繊細なタッチのピアノをキーに、ジャンル、過去と未来を一線につなげる野心作
2011年にアメリカの若手ピアニストの登竜門で、隔年でジャズとクラッシック・ピアニストが顕彰されるコール・ポーター・フェローシップで優勝を飾り、〈マック・アヴェニュー〉からメジャー・デビューした俊英、アーロン・ディールの5年ぶり5作目は、その演奏表現が、新たな局面に到達したことを語っている。
ベニー・ゴルソン(テナー・サックス)、ジョー・テンパレイ(バリトン・サックス)ら大ヴェテランをフィーチャーした前作『Space, Time Continuum』を2015年にリリースして以降、2016年秋に、アラン・ギルバート率いるニューヨーク・フィルハーモニックとのジョージ・ガーシュウィン作品をフィーチャーした共演、2018年からミニマル・ミュージックの巨匠、フィリップ・グラスとの共演など、クラッシック音楽にも進出している。またセシル・マクローリン・サルヴァント(ヴォーカル)のデビュー以来、その片腕として好サポートを発揮し、グラミー賞連続受賞に大きく貢献した。
本作では、長年の共演者であるポール・シキヴィー(ベース)、今や堂々たるリズム・マスターのグレゴリー・ハッチンソン(ドラムス)とのトリオで、バラード・プレイを中心に、内省的に深まり、リリカルなオリジナルと、カヴァー曲の独自の世界を構築している。その中でジュリアード音楽院時代に師事したロシア出身のクラシック・ピアニスト、オクサナ・ヤブロンスカヤにインスパイアされてプレイした、ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフの“March From Ten Pieces For Piano, Opt. 12”は、激しいスウィング・チューンに換骨奪胎され、ラインナップの中でも異彩を放つ。フィリップ・グラスの“Piano Etude No. 16”は、ジャズとクラッシックのジャンルを超えたアメリカン・ミュージックとしての統合感を、聴かせてくれる。ジョン・ルイス(ピアノ)、ローランド・ハナ(ピアノ)のオリジナルにも敬意を表した。繊細なタッチのピアノをキーに、ジャンル、過去と未来を一線につなげる野心作である。