。25匹の子豚の世話に追われる主婦豚のロジータ(リース・ウィザースプーン)、盗人一家の息子で、足を洗って歌手になる夢を心に秘めるゴリラのジョニー(タロン・エガートン)、支配欲の強い傲慢な彼氏に従うヤマアラシのパンク少女、アッシュ(スカーレット・ヨハンソン)、特大のエゴの持ち主で、うさんくさい詐欺師でもあるジャズマンのネズミ、マイク(セス・マクファーレン)、そしてパワフルな歌声に恵まれながら、極度のあがり症で人前で歌えないティーンエイジャーのゾウ、ミーナ(トリー・ケリー)といった顔ぶれだ。
彼らとその境遇を次々紹介していく序盤から、多彩な動物が登場するオーディション場面までの前半は、アニメならではの速いテンポで突っ走るのが小気味よい。そして、中盤で驚きの事件が起こり、登場人物たちがいったん行き詰まるところから、物語はもっと感情に訴えるものとなる。賞金目当ての出場者たちが助け合う集団となり、誰かからの賞賛ではなく、自分自身を信じることが重要と悟るのだ。そして、そんな彼らが心の底から「歌う」クライマックスを迎える。
そんな本作の最大の魅力は、登場人物たちの個性にぴったり合った声優のキャスティングにあり、全員が素晴らしい歌声を聞かせる。ウィザースプーンはジューン・カーターを演じてアカデミー賞を獲った「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」で歌唱力を実証済みだし、ヨハンソンはアルバムを発表している歌手でもある。マルチな才能で知られるマクファーレンはシナトラのレパートリー3曲でクルーナー歌手ぶりを発揮して憎たらしいほど。ケリーはグラミー賞にもノミネートされた若手歌手で、おもしろいことに「アメリカン・アイドル」出演経験者だ。そして最大の発見は、「キングスマン」で知られる英国俳優エガートンだろう。その優しい歌声は多くの観客を魅了するに違いない。
本作の書下ろしは2曲のみで、おなじみのヒット曲が詰め込まれたジュークボックス・ミュージカルとなっている。その数は60曲以上にも及ぶ。ビートルズの〈ゴールデン・スランバー〉で幕を開け、スタンダードから最新ヒットまで、レディ・ガガ、ケイティ・ペリー、テイラー・スウィフトなどの人気曲を含む幅広い選曲がされているのだ。ハイライトのひとつには、昨年末の米国公開直前にレナード・コーエンが亡くなり、意図せぬ追悼にもなったケリーの歌う〈ハレルヤ〉もある。映画館の帰り、思わずお気に入りの曲をハミングしている自分に気づくはずだ。
映画『SING/シング』
監督・脚本:ガース・ジェニングス
オリジナル・スコア作曲:ジョビィ・タルボット
〈声の出演〉マシュー・マコノヒー/リース・ウィザースプーン/セス・マクファーレン/スカーレット・ヨハンソン/他
配給:東宝東和 (2016年 アメリカ 108分)
3月17日(金)全国ロードショー!
(C)Universal Studios.
sing-movie.jp