“さよならの向う側”にサラブレッドの歌声を聴く――山口百恵名曲集コンサート

 “誕生”一曲で物語る、その歌唱力に惚れた。みゆきカヴァーは数あれど、我がランクで1位に躍り出た。“息子”の先入観で敬遠してきた日々を悔いる。自作の“星屑メリーゴーランド”も素敵だ。谷村新司とのデュオ映像“いい日旅立ち”を観たら、百恵版とは詞の響き方が違った。(魚釣る)少年が「母の背中で聞いた歌/父が教えてくれた歌」を道連れに育ち、健やかに今を生きるアティチュードと重なった。開花宣言下、中平卓馬の大回顧展で「決闘写真論」の親本と再会したら、“時代と寝た女”と百恵を活写した篠山紀信の讃頌が立ち昇った。忌野清志郎の未発表音源3曲を収めた春日博文の新譜『hachi uke 3rd』を聴いたら、かの同級生と写る友和青年の一葉が想い出された。

 指揮者の西本智実はこう語る。「懐かしい音楽を聴くと、瞬時に遠い記憶の光景が甦り、郷愁を覚えます。そして、音楽には喜びも悲しみも共感しあえる力があります」。清志郎も谷村も紀信も(卓馬も)今はいない。が、彼らの作品群は今も聴く者/視る者の心を揺さぶって止まない。再び、西本談話を引く。「時代を超越して、歌い演奏される名曲集。本公演〈ノスタルジー〉が、皆様と共にその感動を分かち合い、共鳴し合うひと時となり、誰にとっても心豊かな時間となりますよう」。正式な公演名は、西本智実「ノスタルジー」with 三浦祐太朗 -山口百恵名曲集-。ソロ・デビューを松山千春の“旅立ち”で飾った祐太朗が、ドリカムやKiroroやマイラバ、“ESCAPE”やアニメ好きの彼らしく“太陽がまた輝くとき”、浜省からフィッシュマンズの“いかれたBaby”まで全9曲を歌い切る濃縮盤『90’s Drip -J-POP COVER ALBAM-』を聴いた事があるだろうか。“決戦は金曜日”から前掲“誕生”も収めた選曲はやや散在感を拭えないが、各作品に寄せる熱い気持ちで貫かれ、原曲とまた違う歌い手の豊かな表現力に魅せられる。

 事情は全曲百恵カヴァーの『I’m HOME』でも変わらない。“呪縛”がない、誰もが百恵色に染まり易い“秋桜”も彼流の語り口で咲かせている。出色の祐太朗版“ありがとうあなた”も本公演で披露される。フルオケ奏のミュージカル/映画音楽を挟みつつの待望共演。彼は語る。〈西本智実さんをはじめとする素晴らしいミュージシャンの方々と、母・山口百恵の歌の世界を表現できる事、大変嬉しく思っています〉。彼の本領が映える“横須賀ストーリー”“絶対絶命”“美・サイレト”……戦後の歌謡遺産が新装で歌い継がれる一夜!

 


LIVE INFORMATION
西本智実「ノスタルジー」with 三浦祐太朗 -山口百恵名曲集-

2024年7月21日(日)東京オペラシティコンサートホール
開場/開演:13:15/14:00

2024年9月1日(日)大阪・ザ・シンフォニーホール
開場/開演:13:00/14:00

2024年12月7日(土)大宮・ソニックシティ大ホール
開場/開演:14:00/15:00

音楽監督&指揮:西本智実
ボーカリスト:三浦祐太朗
管弦楽:イルミナートフィルハーモニーオーケストラ

https://classics-festival.com/rc/performance/nostalgie-symphonic-concert-2024/