パワー・ポップやグランジ、ポップ・パンクなど、90年代のインディー・シーンを彩ったメロディックなサウンドの洗礼を受けたMami(ギター/ヴォーカル)を中心に、98年に福岡で結成されたPEAR OF THE WEST。以降20年に渡って、地元に根を張りマイペースながらも地道に活動を続けてきた。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムという小細工なしのオールドスクールなロック・バンド然としたエネルギッシュなサウンドと、良質なメロディーを愚直に発信するスタイルは、HUSKING BEEのメンバーやアヒト イナザワ、松田“CHABE”岳二といった著名アーティストからも熱い支持を受けている。

そして迎えた結成20年目の2018年。PEAR OF THE WESTがこれまで貫いてきたサウンドに〈変化〉が起こっている。幾度かのメンバー・チェンジを経て、現在はMamiとFucken (ベース)、Kaba (ドラムス)、Sho(ギター/コーラス)の4名で活動している同バンドだが、「ようやく今のメンバーに落ち着いて、音楽的な挑戦ができるようになった」とMamiは話す。以前はサウンドも精神面でも疾走感や勢いが前面に出ていたと言うが、このたびリリースされたニュー・アルバム『BLUE』では、より〈聴かせる〉曲作りを目指したという。

今回は中心人物のMamiにインタヴューを実施。バンドの歩みを振り返りながら、Mami自身にあった心境の変化と、バンドにとってチャレンジングな作品となった『BLUE』のサウンドの秘密について話を聞くことで、PEAR OF THE WESTとその現在地に迫った。

PEAR OF THE WEST BLUE 3P3B(2018)

 

なんでやらなかったのかな、と。今はそういうものに一つでも多くチャレンジしたい

――PEAR OF THE WESTは今年結成20周年なんですよね。振り返られて、どんなお気持ちですか?

「まさかこんなに長くやるとは思わなかったです。メンバー・チェンジなどもあって、バンドが動いていない時期も何年かあったんですけど、いろんな出来事を経て、最近ようやく少しだけ音楽的な音作りができるようになってきたんじゃないかと」

――〈最近ようやく少しだけ〉なんですね。今一度初期から振り返っていきたいんですけど、まずバンドを結成した動機は何だったんですか?

「同じ福岡のBELTERSという女性の3ピース・バンドが好きで、私もギャルバンをやりたかったんですけど、なかなかうまくいかなくて。結局私以外は男性という形でバンドを組んだんです。だから、そういう意味ではイメージ通りにはならなかったんですけど、その頃からサウンド的には自分が好きなオルタナやパワー・ポップ、ポップ・パンクとかをプラスした、メロディアスなバンドをやりたいと思ってました」

――BELTERS以外で、当時好きだった具体的なバンド名を挙げると?

「マフス、ファストバックス、日本だと名古屋のCIGARETTEMANとかですね」

――PEAR OF THE WESTにはいろんなタイプの曲がありますけど、総じて今おっしゃったようなバンドに通じる、メロディアスなオルタナティヴ・ロックやパンクの系譜に連なるスタイルを、長く貫いてこられたと思うんです。

「そうですね。20代の頃はサウンドも精神面も、疾走感や勢いが前面に出ていたと思います。そんななかでメンバーの入れ替わりなどもあって、ようやく今のメンバーに落ち着いたのが去年。そこで、今の自分たちに何ができるかをすごく考えて、バンド内でも話し合うようになったんです。私自身はそんなに大層なことはできないのでおこがましいんですけど、より音楽的な歌や曲を作りたいという気持ちが強くなりました」

――その新たな気持ちの芽生えのなかで出来た作品が、2017年7月にリリースした7インチ『Mellow』だったのでしょうか?

「はい。『Mellow』を作るにあたっては、まず歌との向き合い方に大きな変化がありました。それまではさっきも言ったように、勢いとか自分たちの好きなことをやりたいという気持ちだけでやってたので、歌についてそんなに深く考えたことはなかったんです。でもこの頃から、どういうふうに歌えば自分が気持ちいいのか、聴いてくれる人たちが聴き心地のいい声やメロディーって何なのかなど、ヴォーカリストという立ち位置から考えるようになりました」

PEAR OF THE WEST の2017年のシングル『Mellow』トレイラー
 

――特定の誰かや社会に向けて歌うとか、そういうベクトルもあったんですか?

「メッセージ性とか、そういうのはないですね。歌詞は日記に近い感じで書いていて、内容について説明するのも苦手で。聴いてくださった方々が自由に解釈してくれればいいと思っています。シンプルに、自分たちが気に入っているものを一人でも多くの方に聴いてもらえたらありがたい。今はそんな気持ちですね」

――『Mellow』のB面であり、今回のアルバム『BLUE』に収録するにあたって再録音した“NEW WORLD”には、〈昔のノリじゃ何も残せないって思ってる。/もう戻りたくないんだ。〉という歌詞が出てきます。これは単に今まで通りにはいかない、ということなのか、時代錯誤的な論調に対する抵抗なのか……とらえ方は人それぞれだと思うんですけど、MamiさんとPEAR OF THE WESTの何らかの強い意思を感じました。

「PEAR OF THE WESTで今まで実践してこなかったことがたくさんありすぎて、〈なんでやらなかったのかな〉という気持ちで。今はそういったものに一つでも多くチャレンジしてみようと思っている。それで出来上がったのが、『Mellow』と『BLUE』なんです」

 

ジュリアン・ベイカーやぺール・ウェーヴスとか、最近のインディー・ロックにあるリヴァーブ

――先ほど歌に対する向き合い方についてもお話されていましたが、『BLUE』で特筆すべきはメロディーとヴォーカルの素晴らしさで。とても滑らかで色っぽくて、作曲方法そのものにも変化があったのかなと。

「そうなんです。今までは楽器と並行して作ってたんですけど、最近は歌から作って、それに合わせてサウンドを繋げていくようになりました」

――音の面で大きな違いとなると、すぐに聴いて取れるのは、これまでになかったキーボードが入っているということですよね。

「メンバーみんな、前から鍵盤の音は欲しいと思っていて、スタジオで遊び感覚で弾いたりはしてたんです。その延長で実際に入れてみることにしました。鍵盤を入れるとまとまりが出るんですよね。ちょっと物足りないところに色が加わって、より曲っぽくなるという魅力が鍵盤にはあると思います。あとヴォーカルとしては歌いやすくなるのもありますね。でも、私が鍵盤とギターと歌を担当しているので、あまり入れ過ぎるとライヴで演奏できなくなるんです(笑)。だから、私がギターを弾かなくてもいいところに入れています」

――そういった変化と呼応するように、ギターの音も空間的な広がりを感じさせるようになっているのが印象的でした。

「今回は全体的にリヴァーブを意識した音作りになっているんです。ヴォーカルにもリヴァーブをかけていますし。そこも新たな試みとして意識的に取り組んだ部分ですね」

――リヴァーブを採り入れたのはなぜなのでしょう?

「メンバーが共通して好きな最近のインディー・ロックにそういった感じのものが多いんです。歌に関して言えばジュリアン・ベイカー、サウンドも含めるとぺール・ウェーヴスとか」

――確かに、ぺール・ウェーヴスのような80年代のロマンティックさや90年代のオルタナティヴ・ロックなどを通過した現代的なポップと、今のPEAR OF THE WESTのモードは、近いものを感じます。

「オルタナのようなパワー・ポップのような、あとは80年代的な淡いリヴァーブ感とか、そういうムードを出したいね、とは話してましたね」

ぺール・ウェーヴスの2018年作『My Mind Makes Noises』収録曲“Kiss”
 

――“YOU KNOW YOUR LIES”は、まさにここまででおっしゃったような今のモードが反映された曲なんですけど、この間奏が気になっていて。倍速とか、逆に半分に落とすとかいうのではなく、感覚的にBPMがどんどん落ちていって、元に戻るじゃないですか? その絶妙な〈揺れ〉に宇宙を見たというか。これ、どうやったんですか?

「不思議に思われますよね。この間奏はスピードが落ちるところからクリックを外していて。BPMを気にせず、野生の勘……みたいな(笑)。で、また元に戻っていくっていうのを練習しました。ちょっと変なことをしたくて」

――まったく同じテイクは二度ととれないわけですよね。ライヴではどうするんですか?

「みんなで見つめ合いつつドラムに合わせてやっていきます」

――タイトル曲の“BLUE”も独特ですよね。

「この曲もへんてこりんというか(笑)、あまりない、不思議な曲を作りたかったんです。まずリズム・パターンから作って、そこにもともとあった歌メロを乗せて、ギターも別で作っていたフレーズを引っ張ってきたりしていて。それらをミックスしたらあんな感じになりました」

――まずリズムがあった、というのは納得です。パワフルなドラムを軸に、それを取り巻く他の音との対比が効いていますし。最初はそうしてコントラストで楽しませつつ、サビではギターがパワー・ポップ・モードにギアチェンジして、サウンドが一気にシンクロしていく。

「確かにそうですね。Kaba(ドラムス)はパワー・ドラムで、ライヴでもめちゃくちゃ音がデカいんです。そこで、ギターやヴォーカルと対極にある感じがおもしろいっていうのはよく言ってもらえます」

――間奏なんて、メタリカの“Enter Sandman”(91年)とドリーム・ポップが混ざったみたいにカオスで、最高に気持ち良かったです。そして、そういったある種の違和感をポジティヴなエネルギーに変換させることにおいても、Mamiさんの歌の存在が大きいと思うんです。

「女性ヴォーカルなのでしっかり声を張って歌っても柔らかさが出やすいのかなと、客観的に見ても思うんです。そこでオケとのいいバランスが保ててるのかなと。今回は、そういう特性がより活かせるように、あまり自分の癖を出さないようにして、聴いている方の耳にすっと入っていけるような声を出すことを意識しました」

――なるほど。歌の浸透度が高いから、まず曲がスッと体に馴染むんですよね。

「そうなってくれていたらいいです」

 

“NAKED KICKS”で初めて出した自分

――“I DON'T LEAVE MY MUSIC”は、これまでのPEAR OF THE WESTのイメージにもっとも近い曲です。

「この曲はギターのShoくんが元ネタを持ってきて、その曲に私がメロディーと歌詞を乗せてアレンジしていった、二人の共作のような曲です。Shoくんは同じ福岡のJOHARRY'S WINDOWというバンドがイメージにあったと言ってました」

JOHARRY'S WINDOWの2017年のシングル"Wasted Life"
 

――Shoさんは“FALLIN’”の作詞作曲もされていますね。この曲はShoさんとMamiさんお二人で歌われていますが、これも新しい試み。

「“FALLIN’”はShoくんが初めて一人で全部作った曲なんですが、せっかく作ったんだから、歌ってみたらどうですかと言って。サウンドに関して言うと、アコースティックは昔からやってたし、今回も入れたいっていうのがあって、そこに今までやったことがなかったストリングスも入れて、より聴かせる感じにしようと」

――〈聴かせる〉というベクトルは、今回のアルバム全体に当てはまりますよね。

「私、タイトルの〈BLUE〉という言葉が好きなんです。〈BLUE〉には〈冷静〉とか 〈落ち着いた〉というイメージがあって、歌と曲をいい音で聴いてもらいたいというメンバー全員の想いが込められているんです。だから『BLUE』は一つ一つ丁寧に作ることを心掛けた、とても大切な1枚になりました」

――逆に〈BLUE〉には〈憂鬱〉など気分が晴れないさまを指すネガティヴな意味もありますが。

「私の書く歌詞は全体的に暗めなので、そういった意味も込めています」

――1曲目のタイトルが“NAKED KICKS”なわけですが、酸いも甘いも噛み分けた20年で得たものを包み隠さず表に出していこうという気持ちや、落ち着いた作風の作品ではあるけど、迷いなくそこに振り切った強い意志の表れでもあるのかなと。

「そうですね。男性に囲まれて長くやっていると、どんどんたくましくなってくる自分がいるんです。そこで抱いた、自分のやりたいことを貫いて形にしたいという強い気持ちと、それでもなかなかうまくやれない弱さが常に混同していて。“NAKED KICKS”ではそんな自分を初めて出したんです。弱いけど弱く見せないように……本当の自分は脆いんですけど、なんとか保って崩れないようにしようっていう、自分自身への確認でもありました」

――モヤモヤした気持ちを抱え続けることがしんどいのなら止めればいいと、そういう考え方もできるじゃないですか。でも、やっぱり続けてきたからこそ、20年目でこんなにも豊かな作品が生まれた。これから、MamiさんとPEAR OF THE WESTはどうなっていくのでしょうか?

「何事も楽しいばかりじゃないけど、とにかく私は自分がワクワクできるところに向かって行きたい。それだけですね。この先、私やバンドがどうなるかなんて誰にもわからないけど、どんな形でもいいので、自分がワクワクできる音楽は続けていきたいと思ってます」

 


Live Information

11月3日(土)広島・福山 Cable
11月4日(日)愛媛・松山 Double-u Studio
11月10日(土)福岡・天神 Kieth Flack
11月14日(水)福岡・薬院 UTERO
2019年1月12日(土)愛知・今池 HUCK FINN
2019年1月13日(日)大阪・心斎橋 火影
2019年2月2日(土)神奈川・横浜天王町 Studio olive
2019年2月3日(日)東京・下北沢 SHELTER

★詳細はこちら