クラシックからボカロまで幅広い素養を持つ天才のファースト・アルバムは、ストレートな言葉と演奏で純粋に音を楽しんだ3ピースのバンド・サウンド! この男の掲げるブレない大義とは……!?
真っ直ぐ勝負したかった
昨年11月より自身でギター/ヴォーカルを務めるバンド・プロジェクトを始動させた霜降り明星の粗品が、ファースト・フル・アルバム『星彩と大義のアリア』をリリースした。18歳でプロの芸人としてデビューを果たした彼だが、音楽の目覚めはそこから遥か前に遡る。2歳でピアノを始め、13歳からはギター、高校時代にはDTMにのめり込んだ。
「物心ついた頃、五十音を知って〈自分が生まれた世界はこの50個を組み合わせるんやな。パターン多すぎて難しいな〉と思ったんです。そんななかピアノを始めて、〈ドレミファソラシと黒鍵だけやから言葉より簡単でわかりやすいな〉と好印象を持ったのが音楽への第一印象ですね。そこからリズムや音符の長さを組み合わせて曲になるという奥深さを知って、どんどん好きになっていきました」。
小学生でオリジナル曲を作り、中学生でTHE BLUE HEARTSやマキシマム ザ ホルモンに出会い、高校生でオーケストラを知り、さらにはニコニコ動画経由でアニソンやボーカロイド、海外のバンドなどさまざまなジャンルを聴き漁る。多岐にわたるルーツの共通点は「キャッチーなメロディー」だ。
「渋い曲、難しい曲はそのジャンルの通の人しかわからないと思うんですよ。クラシックでもメロディーがキャッチーな“カノン”や“威風堂々”は世の中の大多数の人の記憶に残っていますよね。最強やと思います」。
芸人デビューから2020年5月にボーカロイド楽曲を発表するまでの約9年間、音楽への情熱が途絶えることはなかった。愛してやまない夢を〈芸人が片手間で始めた〉とは思われたくない。いつどのように踏み出すべきかを冷静に見定めた。
「音楽が大好きで本気でやりたいから、アーティストとして認めてほしかったんです。そのためにはまず本業のお笑いである程度は成功しないとあかんとは常々思っていたので、焦りはなかったですね。賞レースでグランプリを獲って、TV番組にもある程度出演して周知されて、まずはボーカロイド楽曲で活動をスタートさせました。ボカロには〈一般人でもミュージシャンになれるかもしれない〉という夢があると思うんですよ。僕もその思いを託しました」。
自身で作詞作曲編曲、打ち込み、ミックス、マスタリングまで行い、楽曲の投稿は米津玄師がハチとしてボカロ楽曲をアップしていた頃の頻度に倣って、視聴者の高揚を煽った。2021年には自身のレーベル=soshinaを設立し、楽曲提供も開始。隅々にまでポリシーが通ったクリエイティヴな活動は、彼の音楽への誠意を言葉以上に世間へ伝えた。自身がヴォーカルを務めるきっかけも、その制作意欲に起因する。
「自分で歌うとリリースのフットワークが軽くなるし、歌う人のことをそこまで気を遣わずに作詞もできるし、自分が伝えたいことをストレートに表現できるので、〈なら自分で歌ってみるか〉くらいの感じで始まりました」。
『星彩と大義のアリア』には、THE BLUE HEARTS直系のパンク・ロック・サウンドが12曲並ぶ。「シンプルな音楽でもこんなにかっこいい」というテーマは、現代のJ-Popへのアンチテーゼの意味も持つという。
「現代の音楽にリスペクトは持ちつつも、少ない楽器の音で、下手でもいいから思いっきり演奏するパンク・ロックに憧れていたので、そこに真っ直ぐ勝負したかったんですよね。〈いまのオシャレな音楽が耳に合わんな〉とモヤモヤしている若い世代の人たちに〈じゃあ俺の音楽はどうかな〉と提案したいですし、最近の音楽の良さがわからないという上の世代の方々にもアピールしたいですね」。