アルゼンチン、ニューヨーク、ドイツを結ぶ精緻なアレンジメント
アルゼンチンのコルドバ出身で、ニューヨークで活動するベーシスト/作編曲家のペドロ・ジラウドが、単身ヨーロッパに渡りドイツの名門、WDRビッグバンドを指揮した。
1996年にニューヨークに渡り、ニューヨーク市立大、マンハッタン音楽院で学んだジラウドは、ジャズとラテン・ミュージックの分野で頭角をあらわす。ラージ・アンサンブル志向が強い彼は、2006年に12人編成のスモール・ビッグバンドを結成、2015年には17人編成のビッグバンドへと拡張した。現在はジャズ・オーケストラとともに、タンゴ・オーケストラ、5人編成のタンゴ・ユニットを率いて活躍している。またジラウドはニューヨークで多くのタンゴのレコーディングにも参加している。彼の音楽は、デューク・エリントン(ピアノ)、ギル・エヴァンス(アレンジ/ピアノ)にルーツを持つジャズ、クラシック、そしてアルゼンチンのトラディショナルなリズムをブレンドした、ユニークなスタイルを誇り、パット・メセニー(ギター)、マリア・シュナイダー(アレンジ)からも激賞されている。
本作は2016年11月29日にWDRビッグバンドの本拠地ケルンで、ライヴ録音された。全曲ジラウドのオリジナルで構成され、自らのビッグバンドではベーシストも兼任するジラウドだが、このときは指揮に専念し自らの音楽をさらに深く表現した。“Chicharrita”はタンゴの巨匠オスバルト・プグリエーセ(ピアノ)をオマージュした曲で、めくるめく展開がスリリングだ。アルゼンチンの19世紀の詩をモチーフにした“La Ley Primera”は、アルゼンチンのサンバ(ブラジルのサンバとは異なるリズム)のリズムと形式を導入してリリカルに歌い上げる。後半の4曲は“Descosuelo Suite”(絶望組曲)とタイトルされた大作だ。2006年にジラウドが書いた曲が熟成され、複雑なリズムで絶望とその中に見える微かな希望を描いている。
アルゼンチン、ニューヨークと、ドイツ。この全く背景の異なる文化が一つとなり、新たなサウンドを生み出した。