米津玄師、Ayase、n-buna、須田景凪、TOOBOE、syudouなど、ボカロPを出発点に現在の日本の音楽シーンの最前線で活躍するアーティスト/クリエイターが急増している。こうしてその名を列挙するだけでも、今のJ-POPの隆盛の一部は彼らの功績によるものだと理解してもらえるだろう。

そうしたなかでも、NOMELON NOLEMONやAoooのメンバーとして躍動し、星街すいせい、MAISONdesらにヒット曲を提供するツミキの勢いが止まらない。ボカロPとしての出自、そして各プロジェクトや提供曲などからヒット曲を量産するツミキの音楽的才能の秘密に迫った。 *Mikiki編集部


 

星街すいせい、MAISONdesなど近年ヒット曲を量産するヒットメイカー

ここ数年でインターネット発のボカロPとして頭角を現し、メジャーシーンでも次々とヒットを飛ばしている若きクリエイターがいる。その名はツミキ。CeVIO AIの人工歌唱ソフト〈可不(KAFU)〉を用いた楽曲“フォニイ”は、2021年にYouTubeで公開されてから現在までに6,800万回以上再生され、ニコニコ動画でもテンミリオン(同サイトで1,000万回以上再生された曲)を達成するなど、ツミキの代表曲として今もボカロシーンで愛されているナンバーだ。

ボカロPとしてキャリアをスタートさせたツミキは、作詞・作曲・編曲のみならず、ドラム、ギター、キーボード、ボーカルまでもこなすマルチプレイヤーだ。現在ではNOMELON NOLEMONやAoooのメンバーとしても活躍しており、ここ数年で急速に活動の幅を広げている。

ツミキの手がける楽曲は、なぜ大衆の心を掴むのだろうか? 本稿では、星街すいせいやMAISONdesとのタッグで生まれたヒット曲、NOMELON NOLEMONやAoooでの活動などから、彼のヒットメイカーとしての手腕に迫ってみようと思う。

冒頭でも少し触れたが、ツミキはニコニコ動画発のボカロPとしてキャリアをスタートさせている。2017年末に初投稿した“トウキョウダイバアフェイクショウ”がいきなり10万再生の殿堂入りを達成したこともあり、ツミキ自身にも注目が集まった。その才能は急速に開花し、2021年には1stアルバム『SAKKAC CRAFT』を発表。全曲を初音ミクの歌唱で構成した同アルバムは、歪んだギターと高速ビートが織りなす独特な世界観から、ボカロシーンを超えて多くの音楽リスナーから高い評価を得た。

ツミキ 『SAKKAC CRAFT』 SME(2021)

そして作曲家、プロデューサーとしても目覚ましい活躍を見せるツミキは、近年次々と話題曲を生み出している。2022年、アニメ「うる星やつら」第1期・第1クールのエンディングテーマとして書き下ろしたMAISONdesの“トウキョウ・シャンディ・ランデヴ”は、レトロな世界観と現代的なポップサウンドが融合した軽快なナンバーでバイラルヒットを記録し、TikTokなどを介して様々な世代を虜にした。

さらに、星街すいせいに提供した“ビビデバ”は〈令和のシンデレラ〉をテーマに、ジャズやシティポップの要素も掛け合わせたダンスポップな楽曲として2024年を代表するヒット曲となった。2次元(アニメ)と3次元(実写)を一つの世界に閉じ込めた同曲のMVは、公開からわずか半年でYouTubeにて再生回数1億回を超えるなど、映像面でも我々を楽しませてくれた。

 

星街すいせい 『新星目録』 カバー(2025)

これらのヒット曲に共通する〈圧倒的なスピードでの広まり〉からわかることは、ツミキのメロディメイカーとしての才能が現在のSNS文化とフィットしている、ということだ。転調や音色の多さ、起伏の大きいメロディ、タイアップ作品やアーティストに寄り添ったリリック、そしてそれらをキャッチーでわかりやすくまとめ上げる力が彼にはしっかりと備わっている。