不測の事態を乗り越え、改めて確認した自身の武器。〈この4人で行くしかない〉という決意は、バンド史上もっともヘヴィー・メタルなサウンドのなかで美しく輝く!

 

自分たちなりのヘヴィー・メタル

 「メンバーが4人になって〈俺らのいちばんの武器はなんだっけ?〉と振り返ったときに、〈ヘヴィー・メタル〉という言葉が出てきたんですよ」(苑、ヴォーカル)。

摩天楼オペラ PANTHEON -PART 1- ベルウッド(2017)

 今年でバンドの結成から10周年を迎えた摩天楼オペラ。彼らがニュー・アルバム『PANTHEON -PART 1-』を完成させた。昨年7月のライヴをもって、ギタリストが脱退。それを受け、残る4人体制で10月に発表した前作『PHOENIX RISING』に続く今作は、冒頭の苑の言葉にあるように真正面からヘヴィー・メタルと向き合った、激しい一枚に仕上がっている。

 「『地球』(5人体制での最終作となる2016年のフル・アルバム)は変化球を意識した曲作りだったけど、その頃から〈次はストレートな作風にしたい〉という話は出てました。その意味で、今回のアルバムは前作の流れも汲んでますね」(彩雨、キーボード)。

 「前作もストレートだけど、まだ〈いろんな表情を見せなきゃいけない〉と思ってたんですよ。その点、今回のほうがよりヘヴィー・メタルを突き詰めた作品になったなと」(悠、ドラムス)。

 摩天楼オペラが本作で掲げた〈ヘヴィー・メタル〉とは、どのような音を指すのか。〈メタル〉と一口に言ってもさまざまなサブ・ジャンルがあり、100人いれば100人それぞれの思うサウンドがある。

 「偏ってるかもしれないけど、僕のなかのヘヴィー・メタルは〈メロディック・スピード・メタル〉なんです。とにかくメロディーが良くて、テンポが速い。ツーバスをドコドコ踏んでるイメージですね」(苑)。

 例えばハロウィーンやX JAPANなど、アグレッシヴさとメロディアスさの両方を研ぎ澄ませたメタル・サウンドは、確かに摩天楼オペラのルーツのひとつ。今回に関しては、そこを〈自分たちが向かうべき方向性〉として定めたわけだ。その象徴となる楽曲を訊ねてみると……。

 「“PANTHEON”ですね。まず、ちゃんとヘヴィー・メタルしているし、摩天楼オペラがやるからこその大仰さもある。あと、メロディーもいちばん説得力がありますからね。この曲にタイトル曲としてのパワーがあるからこそ、ほかの曲も活きてくると思うんですよ」(苑)。

 そう苑が語るように、本作にはメロスピを柱にしつつもさまざまなヴァリエーションのメタル・サウンドが収められている。苑が作詞/作曲を手掛けた“Couse Of Blood”は、今作中でもとりわけエッジーな疾走ナンバー。メタル特有の邪悪な香りもプンプン漂ってくる。

 「メロスピは美しいから、ガツガツ、ゴリゴリした部分に欠けるので、ライヴを意識して激しい曲を作りたいなと。じゃあ、スラッシュ・メタルをやってみようと思って、この曲はギターで作りました。16分をすごく刻みましたもん(笑)。ただ、僕の引き出しにはスラッシュがなかったので、悠にどういうものか訊いたんですよ」(苑)。

 「メタリカの“Battery”、アンスラックスの“Caught In A Mosh”、スレイヤーの“Angel Of Death”。参考になればと思い、王道のスラッシュ・メタルの曲を聴かせました(笑)」(悠)。

 「〈ああ、これがスラッシュ・メタルか〉って。〈でも、俺は(メタルと言えば)メロスピだし……〉と思いながら(笑)、そのせめぎ合いのなかで作りました」(苑)。

 より過激な音色、演奏を追い求めるなか、本作ではこれまでと違うプレイ・スタイルにもトライしている。キャリアを積み重ねながら、新しい領域にチャレンジする姿勢も忘れていない。

 「音源を出すたびに、いままでやらなかったことに取り組もうと。今回は速い曲が多いので、ピック弾きを練習しました。自分としては、そこがこの10年間でいちばん変わったところかもしれない。〈俺は絶対に指弾きなんだ!〉と思ってましたからね。さっき話に出た“Curse Of Blood”は全部ピックで弾いてるんですよ。指とピックでは全然ニュアンスが違うし、疾走感を出すためにはピック弾きだなと」(耀、ベース)。

 また、今作は昨年からライヴでサポートを務めているLIGHT BRINGERのJaYがギターで参加しているのもトピックだろう。

 「JaY君は前に出て行くような性格でありつつ、音楽的に空気を読むのも上手いんですよ。アレンジも僕のシンセを聴き込んだうえでしてくれて、結果的にシンセも前に出やすくなりましたね。ギターもキーボードも上手く絡み合ってると思います。曲のコンセプトがしっかりしていたから、シンセも入れやすかったですね」(彩雨)。

 

この4人で行くしかない

 さらにアルバムの後半には、摩天楼オペラらしさを重んじたアプローチや、逆に従来のバンド像に縛られないテイストの楽曲も収録されている。メタルと言えば、インストゥルメンタルも魅力のひとつ。“SYMPOSION”は初めて耀、彩雨、悠の3人で作り上げたインスト曲だ。

 「インストはこれまで前のギタリストが作っていたけど、今回は耀が〈インストをやる〉と言い出したんですよ。みんなでアイデアを出しつつ、聴きどころの多い曲になったと思います。ベーシックは耀が作って、それに僕がメロディーを付けた感じです。ちょっといままでのインストとは毛色が違うかなと」(彩雨)。

 「いままでのフル・アルバムには必ずインストが入っていたから、4人になってそういうアプローチがなくなるのは寂しいなと思って、今のメンバーで作り上げられたらいいなと。このインストを経て、次の曲に繋がる流れも考えました」(耀)。

 笛のように聴こえる神秘的なシンセを用いたインストから、次の“何度目かのプロローグ”へバトンを繋ぐ。この流れはほかのメタル・ナンバーとは別の表情を垣間見せ、作品にいいフックをもたらしている。

 「全体的に疾走感のある曲が多いので、1曲ぐらいハード・ロックっぽい曲があってもいいかなと思って作ったのが“何度目かのプロローグ”。サビ以降の構成は苑が考えてくれたんですよ。いままでも8ビートの曲はあったけど、また新しい感じに仕上がったなと。どっしりしてるし、これぐらいのビート感で明るいメロディーの曲は意外となかったから」(耀)。

 「その曲は仮タイトルが〈俺なりのボン・ジョヴィ〉でしたからね(笑)。今作にはいつものしっとり聴かせるバラードはないけど、“何度目かのプロローグ”はある意味バラードのようにも聴こえるし、こういう広がりのある曲も好きですね」(彩雨)。

 現在の4人のメンバーの個性を一曲一曲に凝縮し、ソリッドにしてストレートなメタルで攻めた『PANTHEON -PART 1-』。そんな本作は、歌詞においても「〈この4人で行くしかない、自分たちを信じて前に進もう!〉という内容ばかり」(苑)だという。摩天楼オペラの覚悟と決意に満ちた渾身のメタル・アルバムを、ぜひ聴いてみてほしい。

摩天楼オペラのベスト盤。

 

『PANTHEON -PART 1-』と併せて聴きたいヘヴィー・メタルな面々

X JAPAN THE WORLD~X JAPAN 初の全世界ベスト~ ワーナー(2014)

「『ART OF LIFE』は半分骸骨のYOSHIKIさんの顔を配したジャケも衝撃的だった」とは過去の取材における苑の弁。1曲29分の大曲である同名曲の起承転結を重んじたドラマティックな曲展開は、摩天楼オペラにも通じる。〈V系とヘヴィー・メタルの融合〉という意味でも摩天楼に強い影響を与えた重鎮バンド。 *荒金

 

HELLOWEEN Keeper Of The Seven Keys Part I RCA(1987)

摩天楼オペラが掲げる明るいメロスピのルーツは、ジャーマン・メタルの旗頭と言える彼らの存在が大きい。アニソンの如く親しみやすいメロディーが特徴で、大仰でスピード感溢れるメタルの旨味が本作には凝縮されている。“I'm Alive”“Future World”など、摩天楼好きに薦めたい名曲のオンパレードだ。 *荒金

 

ANGRA Angels Cry Eldorado(1993)

ギターのキコ・ルーレイオがメガデスに加入し、二足のわらじとなったことでも話題を呼んだブラジル発のメタル・バンド。ハロウィンの薫陶を受けながら、独自の音楽性を確立したこのデビュー作は衝撃的だった。名曲“Carry On”を含む本作は、クラシカルなシンフォニック・メタル/メロアピの代表作と言っていい。 *荒金

 

METALLICA Master Of Puppets Elektra(1986)

“Battery”は〈スラッシュ・メタル四天王〉の一角を担った彼らの代表曲にして、シーンのなかでも突出した輝きを放つアンセムだ。シンガロング必至の歌メロ、わかりやすいギター・リフ、疾走感抜群の曲調は文句ナシの完成度。この曲を収録したサード・アルバムは、日本でもブレイクのきっかけになった重要作。 *荒金

 

BON JOVI This House Is Not For Sale Island/ユニバーサル(2016)

リッチー・サンボラが不在の状態で作り上げた最新アルバムは、全米で初登場1位をマーク。アメリカを代表するハード・ロック・バンドの面目躍如たる楽曲群は、近作のなかでもダントツの良さ。広大な大地を思わせるスケール感と、動きの激しい独特のベースラインは摩天楼も参考にしているような。 *荒金

 

LIGHT BRINGER monument ネクサス(2014)

無期限活動休止を発表した直後に届けられたフル・アルバム。キーボードを擁したプログレッシヴな作風や、女性ヴォーカルのFukiが歌い上げるキャッチーなメロディーなど、摩天楼オペラとの共通項が多く見い出せるバンドだろう。ギターのJaYが摩天楼の新作『PANTHEON -PART 1-』に参加しているのも納得の人選だ。 *山口

 

Far East Dizain ZENITH/NADIR DIZAIN(2016)

ジェントやエレクトロニコアの攻撃的な成分を超絶技巧で消化し、ダークかつ美麗な音世界を作り上げる4人組のV系バンド。ギターのLead(BABY METALの神バンドでも活躍中)は、摩天楼オペラの前回のミニ・アルバム『PHOENIX RISING』のサポートを務めているが、過去にはリズム隊と同じバンドで活動していたことも。 *山口

 

NIGHTWISH Dark Passion Play Spinefarm(2007)

彩雨が自身のルーツに挙げるように、世界のシンフォニック・メタル勢に多大なる影響を与え続けているフィンランドの国民的バンド。本作から2代目ヴォーカリストのアネット・オルゾンが加入して耳馴染みの良いメロディーが増えたこともあり、この界隈の初心者リスナーは、本作から入るのも一興かと。 *山口

 

GALNERYUS UNDER THE FORCE OF COURAGE バップ(2016)

日本のメロスピ/シンフォニック・メタルの雄。本作は記念すべき10枚目のオリジナル・アルバムであり、バンド初のコンセプト作。タイトル曲は、14分を超えるドラマティックな組曲になっている。結成15周年を経ていることもあってか交友関係も広く、付属ブックレットのサンクス欄には摩天楼オペラの名も。 *山口

 

JUDAS PRIEST Painkiller Columbia(1990)

〈メタル・ゴッド〉をフロントに据えるこのバンドの諸作のなかでも〈傑作〉と誉れ高い一枚。摩天楼オペラの“BURNING SOUL”は、冒頭から表題曲を彷彿とさせるツーバスの連打で幕を開ける……という連想もあるが、それ以前に“Painkiller”のドラム・フレーズは摩天楼のライヴの際に必ず組み込まれており、ファンにはお馴染みのものだ。 *荒金

 

Versailles The Greatest Hits 2007-2016 ワーナー(2016)

昨年、活動休止から復活を遂げた5人組。〈耽美派最強バンド〉と賞される通り、シンフォニック・メタルやメロスピの荘厳さをフィーチャーした、気品ある美麗なアレンジが特徴だ。海外での評価も高く、ワールドツアーも開催している。ヴォーカルのKAMIJOは、インディー時代の摩天楼オペラを見い出した兄貴的存在。 *山口

 

様式美を現代的に更新してきた摩天楼オペラの歩み

 〈摩天楼〉に象徴される現代的なセンスと、〈オペラ〉のような伝統的様式美。彼らのバンド名は、理想とする音楽性を抽象するものでもあり、活動初期から確立していた摩天楼オペラのパーソナリティーは、同時にメンバー個々のプレイヤーとしてのポテンシャルの高さも伝えていた。早くから実力派として注目された所以は、当時の楽曲をコンパイルした『INDIES BEST COLLECTION』を耳にすればすぐにわかるだろう。事実、結成から約3年でメジャーへ進出。まさに名刺代わりとなるデビュー・ミニ・アルバム『Abyss』(2010年)は、SIAM SHADEやJanne Da Arcなどを手掛けた明石昌夫をプロデューサーに迎え、すべての面において完成度が高まった一枚だった。特にオープニング曲“INDEPENDENT”が放つ勢いに、新たな世界に意気揚々と飛び込んでいく気概が見て取れる。

 続くフル作品となった『Justice』(2011年)は、持ち前のシンフォニックなアレンジを施したハード&ヘヴィーなサウンドでまとめながら、よりドラマティックに進化。自身の音楽性の本質をより深く見つめた成果が、着実に表れていた。そうした〈核〉を再確認した彼らは、さらなる一歩を踏み出す。その結果として生まれたのが、『喝采と激情のグロリア』(2013年)だった。表題に冠された言葉は制作に向けて掲げられていたテーマでもあったが、以降の特徴にもなっていく〈合唱〉を大幅に採り入れたことで、力強さも美麗さも併せ持つ、摩天楼オペラたる壮大な世界が際立って描かれている。そして『AVALON』(2014年)では、前作を受けての〈シンフォニック・モダン・ロック・オペラ〉を提唱。特に終曲の“天国の在る場所”は、荘厳な光景が瞬時に思い浮かぶ象徴的なマテリアルだろう。

 加えて、それまでの歩みを高次元で形にしたのが『地球』(2016年)だった。より追究されたドラマ性と、幻想的な物語。地球を構成する五大元素(土、水、火、風、エーテル)を中心的なテーマに据えて書き下ろされた楽曲群は、コンセプト作ならではの性格が色濃く表出している。彼らが辿ってきた音楽的旅路の最初の終着点とも言える傑作だ。同作の発表後に〈ギタリストの脱退〉という予想だにしなかった事態を迎えたバンドは、その危機的状況を爽快に打破した『PHOENIX RISING』(2016年)をリリース。彼らの基盤であるヘヴィー・メタル色を前面に押し出したアプローチは、文字通りに不死鳥の如き新たな飛躍を予感させた。その信念は最新作『PANTHEON –PART 1-』にもそのまま継承されている。 *土屋京輔

摩天楼オペラの作品。