“Letter”がCMソングとして使用されて話題となり、7月1日にフォース・アルバム『Tragicomedy』(読み:トラジコメディー)をリリースしたSHE’S。大きなブレイクポイントとなる今作をメンバー4人に解き明かしてもらった。
――「期間を設けずに濃い曲を作ろう」という方向性で曲作りをしたそうですね。
井上竜馬(ヴォーカル&キーボード)「はい。作曲のしかたは特段変わらないんですけど、デモ音源を作り込めたのが一番の利点でした。今までは〈自分の思い描く世界をどこまで現場で伝えられるか〉が時間との勝負だったし、それが上手くできず、メンバーにアレンジを投げたときに誤差が生じることもありました。だけど今回はそこがスムーズにできて。それで表情豊かなアルバムが出来たのかなと思います」
木村雅人(ドラム)「今回は特に曲の幅が広いアルバムですが、時間があった分、ルーツにあたる音楽を深く聴き込んで、自分たちなりに昇華することができました」
広瀬臣吾(ベース)「レコーディングの時期がバラバラだったのも大きいですね。今までは一度に5曲ぐらい録っていたから、そのなかに、竜馬が結構前に書いた曲が入ってくることもあったんですよ。だけど今回はどの曲も新鮮な状態のまま録ることができたので、今のSHE’Sのモードを出しやすかったです」
服部栞汰(ギター)「竜馬が自由に曲を書いている分、どんな曲が来るのか僕らも楽しみで。臣吾が言った〈曲が新鮮な状態で〉というのもそうですけど、アレンジをする僕らの気持ち的にも新鮮な状態でいられました」
――みなさんとしては、どんなアルバムになったと感じていますか?
服部「4人とも同じ気持ちだと思いますが、自ら最高傑作と言えるアルバムになりました」
広瀬「“Ugly”や“Blowing in the Wind”のような今までのSHE’Sっぽくない曲もありま
すが、それによって、かえってSHE’Sの芯が見える作品になったと思います」
――SHE’Sの芯とは?
井上「チャレンジ精神を忘れないことですね。僕らは今までピアノがメインで響いている曲――“Letter”のようなバラードや、“Higher”のように爽やかで疾走感のある曲――を積極的に表現してきましたが、これまでにもピアノを弾かない曲はあったし、〈ピアノロック〉に囚われない精神でやってきました。そこは一つ、SHE’Sの芯として認識しています」
――仰るようにSHE’Sは変化を恐れない姿勢を大切にしてきたバンドですが、それでも今回は振り切れ具合が違いますよね。
井上「今回のアルバムには、“歓びの陽”(2018年8月リリースのサード・シングル表題曲)で初挑戦したエレクトロの系譜にあたる曲もいくつか入っていて。そう考えると去年1年間、〈やりきらないと進歩しない〉という気持ちで、4人のなかにあった抵抗を削ぎ落とせたからこそ、新しいモードになっていけたのかなと」
服部「例えば“Masquerade”も、竜馬が最初に持ってきたデモにはちょっとだけエレキギターが入っていたんですよ。だけど曲が強かったからこそ、全部削ぎ落としてアコギ1本で行こうという気持ちになることができて」
広瀬「そういう意味で言うと、僕は“Blowing in the Wind”が思い出深いかな。ドラムもベースも打ち込みの曲なんですけど、1曲まるまるシンセベースでアレンジしたのは初めてのことで」
井上「最初は〈サビはバンドサウンドの方がええかな?〉と思っていたんですけど、キム(木村)と話し合った結果、〈いや、全部打ち込みでええんちゃうか〉っていう流れになって」
広瀬「今までは〈生じゃないと〉という意識がどこかにあったけど、この曲で殻を破れました」
――木村さん、ドラマーとして思い入れの深い曲は?
木村「“One”ですね。サビは、まずスネアとキックを録って、その上に別録りでタムを重ねて……という特殊な録り方をして、壮大さを出すための工夫をしています。それによって、僕らが普段聴いている洋楽の雰囲気を出せたと思いますね」
――あと面白いのが、外部のプロデューサーが入った曲だけが変に浮いていないこと。
井上「そう、俺らも負けてないなあと思って(笑)。自分たちで土台をしっかり作りながらここまでやってこれたからこそ、アレンジ力も着実に高まっていて。だからプロデューサーさんに手伝ってもらっても、他の曲が弱くなったりしないんです。それはバンドとしてすごく良いことですよね」
――はい。バンドが良い状態であることが伝わってきます。
井上「今すごく自信があるんですよ、4人の音楽に。早く次の作品を作りたいです」