日本とセルビアのミュージシャンが生み出したチャーミングなアヴァン・ポップ

 ペンギンと一緒に歩く。そんな奇妙な名前を持ったウォーク・ウィズ・ザ・ペンギンは、スティールパン奏者の町田良夫と、セルビアのバンド、チンチが意気投合して生まれた。町田がツアーで何度かセルビアを訪れたことをきっかけに、両者の間で交流が深まっていったらしい。ファースト・アルバム『Steal a Spoon for You』を発表したのが2007年なので、本作は実に10年ぶりのセカンド・アルバムだ。前作ではチンチのメンバー4人全員が参加していたが、本作ではイレナ・ヴァニッチ(ヴォーカル)、ジョルジェ・イリッチ(ヴォーカル、ギター)と町田(ヴォーカル、スティールパン、シンセサイザー、ターンテーブル、その他)の3人が中心。メンバーは少なくなったが、ジム・オルーク・バンドの山本達久、ラッパーのパラネル(Low High Who?)、NYのシンガー、ミシャをはじめ、ジャンルや国籍を越えたゲスト達がアルバムに彩りを与えている。

WALK WITH THE PENGUIN Charm AMORFON(2017)

 バンドの3人が中心になりながら、スティールパン、バンジョー、チェロ、グロッケンシュピール、トイピアノなど様々な音色が浮かんでは消えて、そのサウンドは雲の形が変化していくのを眺めているような楽しさがある。メロディは温もりに満ちていてシンプルで親しみやすいが、エレクトロニカ、ボサノヴァ、ファンクなど様々な音楽性がさりげなく盛り込まれていて、歌われる言語は、日本語、セルビア語、英語、フランス語と様々。曲ごとにアイデアがちりばめられ、音と遊んでいるような開放感とチャーミングな歌心が、彼ら独自のポップ・センスを生み出している。ニュー・ウェイヴやポストロックを思わせるポップな実験性は、ステレオラブやハイラマズなどに通じるところがあるが、ニュー・オーダー“リグレット”を愛情たっぷりにカヴァーしていたりも。

 音の余白を大切にして繊細にデザインされた音響空間や、アルバムを包み込む浮遊感が心地良くて、ペンギンとは無理でも、このアルバムと一緒に秋の夕暮れを散歩したくなる。