(左から)能地祐子、佐橋佳幸

日本を代表するセッションギタリストであり、プロデューサーやアレンジャーとしてJ-POPの名曲の数々を手がけてきた佐橋佳幸。ピーター・ゴールウェイとの共作アルバム『EN』が話題だが、彼の40年超に及ぶ仕事を振り返った大著「佐橋佳幸の仕事1983-2025 EN」も好評を博しており、Mikikiの特集記事も大ヒットした。そんななか、本書の刊行記念イベントがタワーレコード渋谷店のTOWER VINYL SHIBUYAで2025年7月11日に開催された。著者の音楽評論家・能地祐子とともに語られたのは、小田和正や佐野元春、TM NETWORK、渡辺美里、福山雅治といった著名アーティストとの秘話や忘れ難い(?)エピソードの数々。笑いが絶えなかったイベントの模様をお届けしよう。 *Mikiki編集部

能地祐子 『佐橋佳幸の仕事1983-2025 EN』 リットーミュージック(2025)

 

先輩たちに〈かわいがり〉をされてきた名ギタリストの40年

佐橋佳幸「司会進行するはずだったやつ(『ギター・マガジン・レイドバック』編集長の野口広之)が風邪で倒れまして、今日は完全にフリートークとなります。マイクスタンドってありますか? あると(ギターを)弾きながらでもしゃべれるので」

能地祐子「やっぱりギターを持っていると落ちつきますか? (忌野)清志郎さんも取材中にギターを弾いていて、たまに音がうるさくて話が聞こえなくて(笑)」

佐橋「そういうわけで、こんな本が出ました」

能地「5月に出た『佐橋佳幸の仕事 1983-2025 EN』の取材と執筆を担当させていただきました、能地と申します。なかなか読み応えがある本なんじゃないかと思います」

佐橋「本を読む習慣のない方にとっては結構な文字数だと思います。まずこの本がどういう経緯で上梓されたかというと、ノージが提案してくれたんだっけ?」

能地「そうですね。そろそろ佐橋さんがデビュー40周年だなって」

佐橋「僕は1983年9月21日にUGUISSってバンドでデビューしたんですけど、ちょうど40年後、一昨年の9月にそういう話になって。そこからウェブマガジン(Re:minder)で連載をしてきました」

能地「その前にこういうのもありまして。タワーレコードだけで買えるんです(現物を見せる)。3枚組のコンピレーションCD『佐橋佳幸の仕事 1983-2015 Time Passes On』。これは30周年の時に作りました」

佐橋佳幸 『佐橋佳幸の仕事(1983-2015)〜Time Passes On』 GT music(2015)

佐橋「ここからちょうど10年!? 三軒茶屋の人見記念講堂(〈佐橋佳幸(祝)芸能生活30周年記念公演~東京城南音楽祭 T.J.O~三茶編〉)と目黒のBLUES ALLEY JAPAN(〈佐橋佳幸(祝)芸能生活30周年記念公演~東京城南音楽祭 T.J.O~目黒編〉)で30周年イベントをやったんですよね。その司会を萩原健太さんとノージがしてくださって。その時に〈こういうのを作りましょう〉って言われた記憶がある」

能地「そのイベントには、この本やCDに登場する渡辺美里さんや佐野元春さんといった方々が出演されて。佐橋さんはセッションギタリストやプロデューサーとして録音に参加し、ライブのバックバンドのギタリストとして活動されているんだけど、周年イベントとなると〈佐橋さんのためなら〉と80年代以降のJ-POPヒストリーの代表的な方々、錚々たるアーティストが集まっちゃうんですよ。こんな方、いそうでいないんですよね。珍しいギタリストだなって」

佐橋「僕はプロデュースやアレンジ仕事がかなり多いじゃないですか。なので、いろんな人にお世話になってきたんですよね。

それに、意外とこの性格が幸いしたというか。もし子どもだったら誰にでもどこにでも着いていってしまって誘拐されそうなタイプというか(笑)」

能地「おつかいに行って、その先でかわいがられてお菓子とかをもらって帰ってくるタイプですね(笑)」

佐橋「本当の〈かわいがり〉もだいぶされましたけどね(笑)! つい最近も武道館でCharさんのライブがあったんです。その時もリハーサルでかわいがられましたね。〈お前、今、俺が弾いてほしくない音を弾いたな〉とか〈せっかく合図出しを任せたのに、お前の背が小さすぎてよく見えなかった〉とか(笑)」

能地「Char先輩らしい愛のムチ。大貫(妙子)さんにもめっちゃかわいがられていますしね」

佐橋「大貫さんはね、大きな音を出さなきゃ叱られないんです。手違いで〈ピーッ!〉なんてハウリングを起こしたら、しばらく口を利いてくれません(笑)」

能地「そんな感じで、みんな〈佐橋くん〉〈サハシ、サハシ〉って親しみやすく呼ぶんです。でも、そんな佐橋さんも60歳を過ぎ、40周年も超えて、もはや大ベテラン。〈この人はすごい仕事をたくさんやってきたんだぞ〉っていうのを一旦立ち止まって、振り返ってまとめる本を出したらいいんじゃないかなと。このCDの続きの活字版としてセッション、アレンジやプロデュースからソロまで、いろんな仕事のなかから佐橋さんにとって印象深い曲、思い出に残っている曲を40曲選んで語ってもらいました」