©Katsunari Kawai

日本のジャズミュージシャンたちと作り上げた初のソロ・アルバム

 Moon――その音楽を表すのになんと相応しい名前だろうか。限りなく優しく、時にひんやりした感触を与える魅惑の歌声。それは自身がフェイヴァリット・シンガーに挙げるジュリー・ロンドンの世界にすごく近い。何よりも豊かなイメージを与えてくれるのがいい、と伝えたところ、「私の本名がムン・ヘウォン。そこから取ったんですが、そもそも美しいものが好きだから」と彼女は人懐っこい微笑みを浮かべた。そんなフレンドリーな魅力も湛えたクール・ビューティーのアルバム『Kiss Me』。日本でもおなじみの韓国のジャジー・ポップ・ユニット、WINTERPLAYのヴォーカルだった歌姫のソロ・デビュー作だ。

Moon Kiss Me ユニバーサル(2018)

 「日本でアルバムを作りたいという思いが形になったのがこの作品です。収録されているのはいつかソロ・アルバムを作ったら歌いたいと思っていた曲たち。例えばシックスペンス・ノン・ザ・リッチャーのカヴァー“Kiss Me”。どこかでこの曲いいわね、って言ってしまったら、ほかの誰かが先に歌ってしまうかもしれないので、口には出さず心の中で温めてきたんです(笑)」。

 プロデュースは伊藤ゴロー。元々彼の音楽の良きリスナーだった彼女、リラックスしてレコーディングに臨めるよう環境を整えてくれたことが嬉しかったそう。

 「彼はまるで長い友人であるかのような雰囲気作りをしてくれました。常々私は音楽をとおして人柄がわかることが大事だと思っているんですが、まさに彼はそういう音楽作りを実践していて、うらやましい部分ですね。すべてのアーティストがこうありたいと願うようなアーティストじゃないかなと思います」

 随所に散りばめられたブラジル音楽のエッセンスをはじめ、間口の広いサウンド・プロダクションが施されており、特に彼女の低音の良さを巧みに惹き出すことに成功している点が素晴らしい。スウィートだけでなくビターな味わいが魅力なのだ。

 「意識したのは、ジュリー・ロンドンのアルバムを聴いたときのような感覚が投影できたらいいなってこと。自然に聴いてもらえることを目指しながら、そこで自分の表現したいことがきちん出せるかどうか。そしてさまざまなことができるという可能性をオープンにしたつもりです」

 またTOKUや小沼ようすけといったゲストのジェントルなサポートも聴きものだ。なかでもピアニスト、ハクエイ・キムとの共演曲“絆”(韓国でとても大変有名な橋幸夫の曲のカヴァー)は、柔らかくも凛とした歌声を美しく輝かせており、綺麗な夜空を映し出してくれる。そんな麗しい光景が折り重なってできた『Kiss Me』。この季節に持ってこいの1枚だ。

 


LIVE INFORMATION

アルバム『Kiss Me』発売記念ライヴ
○2018年6月3日(日)、4日(月)
場所:渋谷 JZ Brat SOUND OF TOKYO
出演:Moon(vo)/伊藤ゴロー(g)/佐藤浩一(p)/鳥越啓介(b)/守真人(ds) ※スペシャル・ゲスト有り
http://www.jzbrat.com/liveinfo/2018/06/