作曲家/演出家の額田大志が率いるコンテンポラリーポップバンド・東京塩麹が活動開始から昨年で10周年を迎えた。ミニマルミュージックを人力で演奏する器楽アンサンブルとして2013年1月に初めてライブを行って以降、これまで3枚のアルバムと1枚のEPおよびミニアルバムをリリース。中でも最新作となるサードアルバム『Goodbye』(2023年)は国境を超えて評判を呼び、インディーミュージックにスポットを当てる台湾の音楽アワード〈金音創作獎〉で〈亞洲創作音樂獎(ベストアジアンクリエイティブアーティスト賞)〉にノミネートされた。
音源のみならずライブにも趣向を凝らし、ジャンルを超えたコラボレーションのほか〈完成しない曲を作ること〉を掲げたライブシリーズを開催するなど、ユニークな試みを続けてきた東京塩麹。10年間の活動で彼ら彼女らはどのような道のりを歩み、そしてこれからどこへ向かうのか――SPACE SHOWER MUSICに移籍してリスタートを切った東京塩麹の中心人物・額田大志に話を訊いた。
常田大希、石若駿、江﨑文武らが集った人力ミニマルバンド
――そもそも東京塩麹というバンドはどのような経緯で結成に至ったのでしょうか?
「最初はスティーヴ・ライヒが作曲した“18人の音楽家のための音楽”(74〜76年)の完全な影響下でスタートしました。
それまで僕はいわゆるロックバンドをずっとやっていて、下北沢屋根裏などのライブハウスで活動していたんです。けれど大学に入ってからそのバンドが上手くいかなくなり、もっと自分主導のバンドを新しく作りたいと思うようになりまして。
当初の東京塩麹はラージアンサンブルのように、私の作った曲をメンバーに演奏してもらうプロジェクトでした。それで大学の知り合いやジャズ研の繋がりなどを通じて集めたメンバー計18人で最初にライブをやったのが2013年1月です。
2017年頃に今の8人のメンバー――額田大志(作曲/シンセサイザー)、渡辺南友(トランペット)、渡健人(ドラムス)、初見元基(ベース)、中山慧介(ピアノ)、渡邉菜月(トロンボーン)、テラ(ギター)、高良真剣(パーカッション)――に落ち着いたんですが、それまでは入れ替わり立ち替わりいろいろなミュージシャンがサポートで参加してくれて。過去にドラマーの石若駿やWONKのピアニストの江﨑文武、あとKing Gnuの常田大希がチェロで参加してくれたり、ジャズサックス奏者の中山拓海やクラシックバイオリン奏者の戸原直、シンガー/トラックメイカーのermhoiやサウンドアーティストの細井美裕など、参加ミュージシャンを数えると延べ100人以上はいます。ちょっと変わった音楽好きが集まるコミュニティみたいな感じにもなっていました」
――ものすごいメンバーですね。ともあれ、バンドの出発点にスティーヴ・ライヒがあったと。
「そうです。あと、ライヒのほかにもう一つ東京塩麹がすごく影響を受けた音楽があって、それがドイツのブラント・ブラウアー・フリックという3人組のユニットでした。基本は電子音楽のトリオなんですが、彼らが10人程度の編成でクラシックの器楽アンサンブルのような形でライブをやるブラント・ブラウアー・フリック・アンサンブルというユニットがあって。ジャーマンテクノ寄りのミニマルミュージックというか、それを大編成でしかも生演奏でやるということに大きな刺激を受けました。
人力ミニマル系のバンドというと、どちらかというと小編成が多いじゃないですか。ブラント・ブラウアー・フリックも基本はトリオですし、オーストリアのエレクトロ・グッツィや京都の空間現代もトリオで。だけど東京塩麹は大編成なので、3人ないし4人ではできないことをやるにはどうしたらいいだろう、ということは最初からすごく考えていました。
人数が少ないと、一つのアイデアを突き詰めて展開させていくストイックな面白さが出てくると思うんです。けれど大編成であれば、もっと曲の構成や構造を練っていくことができる。それはあくまでも楽譜で曲を書いているからこそできることでもあるので、作曲段階で構成や構造を極めることを東京塩麹の強みにしたいという思いがありました」