TRUTH OR DARE
南アフリカのキュートな新星、タイラが待望のファースト・アルバム『Tyla』をリリース! すでに絶大な人気を集める新世代のポップスターが、この夏の〈サマソニ〉初出演も控えるなかで届けたその気になる中身とは……?

シンプルに越境型ポップ作品として楽しめる

 トラヴィス・スコットの客演版も出た“Water”のヒットで、母国の南アフリカを発祥とするアマピアノやナイジェリアを中心とするアフロビーツを世界に浸透させた功績の大きさは計り知れない。このファースト・アルバム『Tyla』も南アのDJ、ケルヴィン・モモを迎えた序曲から始まるが、アリアナ・グランデにも通じるウィスパー系の声に軽く巻き舌を交えるなどして歌うタイラの曲は、テムズ客演の“No.1”でアフリカ新世代による連帯を感じさせつつも殊更にアフリカ性が強調されることはない。サー・ノーランが手掛けた“Butterflies”はSZAやジェネイ・アイコに通じるオーガニックなR&Bだし、ガンナとスキリベンを迎えた“Jump”はダンスホール、P2Jが手掛けたベッキーGとの“On My Body”はラテンのフレイヴァーがあり、シンプルに同時代の越境型ポップスとして楽しめる。とりわけ、トリッキー・スチュワートの名がソングライターとして刻まれた“Safer”から“Water”を挟んで“Truth Or Dare”へと続く流れの心地良さは格別。パーカッシヴでスムーズな楽曲群はセクシャルな歌詞であることも忘れさせる爽やかな中毒性があり、ダンサブルでありながら抑制も効いている。このサマーなソニック感には降参するしかない。 *林 剛

 


ポップ・ミュージックの最先端

 南アフリカのヨハネスブルクで育ったタイラは、2023年発表の“Water”を大ヒットさせ、音楽シーンの第一線に躍り出た。その勢いはとどまるところを知らない。第66回グラミー賞では〈最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス〉部門を受賞するなど、スターへの道程を堂々と歩んでいる。そんなタイラのファースト・アルバムが『Tyla』だ。本作は、南アフリカ発祥のダンス・ミュージックであるアマピアノを軸に、甘美かつ肉感的なポップソングを鳴らしている。多彩なグルーヴはジャンルの境界線を軽やかに飛び越え、艶やかなヴォーカルはリスナーの耳を惹きつける蠱惑が際立つ。現在22歳のアーティストが放つデビュー作としては、高い完成度を誇る。

 本作は、ネットでバズったアーティストのアルバムという狭い枠に収まる作品ではない。2000年代後半のナイジェリアで始まったとされる音楽ムーヴメントの〈オルテ〉以降、アフリカの音楽は更新の速度を速め、世界中の人たちに聴かれるようになったが、そうした流れの最先端にタイラは位置づけられるからだ。『Tyla』はポップ・ミュージックの最先端を颯爽と走り抜けている。 *近藤真弥