プリファブ・スプラウトとデイム・ファンク、ラー・バンドをイメージした
――アルバムの音楽的な狙いは、どの辺にあるんですか?
楢原「基本的には〈歌モノ〉ということしか決めませんでした。そのぶんアレンジで、ジャンルやテイストを幅広く取り込みたいと思っていて。自分のなかでいちばん取っつきやすいのは、プリファブ・スプラウトやブルー・ナイルみたいなネオアコとかライト・ファンク系。なので、そういうカラーは自ずと出ていると思います」
――おそらくラー・バンド※もお好きですよね?
※ビートルズなどのオーケストラ・アレンジで知られる英プロデューサー、リチャード・アンソニー・ヒューソンのソロ・プロジェクト。ファンキーで洒脱なサウンドがカルト的な支持を得ている
楢原「ハイ、大好きです! このグループを始めるときに自分でイメージしていたアーティストが3組いて。それがプリファブとデイム・ファンク、ラー・バンドなんです。オープニングの“Tristeza”インスト版は、coffeeがひとりで完成させましたが、まさにラー・バンドのイメージで発注しました。プリファブはジャンル的な接点としては薄いんですが、サウンドが持つロマンチックな感覚が共通していますね」
coffee「“頭城市の蜃気楼”も、最初はもっとラー・バンドに寄せてました。スペイシーな音作りとか。最終的にはもっと地に足が着いた感じになりましたが」
踊り疲れた後の虚無感や帰り道の孤独感に寄り添う
この〈頭城市〉は台湾に実際にある街。楢原がそこを訪れたとき、宿泊したホテルが洋館と日本家屋と農場が合体したような、まるでデヴィッド・リンチのSF映画に出てきそうなシュールな空間だったそうだ。それをイメージして、無国籍感を捻出しようと書いたという。
――歌詞への想いも深そうですが……。
楢原「それは、ありますねぇ。具体的に説明するのは難しいんですが、基本的にはポジティヴなことを歌いたい。ただ自分は太陽のような明るさとか、100%天然果汁みたいな純粋さにはリアリティーが感じられなくて……。その代わりに物事の影の部分、闇の側面を語りながら光の部分を炙り出す、そうしたメタ的なアプローチが好きなんです。ポジティヴなことを歌いたいけど、その背景や流れも同時に感じさせるもの」
――そこはプリファブに繋がりますね。
楢原「イヤァ、彼らの詞はもっと難解ですよ。それなのに、スゴく内に刺さってくる。自分もそういう曲が書けるようになりたいです」
――同じシティー・ポップ系でも、最近はアイドルみたいなストレートな歌詞が多くて、松本隆さんのような文学っぽい人がいませんね。
楢原「〈朝まで踊ろう〉みたいな歌詞、僕には絶対書けないです。それはそれでステキですし、みんなに元気を与えられたりするんでしょうけど、そこは他の方にお任せして、自分は踊り疲れた後の虚無感とか帰り道の孤独感を歌いつつ、でも寂しくないんだ、みたいなことを歌いたいんです」