大阪を拠点に活動する4人組ロック・バンド、Acidclankが3曲入りのセカンド・シングル“Lionel”をリリースする。ヴォーカル&ギターのYota Moriによる宅録ユニットとして2014年にスタートしたAcidclankは、Bandcampにて2枚の音源をリリースしたのち、Moriと同じ軽音楽部のギターYmgcとベースのKazuma Takai、そして元Atomic stoogesのドラマーKozue Hirayamaが加入し現在のバンド編成となる。
本作はTOWER RECORDSの3店(渋谷店、新宿店、梅田マルビル店)のみで限定販売された“Rocks”(2017年)に続くシングルで、ライドやオアシス、ジーザス・アンド・メリーチェインといった、90年代のUKギター・バンドへのオマージュをてらいなく表明したサウンド・プロダクションがとにかく瑞々しい。また、同じフレーズを延々とループさせる手法や、いわゆるJ-Pop的なフォーマットからは著しく逸脱した曲構成など、Moriが傾倒するダンス・ミュージックからの影響も感じさせる。そして何より強烈な印象を残すのは、彼の歌声だ。曲によってモリッシーやジム・リード、リアム・ギャラガーといったロック・アイコンたちを彷彿とさせ、Acidclankの強力な武器となっている。
まだまだ未知数な部分も多い彼ら。その全貌を明らかにするため、Moriにインタヴューを試みた。
楽曲のすべてをコントロールしたい
――元々AcidclankはMoriさんのソロ・プロジェクトだったそうですが、Moriさんはどのようにして音楽に目覚めたのですか?
「音楽を始めようと思ったキッカケが、中学生の頃、家に置いてあった父親のギターを触り始めたことだったんです。最初は父親の影響で、家にあったフォーク大全集などを聴き、3フィンガー奏法を練習して。そうやっていろんな曲をコピーしていくうちに、オアシスなどのUKロックにたどり着いて、そこからどんどん聴くものが広がっていきました」
――それは例えばどういったものでしたか?
「オアシスからまずはその周辺のブリット・ポップ、マッドチェスターなど、しばらくはUKロックを中心に辿っていったんですが、ピンク・フロイドに当たってプログレばっかり聴いていた時期もあったりして。そういう感じで掘り下げていきましたね。僕は基本的にポップな音楽が好きで、最初にオアシスが好きになったのも、ポップでシンプルだからっていうのがあったと思います。オアシスの曲は、アコギで弾きやすいんですよね」
――なるほど。自分で曲を作ってみようと思ったのは?
「しばらくは1人でギターの練習をしていて、ある時ルーパーという、音を自在に重ねられるエフェクターを手に入れたんですよ。それを使えば自分でフレーズを作ってどんどん重ねていくことができるんですけど、それがメチャクチャ楽しいことに気づいてしまって。本格的に宅録をするにはどうしたらいいのかを、そこから自分で調べ始めましたね。〈どういう機材が自分に向いているのか?〉とか、そういう情報を集めていました」
――当時はどんなオリジナル曲を作っていたのですか?
「いろんな曲をコピーしていく中で、格好良いリフだと思ったものをマネして、似たようなリフを作ってみたり、それを見よう見まねで重ねてみたりしていました。その頃は自分からバンドを組むとかはまったく考えていなくて、とにかく家で自由に曲を作っているのが楽しくて仕方なかったんですよね。フレーズにしても、他人が考えたものより自分で考えたものだけで組み立てたいというか。……あ、でもそれはバンドを組んだ今も変わっていないか(笑)。自分で楽曲のすべてをコントロールしたいという気持ちがあるのだと思います。ちなみに、同じ宅録始まりのバンドということで、クラウド・ナッシングスのディラン・バルディには共感する部分が多いですね」
★黒田隆憲によるディラン・バルディのインタヴュー記事はこちら
――2015年9月にBandcampにてリリースした宅録8曲入音源『Inner』は、Moriさんが完全に1人で作ったのですか?
「はい。宅録で作っています。ドラムは音源をMIDI鍵盤で打ち込みました」
――そうだったんですね。完成度がメチャメチャ高いですよね?
「ありがとうございます。全然素人ですし、あのアルバムに関しては、バラバラに作っていた素材の寄せ集めみたいなところがあるのであまり統一感は感じられないかもしれないですけど、確かに〈生っぽさ〉を出すためにいろいろな工夫はしています。僕の曲って結構ザラついた感触だと思うんですけど、そういうのも、例えばIK MultimediaのAmpliTubeというプラグインのギター・アンプ・シミュレーターをドラムにかけるなどしているんです」
――へえ! そういうワザはどうやって思いついたんですか?
「思いつきです(笑)。大してDAW※の勉強をしたわけでもないので、ソフトをいじりながら試行錯誤していくなかで思いついたアイデアなんですよね。もちろん、音の研究もしました。例えばオアシスなどの楽曲を別のトラックに立ち上げ、自分の音源を聴き比べながら、近づけるよう試行錯誤を繰り返したりとか」
※〈Digital Audio Workstation〉の略で、PCで作曲する作業を行う(管理する)ソフト全般のこと
――ちなみに今、DAWソフトは何を使っているんですか?
「Ableton Liveを使っています。僕が好きなUKロックって、例えばドラム・フレーズをループ的に延々と繰り返すようなアプローチをよくしているんですね。それを真似して、気に入ったブレイクビーツは〈Live〉のクリップに保存しておいて、〈ここぞ〉という場面で使っています。そういう感覚的な使い方ができるという面でも〈Live〉は気に入っていますね。結構、エレクトロ界隈の人も使っているじゃないですか。僕はエレクトロも大好きで、実はそれもあって使いはじめたんです。そのうちAcidclankも、バキバキのエレクトロになったりして(笑)」
――Moriさんがエレクトロにハマった理由は?
「最初はマッドチェスターからハウスを掘っていきました。エレクトロの中でも僕は、エイフェックス・ツインが特に好きで、そこからの影響は多少あるのかもしれないです。ちなみにエイフェックスの中では『Drukqs』が一番好きですね。ちょっとアナログっぽい音を出しているところとか。それにエイフェックスはメロディーもいいじゃないですか。そのあたりも曲作りのうえで参考にしましたね」
――オアシス繋がりで、ノエルが参加したケミカル・ブラザースとかアンダーワールド、ファット・ボーイ・スリム、プロディジーなどは?
「ああ、もちろん大好きです」
――さっきMoriさんもおっしゃっていたように、Acidclankの楽曲は同じフレーズの繰り返しが多いじゃないですか。そのあたりはクラブ・ミュージックからの影響も大きいのですか?
「それはたぶんありますね。やっぱりJ-PopっていうとAメロ、Bメロときてサビ、みたいなバンドばっかりなので、ちょっと天邪鬼的にやっているところもありますが(笑)。僕が好きな海外のバンドは皆、ミニマムな構成で飽きさせない楽曲を作っているので、それをめざして作っていますね」
――同じようなアプローチをしている日本のバンドで共感するのは?
「やっぱりD.A.N.とか。彼らはミニマムなアレンジで、構成などとても変わっていますよね」