〈ジグザグ道3部作〉含むキアロスタミの傑作が初ブルーレイ化!
2016年に亡くなったイランの巨匠アッバス・キアロスタミ作品が二つのBOX及びそれぞれ作品単体で発売される。今回は、2018年修復版のニューマスターでのソフト化。DVDに加え、初となるブルーレイでの発売となる。 キアロスタミ未体験者には〈ジグザグ道3部作〉収録の「BOX I」をお勧めしたい。隣の席の友だちのノートを持って帰ってしまた主人公が友だちの家も知らずにノートを返しに行く「友だちのうちはどこ?」、大地震に見舞われた「友だちのうちはどこ?」の撮影現場に向かう監督のロードムービー「そして人生はつづく」、『「そして人生はつづく」の新郎新婦が実生活では新郎役が新婦役にふられていたという話をもとにした映画「オリーブの林をぬけて」。限られた文字数では分かりづらいと思われるので、ここでひとつ具体例を挙げてみたい。
「オリーブの林をぬけて」には、〈監督〉が3人存在する。「友だちのうちはどこ?」を撮ったという「そして人生はつづく」の主役(役者)。「そして人生はつづく」から着想を得た新作を撮っているという映画に出演している監督(役者)。そして、画面に登場しないが実際に映画を撮っている監督のキアロスタミ。
ここのように映画は3重の入れ子構造になっている。虚構と現実の境界に揺さぶりをかけるキアロスタミの〈魔法〉。つづく「BOX II」では、〈魔法〉の原点(ドキュメンタリー「ホームワーク」、初期長編「トラベラー」)と更なる進化(「桜桃の味」「風が吹くまま」)を見ることとなるだろう。
今回のリリースは虚構と現実をめぐるキアロスタミの〈魔法〉を体験する絶好の機会である。また、「シーリーン」「24フレーム」といった晩年の実験作を目撃した者にとっては、キアロスタミの新たな可能性を検証するいい機会となるはずだ。〈ジグザグ道〉を抜けた先に見えるもの。キアロスタミからの〈宿題〉に答えるときが来たように思う。