©Katsunari Kawai

韓国で大ヒットしたデビュー作に続き新作『Tenderly』も伊藤ゴローがプロデュース!

 韓国出身のジャズ・シンガー、Moonがデビュー作に続き、新作『Tenderly』も伊藤ゴローのプロデュースで、日本のミュージシャンとレコーディングした。

 「前作で初めてゴローさんと組んだのですが、私の望む音楽を本当によく理解して下さり、思い描いていたとおりのアルバムを作ることが出来ました。だから、今回もお願いするのはごく自然なことでしたし、みなさんともう一度やれて、私はラッキーです」

Moon Tenderly  ユニバーサル(2019)

 選曲には彼女の意見が多く反映されている。「私ならこう歌う」と直感でひらめいた曲がいつも候補曲になり、そのジャンルは、ロックからポップ、ジャズと幅広い。そのなかで今回は特に、「多くの人達から愛され続けている、素晴らしいメロディの楽曲を意図的に選んでいます。それらをオリジナルの魅力を壊さないという前提で、モダンなサウンドにアレンジしています」と言う。その代表的な存在がスタンダード・ナンバーの“スワンダフル”だと思うけれど、収録曲の中には意表を衝くグリーンデイの“ウェイク・ミー・ アップ・ホウェン・セプテンバー・エンズ”というカヴァーもある。「最初スタッフにもグリーンデイ?と驚かれたけれど、以前韓国のラジオ番組で、この曲をギタリストとのデュオでパフォーマンスした時に好評だったし、私も気に入ったので、今回是非にと思いました」

 Moonは、テクニックを駆使して熱唱するタイプではなく、ナチュラルな発声でしなやかに歌い綴っていくシンガー。都会的に洗練された歌に心地好さを感じている人も少なくない。前作は香港でも大ヒットした。

 「100%全開の感情で歌う歌も素晴らしいと思う。でも、私は、少し抑えぎみというか、何%かを私の中に残しておく歌い方が好きなの。そうすることによって、リスナーが歌に入り込める余白が生まれて、その人なりの楽しみ方が出来ると思うし、10年も20年も長く聴いてもらえるのではないかと思うので……」

 でも、全開で絶唱したくなることはない?と聞き直すと、「これが私の熱唱の仕方。声量で圧倒するよりは、歌の感情を内側に集約させて、それをある意味で淡々と表現するのが好き」と答えた。なるほどそうか。

 アルバムのタイトル『Tenderly』は、収録のスタンダード・ナンバーからとったのかと思った。ところが、「テンダリーとは〈優しく〉という意味の言葉よね。楽曲のタイトルではあるけれど、それよりは、柔らかくて、なにか霧雨に降られて、いつの間にか洋服が軽く湿気を帯びていた、みたいな雰囲気を表す言葉として最適だと思ったので、Tenderlyにしました」と言う。

 〈霧雨〉とは言い得て妙、そこから想像できる優しくロマンティックな音楽がMoonの新作に詰まっている。