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ローファイ・ヒップホップのフィジカルがこんなに充実するとは……

こうした関心の高まりを象徴するのが、P-VINEによるフィジカル・リリースのシリーズだろう。ランデシ(L'indécis)、C Y G N、ニンジョイ(Ninjoi.)、ボディクー(Bodikhuu)といったビートメイカーの作品を立て続けにCD化し、ローファイ・ヒップホップの最重要レーベルのひとつChillhop Musicとコラボレーションしたコンピレーション『Chillhop Radio ~Beats to Relax to』(以下、〈Chillhop Radio〉)が最新となる。

『Chillhop Radio ~Beats to Relax to』アルバム・ティーザー

そもそもジャンルを問わずリリースの中心がストリーミングやダウンロードに移って久しい今、世界的に見れば作品がCD化される機会はかなり減っている。それゆえ、CDの需要がまだ高い日本だけで独自企画盤が出る例は結構多い。にしても、まさかインターネット・カルチャーの申し子と言うべきローファイ・ヒップホップのフィジカル・リリースがこんなに充実するとは。熱心なファンが買い集めるようなアナログ・レコードやカセットテープならまだしも。

 

ローファイ・ヒップホップにおける〈ローファイ〉とは〈気分〉である

と、ここまではローファイ・ヒップホップをとりまく状況をざっくりと追ってきた。以降は、〈Chillhop Radio〉をはじめとしたリリースに耳を傾けつつ、その音楽性に向き合ってみたい。

〈Chillhop Radio〉にコンパイルされたのは、ランデシ“Soulful”やC Y G N“Mindfulness”といったヒットをはじめとした、いかにもローファイ・ヒップホップ、といったビートの数々。ローファイ・ヒップホップといえばこれ、というサウンドがつまっている。

『Chillhop Radio ~Beats to Relax to』収録曲“Playtime”

『Chillhop Radio ~Beats to Relax to』収録曲“Mindfulness”

90年代のヒップホップに触れているリスナーにとっては、〈ローファイ〉と言うとザラついた太い質感(いわゆるファットな音)を想像するかもしれないが、〈Chillhop Radio〉で聴けるようなローファイ・ヒップホップは、むしろタイトでスムースだ。たとえば、アタックが強調された硬質なドラム。少しチューニングが高めのカンカンと鳴るスネアか、あるいはリムショットの乾いた音色が好まれる。このあたり、ローファイ・ヒップホップのビートメイカーたちから熱烈な支持を受けるJ・ディラの仕事を彷彿とさせるし、2000年代、ネオ・ソウル以降のモードにも通じている。

また、汚しの効いたサウンドももちろんあるけれど、メインのウワモノについて言えば、〈これってどっちかっていうとハイファイでは?〉くらいのヌケの良いメロウなサウンドも少なくない。ローファイ・ヒップホップにおける〈ローファイ〉は、ロー・ビット的な汚しに限らない、微妙なディテイルに宿る〈気分〉と捉えたほうがいいだろう。