ソロパフォーマンスは演奏者の人生が剥き出しで表れていると感じることがある。そのミュージシャンがどのような経験を積み重ねてきたのか、音とどのように向き合い楽器をどのように扱っているのか、あるいは今現在どのようなことに関心があるのか等々。とりわけ自由な即興を主体としたソロにそれは顕著である。複数人でのセッションが奏者間のコミュニケーションに力点が置かれるとするなら、ソロはモノローグであり、観客や空間への語りかけも含めて奏者の〈声〉が音楽を形作っていく。その〈声〉のオリジナリティが音楽的個性へと直結する。

トランペッターの類家心平が初のソロアルバム『メタモルフォーゼ』を2025年8月28日(木)にリリースする。レーベルは日本の同時代のジャズを精力的に発信し続けているDays of Delight。レコーディングは同レーベルの設立者でプロデューサーの平野暁臣が館長を務める岡本太郎記念館で行われた。即興演奏を中心に一部オリジナル曲も交え、多重録音や編集は施さずライブレコーディングのようにそのままパッケージしたという。類家の持ち味であるハスキーなサブトーンを駆使した柔らかに広がるノイズ、高音域へと突き抜ける鋭いミュート音、高速度の震えが生む音塊、あるいは動物の鳴き声にも似たユニークな響きなど、緩急自在な演奏はトランペットという楽器に秘められた音色の豊かさを伝える。それだけでなくメロディアスな旋律を歌うように奏でたかと思えば、サンプラーを用いてヒップホップ風からアンビエント/ドローンな抽象的サウンドまで、その場でトラックを作り音楽に幅を持たせていく。アルバムを聴き進めるにつれて徐々に混沌とし始め、しかし洞穴を抜け出すように最後は晴れやかで美しいバラードを鳴らす。まるで何度も繰り返し奏でられてきたスタンダード曲のような落ち着きを湛えたこの最後の演奏はしかし即興で刻まれた旋律なのだ。

無伴奏のソロパフォーマンスは自らの〈声〉を探求するミュージシャンにとって一つの創造的挑戦である。だがトランペットは楽器の性質上ソロとの相性が決して良いとは言えない。歴史を振り返るとトランペッターによるソロアルバムの嚆矢としてはワダダ・レオ・スミスが1972年に発表した『Creative Music - 1』を挙げることができるが、同作は実質的にはパーカッション等を含めた多楽器主義的内容であり、そこからもトランペット一本でアルバムを制作することの難しさが窺える。日本では日野皓正が1974年のアルバム『Journey Into My Mind』の冒頭と末尾でソロパフォーマンスを披露していた。一枚丸ごとソロで制作したアルバムとなると近藤等則『FUIGO from a Different Dimension』(1979年)が日本における最初の成果だろうか。21世紀以降は各地でトランペッターのソロアルバムが制作されているものの、他の楽器に比すると多くはない。しかしそれだけに今なお未踏の領域が残っているとも言える。近年の話題作としてアンブローズ・アキンムシーレ『Beauty Is Enough』(2023年)が注目を集めたのも、演奏の素晴らしさはもとより、トランペットソロというフォーマットから新たな可能性を引き出したからでもあるだろう。

類家心平の『メタモルフォーゼ』もこうした創造的かつ挑戦的なトランペットソロの系譜に新たなページを刻む一枚だと言える。類家はマイルス・デイヴィスの音楽との出会いから高校時代にジャズの道へと進み、卒業後は海上自衛隊の音楽隊でトランペットを担当、退官後に青森から上京し音楽活動を本格的にスタートさせた。特異な経歴を歩んできた彼はどのように即興主体のトランペットソロアルバムを完成させるに至ったのか。そこには〈全てが必然的に進んでいくこと〉を理想とする類家流の即興哲学があったが――まずはアルバム制作のきっかけから話を訊いた。

類家心平 『メタモルフォーゼ』 Days of Delight(2025)

 

コロナ禍をきっかけに取り組んだトランペットソロ

――今作は類家さんにとって初のトランペットソロのアルバムです。まずは経緯について教えてください。

「プロデューサーの平野暁臣さんがソロライブを観に来て〈アルバムを作ろうよ〉と言ってくれたのが大きかったです。ソロなので自分のタイミングで作れるんですけど、トランペットソロとなるとそれなりのクオリティで出すにはハードルが高い。でも、ONJQ(大友良英ニュー・ジャズ・クインテット)でヨーロッパツアーに行ったとき、大友さんから〈ソロのアルバムを作ったほうがいいよ〉と言われて、より思いが固まったタイミングで話をいただけたので、作ろうと決めました」

――ソロライブはいつ頃からやっていらっしゃるんですか?

「力を入れるようになったのはコロナ禍以降ですね。ライブが軒並み中止になって、自宅でソロ演奏した動画をSNSに上げ始めたんです。その流れでオンラインフェス(〈Jazz Auditoria Online 2020〉)でもソロで演奏しました。やっているうちに面白くなって、ライブができるようになってからは不定期でソロでも演奏するようになりました。

ただ、2000年に上京した頃もソロライブをやっていたんですよ。あまり知り合いもいなかったし、当時はクラブジャズが流行っていて、トラックを流しながら演奏するミュージシャンが増えた時期でもありました。実は東京に来て初めてのライブは、トラックの上で吹くソロだったんです。そのうちバンド活動をするようになったので、ソロでやる機会はなくなって」

 

フリージャズでなく〈多調〉を奏でるマイルス・デイヴィス

――今でこそ即興セッションに数多く取り組んでいますし、リーダーバンドのRS5pbにはフリー/アバンギャルドな要素もありますが、上京後に参加したurbはクラブジャズ寄りのジャムバンドでしたよね。そこからフリーな即興表現にはどのように進んだのでしょうか。類家さんの原点と言えるマイルス・デイヴィスもフリージャズとは距離を取っていたように見えます。

「マイルスって絶対にフリーにならないですよね。フリーっぽいことはやるんですけど、フリージャズはあまり好きじゃなかったと思う。でもギリギリのところまでは攻めていて。マイルスを聴いていると、フリーというより多調に感じます。俯瞰すると似ているけど、オーネット・コールマンやアルバート・アイラーのようなフリージャズには絶対に行かないという確固たる意志を感じる。僕はマイルスを入り口に、その枝葉のようにフリージャズを聴いていきました。

だから正直、最初からフリージャズが好きだったわけでもなくて。トランペットということでドン・チェリーは高校の頃から好きでした。でもドン・チェリーは、フリージャズというよりも〈ドン・チェリー・ミュージック〉としか言えないところがある。リーダー作からコドナ(コリン・ウォルコット、ナナ・ヴァスコンセロスとのグループ)までいろんなレイヤーはありますが、彼自身の音楽をやっていたと感じます」

――ギリギリのところまで攻めていた作品で、マイルスの好きなアルバムはなんでしょう?

「最初はマラソン・セッションから聴き出したんですが、親父が〈お前、マイルス聴くのか〉ってレコードを貸してくれて。それが『Sorcerer』(1967年)や『Nefertiti』(1968年)といった第2期黄金クインテットのアルバムでした。最初はわけがわからなかったですが、でもとにかくかっこいいなと。1960年代後半のロスト・クインテットも好きです。とことん混沌としているというか、出口の見えない感じが好きで。『Agharta』(1975年)や『Pangaea』(1976年)も好きでした」

――上京時はフリーな即興表現に手応えを感じていたわけではなかったのでしょうか?

「そうですね。ちゃんとジャズをやらないとダメだみたいな、変な強迫観念がありました。スタンダードを覚えてセオリーに則って演奏しなきゃって、ジャムセッションにも通いました。

でも当時はクラブ系に勢いがあって、2003年にはロイ・ハーグローヴのRHファクターが『Hard Groove』を出してますよね。ジャズとクラブシーンが接近した時代だったと思うんです。周りでもそういう音楽をやってる人がいたので、トラックの上でアドリブを取るソロライブもやっていたんです」

 

菊地成孔ダブ・セクステットで確信した〈自分の音楽を表現できればいい〉

――2000年代は渋さ知らズがフジロックに出始めたり、DCPRGやONJO(大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラ)が人気を集めたりと、フリージャズ的なものも勢いがあったように思います。そうした音楽に接することはありましたか?

「もちろん知っていました。菊地成孔さんのDCPRGも、坪口昌恭さんの東京ザヴィヌルバッハも聴いていました。藤原大輔さんのphatとかも。今思うと日本独特というか、他の国にないことをやっていたと思いますね。でも僕は当時、クラブジャズ系のシーンにいたので、直接的な接点はなくて。そうしたことをやろうとも思っていなかったです」

――すると、どのようなきっかけでフリーな即興表現に取り組み始めたのでしょう?

「菊地さんのダブ・セクステットに入ったことが大きかったです。ダブ・セクステットで演奏するうちに自由な表現が合うなと感じたので。ああいうフォーマットでも音楽ができるんだなと」

――菊地さんとはどのように出会いましたか?

「ラクダカルテットという、カルテットじゃないんですけど(笑)、7〜8人編成のバンドがあったんです。今堀恒雄さんのティポグラフィカにいたキーボード奏者の水上聡さんが立ち上げたバンドで、ホーンセクションは流動的で、菊地さんが演奏することもありました。でも金管楽器がいなかった。で、ギタリストのテッシーさん(手代木克仁)から〈トランペットを探しているから観に行こう〉って誘われて。

テッシーさんはもともと水上さんとニューウェーブ系ロックバンドの東京少年をやっていた人で、吉祥寺でセッションしていたときに知り合いました。それで新宿ピットインのラクダカルテットのライブに行ったら〈今度来てトランペット吹いてよ〉って水上さんに言われて、次に行ったときステージに上がったら隣に菊地さんもいて。そこで知り合ったんです。

ライブが終わった後、菊地さんはちょうどダブ・セクステットの構想があったみたいで、〈今度バンド作るから一緒にやろうよ〉って誘ってくれて。実際に動き出すのは1年ぐらい経ってからですが、それがきっかけで参加しました」

――ダブ・セクステットに参加したことで音楽観に変化が生じたと。

「僕はジャズから音楽を始めたんですけど、ジャズというよりインプロビゼーションを主体とする音楽が好きで、そのためにはジャズが一番いいんじゃないかという気持ちで勉強し始めたんです。だからジャズミュージシャンになることが根本にあったわけじゃないなと気づいてきて。

ダブ・セクステットに入ったタイミングで、やっぱりそうだよな、自分の音楽が表現できればいいよなと合点がいって、自分のバンドも立ち上げました。それから即興のセッションにも呼ばれるようになって、徐々にクラブジャズ系とは別の界隈にも入っていった感じです」

 

板橋文夫に学んだ、限界を超える演奏

――話が前後しますが、上京前の海上自衛隊時代に山下洋輔さんと共演したこともあるとか。

「自衛隊のコンサートにゲストでいらっしゃって、一緒に“Cherokee”を演奏してソロを吹かせてもらいました。打ち上げで山下さんから〈家で新年会のジャムセッションをやるからおいで〉って声をかけてもらえて。結局それには行けなかったんですが、今は一緒にやらせていただいているので、伏線が回収されたなと(笑)。

その少し前に板橋文夫さんも青森に来たことがありました。スナックみたいな場所で地元のミュージシャンと一緒にやっていたので、僕も少し吹きました。山下さんにしても板橋さんにしても、当時はプロを生で観る経験があまりなかったので、演奏を観るだけで感動しましたね」

――今は板橋さんとも活動していますね。

「はい。最初に共演したのはデュオで、その後、板橋さんがツアーで全国を回るときに誘われました。板橋さんと僕とドラムの竹村一哲という変則的なトリオで、2週間ぐらい演奏して。板橋さんの演奏には〈ここまでやるんだ〉という衝撃がありました。僕が思っていた限界が底上げされたというか。それはソロでもオーケストラでも感じます。

今回の僕のアルバムはソロですけど、ソロ演奏だと〈もう無理だ〉ってところまでいってから出てくる面白さがあります。そこで自分の持っているものを再発見することもある。上手くまとめてしまうと、ショーとしては面白いかもしれないけど、発見は少ない。ギリギリまで詰めたほうが発見があるし、それを面白いなと思う人もいるはずなので、僕はそういうほうに賭けたいです」

 

ONJQのヨーロッパツアーで培った経験

――大友さんとはいつから共演するようになりましたか?

「2017年末にONJQを再結成したときに誘ってもらって、それが初めての共演でした。正直、大友さん、水谷浩章さん(ベース)、芳垣安洋さん(ドラム)のトリオが強烈すぎて、最初はどうしたらいいかわからなかったんです。その3人で完全に成り立ってしまっているから。それが最初の印象でした。

第1期のONJQはサックスの菊地さんと津上研太さんがいましたが、再結成時はトランペットの僕とトロンボーンの今込治さんという、どちらかというと即興に不向きな金管楽器に変わっているんです。サックスのほうが長く吹けるし、フリーな音楽にマッチするじゃないですか。金管だと長く吹くのも大変。だけどその難しさも含めて面白さがあるから、いまだに続いているんだと思います」

――ONJQで新たに発見したことはありますか?

「いろいろありますが、ヨーロッパツアーに連れていってもらったことが大きいです。僕はヨーロッパで演奏すること自体が初めてで。向こうはフリージャズや即興音楽に対する理解度が高い土地だと思うと同時に、当たり前なんですけど、面白い人は面白いし、つまらない人はどこの国にもいるなとわかった(笑)。だから単純に視野が広がりました。日本にいると海外からは面白い人の情報しか入ってこないから、勝手にイメージが膨らんでしまう。でも現地に行ったらいろんな人がいる。もちろん根底にある音楽の情操教育の差はあるかもしれませんが、日本だって面白い人もいればつまらない人もいるわけで、どこも変わらないなと」

――ONJQでは中国にも行っていますよね。類家さんのバンドでも2018年に行っていますが、印象的だったことはありますか?

「2018年にRS5pbで出たのは深圳の〈OCT-LOFT Jazz Festival〉というフェスです。アート特区みたいな街で、道端にアートが設置されていたり、ビルの壁面に絵が描いてあったり。街自体が裕福で、ライブはものすごく盛り上がりました。僕でさえキツく感じるゴリゴリのフリージャズなラインナップをスタンディングで聴き続けて盛り上がるという(笑)、面白い場所だなと思いました。〈他国の文化に飢えている〉と言う人はいましたね。レコードやCDを持っていくとめちゃめちゃ売れるし、普段買えないから珍しいというのはあるのかも」

――現地のミュージシャンで面白いと感じた方はいますか?

「大友さんが中国の即興演奏家との交流を続けていますけど、僕が行ったときは、老丹(ラオ・ダン)というサックスや中国の笛を吹く人が面白かったですね。フリージャズのミュージシャンとして素晴らしいし、個性的だと思います」

 

誰にも似ない演奏を求めて

――トランペットソロはハードルが高いとおっしゃっていましたが、実際、他の楽器に比べて、アルバム一枚トランペットだけという作品は少ないですよね。

「サックスに比べると少ないですね。ただ、ヨーロッパにはソロアルバムを出している人もわりといるんですよ。ドイツのアクセル・ドゥナーとかが好きなんですけど、息の音だけでワントラックを作るみたいなことをやっていて。最近はイタリアのフラヴィオ・ザヌッティーニをよく聴いたり」

――アメリカはどうでしょうか? ピーター・エヴァンスやネイト・ウーリーが有名どころですが。

「ピーター・エヴァンスも好きなんですけど、マッチョすぎるというか、真似できない領域だと感じます。ネイト・ウーリーのほうが好きですね。あとはシカゴのロブ・マズレクとか。でもアメリカのフリージャズにはマッチョな人が多いイメージはあります。だからヨーロッパのほうが共感できるトランペッターは多いかも」

――即興的なアプローチという点で研究したり聴き直したりしたトランペッターはいますか?

「よく聴いたのは、ニルス・ペッター・モルヴェルとかアルヴェ・ヘンリクセンとか、あの辺の北欧系が好きです。

ただ、特定のミュージシャンを研究したというより、いろいろなトランペッターを聴いて、少しずつ自分に必要なものを取り入れてきた感じです。好きなトランペッターといっても僕ができることと必ずしも一緒ではないので。

だからライブの中で偶然出てきたものを大事にすることのほうが多いかもしれない。板橋さんじゃないですけど、現場で窮地に迫られて開発した表現が定着していったことの積み重ねが、今の自分を形作っているというか」

――日本に目を向けると、近藤等則さんや田村夏樹さん、北陽一郎さん、江崎將史さんなどがトランペットのソロ作を出しています。

「近藤さんはエフェクトをかけたトランペットのイメージが強いですが、生音の時代も素晴らしいんですよ。何度かライブも観ました。

ただ、どのトランペッターにしても聴きすぎると影響を受けてしまうから、参考程度にしています。聴いていて〈この人はあの人から影響を受けているな〉と感じることもあって。僕としては、誰とも似ていないところに行きたいという思いが強い」

 

その場の閃きと説得力のある音を刻んだアルバム

――やはりトランペットは無伴奏ソロが難しいと感じますか?

「たしかにそういうハードルはあります。単音楽器だし、レンジが狭いんですよね。普通に使えば2オクターブぐらいしか出せない。唇を震わせて音を作るので吹き続けるのも大変で、音色も限られている。別の楽器と一緒にやったほうが楽だと思います」

――そうした制約があるなか、今回ソロアルバムを作るにあたって、どのようなことを意識しましたか?

「ソロなので細かい音まで聴いてもらえることは意識しました。他の楽器と一緒ではないから、裏を返すとトランペットの音だけにフォーカスできる。だから僕が特徴的に使うようにしているサブトーンの音色とか、限られたダイナミックレンジの中での動きとか、一人だからこそ聴いてもらえる細部を意識しています」

――ライブだとエフェクターを使うことも多いですよね。今回ほぼ生音だけで演奏しているのはなぜですか?

「せっかく岡本太郎のアトリエという特別な環境でレコーディングできたので、エフェクターを使うより生音の、人力で出せる音の種類を中心に表現したかったんです」

――実際にレコーディングしてみて、アトリエはどんな場所だと感じました?

「普段は入れない場所なので喜びもありましたし、場所に染み込んでいるものがあるとも感じました。数々の作品が生み出された場所という独特の空気を感じて。場のエネルギーみたいなものがあったというか」

――ライブのように長時間のセットをレコーディングするパターンもあると思いますが、今回、2〜3分の短いトラックが中心になっています。こうした構成にしたのは?

「ライブは1時間ぐらいぶっ続けでやるんですけど、それはライブだからできることのような気がしていて。実際に吹いている人がいて、それを聴いているお客さんがいて、場所が共有できているからこそ、時間を積み重ねていける。たとえばライブの最後5分を切り取ったとしても、それは1時間続いた時間のラスト5分なので、ライブであればそういう捉え方ができます。時間をしっかり使えるんです。もしくは演奏しない、音が鳴らない時間があっても、その場所を共有していると成り立たせることができる。

でも録音作品はそうじゃない。なので、長時間の演奏より集中した2〜3分の演奏が並んだほうがいいと思って。演奏する人と同じ空間で聴くのと、音源で音だけ聴くのでは聴き方も違ってくるので、今回は録音作品であることを意識しました」

――即興演奏のほか、オリジナル曲の演奏、サンプラーで作ったトラックを流しながらの演奏も収録されています。取り上げる曲やトラックは想定していましたか?

「その場で思いついたことをやって、録っては切り替えてまた別の演奏をすることの連続でした。最初から決めていたわけではなく、次になにをやろうかと迷いながら、ふと思いついて曲を演奏した感じです。

サンプラーもソロライブのときに使っているやつで、素材は入れっぱなしなんですよ。『独裁者』でチャップリンがヒトラーを風刺した演説とか。事前に用意したり編集で追加したりしたのではなく、その場でサンプラーを使ってトラックを作っていきました。

ソロだと、いろいろなことがすぐにバレてしまうんですよね。もちろんサンプル素材や音源は用意してあるものですし、オリジナル曲も事前に作ってはいるわけですけど、準備したものを披露するみたいになってしまうと面白くない。理想としてはその場で100%思いついたものを出したいんです。どこかでやった演奏が出ているかもしれないけど、あくまでもその場の閃きを重視したい。特にソロだと共演者もいないので、説得力のある音を出していかないと飽きられてしまう。難しいけど、そのほうが面白いし、僕としては好きですね」

 

必然的な反応を積み重ねて作り上げる時間の芸術

――その場の閃きを重視することはまさに即興的なアプローチだと思いますが、即興演奏の最大の魅力とはなんでしょうか?

「即興にしろコンポーズ(作曲/構成)されているものにしろ、最終的にはどっちも一緒であればいいというのが理想です。理想を言えば、コンポーズしてあるものも全部即興で出来上がればいいけど、現実には、たとえばメンバーが複数いると、即興だけだとまとまりがなくなってしまう。ある程度コンポーズされていたほうが聴きやすいですよね。でも、もともとは即興を書き留めたことがコンポーズの原点だと思うんです。それを拡大解釈すると、全部インプロビゼーションであればいいなと。僕はそういう気持ちで演奏しています。

最大の魅力となると……一番大事なのは必然的に物事が進んでいくことですかね。急に変化する部分もあっていいですが、それも〈こうなったから、こうなる〉というふうにつながっていて、全てが必然的に進んでいくことが理想です。相手がこういう演奏をしたから僕の演奏はこうなった、みたいなことの連続で音楽ができていくと面白い。即興演奏だとそれが如実に現れるんです。それが一番大きな魅力だと思います。コンポーズされたものもそういうふうに、その場で出来上がったかのように演奏できれば、一番フレッシュで面白いなと。曲を演奏していても生まれたてのものが出てくれば説得力がある。

今回のアルバムは即興演奏の比重が大きいので、必然性をもってその場で生まれたフレッシュなものがパッケージされていると思います。それは説得力という意味で強固なものなんじゃないかという自負があります」

――根底に必然性があるという考え方は興味深いです。どんなにカオティックでもその裏側に必然性を見出すといいますか。予定調和の〈機械的な反応の連鎖〉と似ているようで別の話だとも思います。

「素晴らしいミュージシャンは相手の音をちゃんと聴くことができる。聴いた上でいろんな会話ができて、そのつながりが音楽になっていくのが理想です。必然性といっても、この人はこういう演奏をするだろうとか、このメンバーが集まったらこういうセッションになるだろうとか、そういう予測できるものではなくて。

実際、メンバーの組み合わせを見てどんな音楽になるか予想していたけど、蓋を開けたら全然違う演奏だった、みたいなことはよくありますし、それこそがライブの面白さの一つですよね。だから予定調和とは全然違います。むしろ予定調和に終わるとがっかりする。そうではなく、その時その場に集まった人たちが、カオスな状況も含めて必然的に反応し合うことが積み重なることで、時間の芸術が出来上がっていく。そうなれば退屈な瞬間もないと思うんです」

――即興演奏やフリーな表現は、そうした面白さがある一方で、リスナーを限定してしまう側面も否めないと思います。新しいリスナーを開拓する、もしくはシーン全体を活性化していくにあたって、どのようなことが必要だと感じますか?

「どのジャンルでもそうですけど、ダメなものがあると良くないイメージになるんです(笑)。縦割りで見るのではなく、良いものをちゃんと評価して、底上げされるといいんじゃないかな。多分フリー系はダメなものが多くて、全体的なイメージもあまり良くない(笑)。偉そうな言い方ですけど、本当に素晴らしいフリージャズ、一瞬たりとも飽きさせない即興演奏が増えて、そういうものに触れる機会も増えると、フリーと呼ばれるものも見直されるんじゃないかと思います。紹介する人が良いものを取り上げて、良いものに触れる機会を増やしていくことが大事だなと。それはすごく難しいでしょうし、そもそも良いとはなんなのかという問題もありますけどね。

ただ、より多くの人に受け入れられればより素晴らしいかというと、そうとは限らない。たとえば、人がたくさんいると当たり障りのない話しかできないけど、2人きりになると会話が弾んで、プライベートな話とかディープな話ができることってあるじゃないですか。音楽もおそらく一緒で。たくさんの人には受け入れられないけど、限定された人数のほうが深く語り合えることがある。もちろん今回のアルバムはより多くの人に聴いてほしいですけど(笑)、少ない人数だから届けられる音楽もあるはずで、その面白さはあるんじゃないかと思いますね」

(左から)類家心平、平野昭臣(Days of Delightファウンダー&プロデューサー)

 


RELEASE INFORMATION

類家心平 『メタモルフォーゼ』 Days of Delight(2025)

リリース日:2025年8月28日(木)
品番:DOD-056
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. Improvisation#1
2. Improvisation#2
3. Splicing
4. Improvisation#3
5. Dear
6. Improvisation#4
7. Improvisation#5
8. Coerulea
9. Improvisation#6
10. Improvisation#7
11. Amber Gris
12. Improvisation#8
13. Improvisation#9
14. Improvisation#10
15. Improvisation#11

(2025年6月10日 東京録音)

■演奏者
​類家心平 trumpet, sampler, pedals

 

LIVE INFORMATION
発売記念ライヴ

2025年10月10日(金)東京・渋谷 公園通りクラシックス

《Jazz Night at the Gallery 2025》powered by Days of Delight

2025年10月25日(土)東京・南青山 岡本太郎記念館
開場/開演:18:45(予定)/19:00(予定)
出演:類家心平(トランペット)+瀬尾高志(ベース)
参加費:入館料のみ(一般650円/小学生300円)
定員:限定25名(抽選制)
詳細:https://taro-okamoto.or.jp/event/《jazz-night-at-the-gallery-2025》powered-by-days-of-delight/

 


PROFILE: 類家心平
トランペット奏者。1976年の青森に生まれた類家心平は、10歳のときにブラスバンドでトランペットに出会い、高校生のときにマイルス・デイヴィスでジャズに開眼。高校卒業後に海上自衛隊音楽隊に入隊してトラペットの腕を磨いた。2004年にジャムバンド〈urb〉でメジャーデビューを果たすと、リーダーバンド〈類家心平 4 piece band〉〈RS5pb (Ruike Shinpei 5 piece band)〉を次々に始動させ、多彩な作品を送り出す。一方では〈RS5pb〉のバンドメイトでもある中嶋錠二とのデュオユニット〈N40°〉や完全即興のソロパフォーマンスなど、さまざまな編成・コンセプトの活動を併行的に展開している。このほか、〈菊地成孔ダブセクテット〉〈DCPRG〉〈WUJA BIN BIN〉をはじめ多くのユニットに参画し、さらには星野源や藤原さくら等のレコーディングに参加するなど多彩なフィールドで活躍している。

 

■Days of Delight
公式サイト:https://www.dod-jp.com/
YouTube:https://www.youtube.com/@daysofdelight6986/videos