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山中がキム&ケリー・ディールにサインをもらった2枚のCD

 

the pillowsを通じて、ブリーダーズと出会ってほしい

――久々の新作『All Nerve』はどうでした?

「先に聴いた友達が〈全然良くなかった〉と言ってたから、結構ショックだったんですよね。それでハードルが一気に下がったせいもあるのかな。聴いてみたら〈めっちゃ良いんだけど〉って(笑)。ロックンロール感が少なくて、緩い曲が多いアルバムですよね。バウハウスを聴いて作ったという“MetaGoth”なんかは、抑揚がなくておどろおどろしい世界観だから、キムのインタヴューを読んでなかったら好きにならなかったと思う。でも彼女は、ハロウィンに子供たちが家を回っている時に、バウハウスを恐ろしいくらいの爆音で流し続けよう、みたいな冗談から作りはじめたと語っていて。そういう若者みたいなエピソードを聞くと、やっぱり好きになっちゃうというか。無邪気にやっているんだなと思ってしまう」

――そういう新機軸もあるし、〈らしさ〉もたっぷり詰まっていますよね。

「1曲目の“Nervous Mary”も声から入るアレンジにハッとさせられたし、タイトル曲の“All Nerve”もちょっとアンプスみたいで、これも名曲だと思う。“Archangel’s Thunderbird”の6拍子から8拍子になって、また6拍子になるんだけどポップな感じもいいですよね。でも、いちばん好きなのは2曲目の“Wait In The Car”かな。これぞブリーダーズって感じ」

――自分たちのファンにあらためてブリーダーズを薦めるとしたら、どんなふうに伝えます?

「聖地巡礼の旅じゃないけど、ブリーダーズを聴くことで、若き日の僕が彼女たちに憧れてワクワクしながら作った曲が、いろいろ散りばめられていることに気づくと思う。そうやって聴いてるうちに、うっかり好きになってしまうと思うんだよね。ただ、僕はオルタナをすごく大事にしてるけど、きっとthe pillowsのファンは、ロックンロールで騒いだりバラードを熱唱したりのほうが好きなんだよね。そこはハイハイって思いつつ(笑)、だけど、いやがおうでもオルタナを聴いてもらうみたいな。そういうつもりではやってるかな」

――それで言うと、これから再現ライヴ・ツアーを行う『RUNNERS HIGH』と『HAPPY BIVOUAC』こそ、〈the pillows=オルタナ〉という現在に繋がるイメージを決定づけたと思います。この2作を振り返っていかがですか?

「それがまだ全然振り返れてないんですよ。先日まで違うバンドのツアーをやっていたから、まったく練習していなくて(苦笑)。ここまで昔の作品だと、流石に日常的には聴かないですしね。ただ、今度のツアーでアナログ盤を出すためのリマスタリングで、スタジオでかかってる音が聴こえてきたんですよ。そしたらものすごいローファイで、〈こんな音だっけ〉と思ったくらい。記憶よりも尖った音でびっくりしました」

『HAPPY BIVOUAC』収録曲“カーニバル”
 

――最近のthe pillowsは、もっと音がハイファイですもんね。

「そうそう。でも、ものすごくワクワクしながらレコーディングしてた時期だから、演奏するとそれを思い出すと思います。1年に2枚もアルバムを出すなんて、今じゃ考えられない(笑)」

――とにかくアグレッシヴな時期だったそうですね。

「うん、すごく元気だったと思う。僕らがいちばん苦しかったのは95〜96年くらいで、その頃は自分たちの望む評価がまったく得られない状況だった。そのなかで“ストレンジカメレオン”ができて、レコード会社には〈こんなに長くて暗い曲は売れない〉と否定されたんだけど、〈これじゃないならダメだ〉って強行突破で出したんです。

結果的に、その頃までではいちばん売れたシングルになって、それからゆっくり上げていこう、今日より明日のほうが楽しいことがあるって感じでバンドが進み始めた。そのあと、『Please Mr. Lostman』(97年)と『LITTLE BUSTERS』(98年)を出したことで、ライヴの動員も含めて評価が上がっていったんです」

――ええ。

「その2作はブリティッシュでオアシス大好きな自分たちに、ザット・ドッグの影響がいきなり混ざるみたいなゴチャゴチャした感じだったんですけど、そこから一気にオルタナへと進んだのが『RUNNERS HIGH』と『HAPPY BIVOUAC』。次から次へと曲ができたし、30歳前後の若い頃だったから楽しかったな。“インスタントミュージック”みたいな曲もあるけど、イライラしていたというより、むしろワクワクしながら作ってたし。そしたら事務所の社長に〈過激すぎる〉と注意されて、〈ええ!? 冗談やんか!?〉みたいな(笑)」

『RUNNERS HIGH』収録曲“インスタントミュージック”

 

考えずともオルタナになってしまうのがブリーダーズ

――「フリクリ」のサントラでも、この2作からの曲がたくさん使われてますし、the pillowsがアニメを通じて海外のファンと繋がることができたのも、オルタナという共通言語が大きかったのかなと。

「そうだと思います。日本だと普段のインタヴューでは、歌詞のことばっかり質問されるんですよ。みんな僕のロックバラードを好きだと思うし、もちろんありがたいけど、そこは海外じゃ通じないですからね(笑)。サウンドで差別化を図れたというか、〈なにこれ、おもしろい〉っていう曲を作れたのは、オルタナを知ったおかげですよね」

――続編となる劇場版「フリクリ オルタナ」「フリクリ プログレ」の9月公開も決まり、トレイラーではthe pillowsの新曲も流れていましたが、この2曲はどんなものにしようと思ったんですか?

「“Star overhead”(『オルタナ』主題歌)が先に出来たんですけど、もともとこの曲は『プログレ』の主題歌を想像して書いていたんですよ。曲を制作している時点では、前作とは違う物語だっていうことしかわかっていなくて。今回がどのような作品になるかわからないけど、一度前作を見直して、ナオ太が少年の日を回想し、そこにハル子の影が浮かぶようなイメージの青春ソングにしてみたらどうかと思ったんです。

なぜ“Star overhead”(頭上の星)というタイトルにしたかというと、前作のテーマ曲は“Ride on shooting star”だったじゃないですか。そこには〈流れ星に乗る〉という少年らしさがあったんだけど、続編では大人になってしまって、頭の上に星がある。そこに哀愁があるというか。そういうふうに書いてみたんです」

――うんうん。

「それで、ポップでキャッチーでいい歌詞が書けたんだけど、なんかおもしろくないとも思って……。“Ride on shooting star”はいい歌詞とかじゃなくて、訳がわからないんだけど爆発力のみで突き抜けた曲だったじゃないですか。それに比べると、日本向けにはいいけど、アメリカで久しぶりに『フリクリ』が公開になると考えた時に、〈歌詞が良いとかなんだよ〉と思ってやめたんです。

その代わりに、もっと訳がわからない感じの歌詞にして、the pillowsのいちばん得意なサウンドをやろうと思って“spiky seeds”(『プログレ』主題歌)を作ったら、自分としてもしっくりきたし、向こうにも喜んでいただいて。そのあとに『オルタナ』はどんな曲がいいですかと訊いたとき、先方からの要望を伝えられると〈もしかして、“Star overhead”がピッタリじゃない?〉となったんです。何かの幸運で、偶然ピタッとハマってしまったという」

――9月の公開が楽しみです。最後に、山中さんにとってオルタナとは?

「その人間が醸し出すものですよね。キムがビートルズのカヴァーをやったらオルタナに聴こえるけど、音楽ジャンルとしてのオルタナを、そういう空気を纏っていないシンガーが歌っても、僕はオルタナを感じないと思う。これは若手俳優が髪を染めて革ジャンを着て誰かの曲を歌っていても、まったくロックンロールを感じなかったりするのと一緒ですよね。そういう感じで、オルタナもそれをやる人自体のことを指すというか」

――そういう〈オルタナの中のオルタナ〉がキムであり、ブリーダーズであると。

「そうですね。たとえばベックは音楽知識や理論を踏まえたうえで楽しんでいる感じがするんですよ。僕もそうなんですけど、器用というか。さっきも話したように、the pillowsはオルタナに憧れている雑食のロック・バンドなんです。なので、オルタナになれているわけじゃない。考えずともオルタナになってしまうのが、ブリーダーズなんだと思います」

 


Live Information
※〈RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2 〉は『RUNNERS HIGH』と『HAPPY BIVOUAC』からの楽曲で構成する特別ライヴ

2018年04月28日(土)29日(日・祝)
ARABAKI ROCK FEST.18
2018年05月06日(日)新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2    
2018年05月12日(土)渋谷 CLUB QUATTRO
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2    
2018年05月16日(水)
“a flood of circle TOUR -Here Is My Freedom-“
2018年05月18日(金)岡山 YEBISU YA PRO
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2
2018年05月20日(日)名古屋 BOTTOM LINE
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2  
2018年05月25日(金)仙台 Rensa
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2  
2018年05月27日(日)札幌 PENNY LANE 24
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2  
2018年05月29日(火)青森 Quarter
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2 
2018年06月01日(金)大阪 BIGCAT
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2  
2018年06月03日(日)福岡 DRUM LOGOS
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2 
2018年06月05日(火)松山 SALON KITTY
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2
2018年06月08日(金)東京 Zepp Tokyo
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2
2018年06月23日(土)沖縄 Sakurazaka Central
RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2  
2018年08月08日(水)
HiGENOHi
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