新型コロナウィルスに翻弄されている2020年の状況を踏まえ、〈音楽と近代社会のありよう〉を考察し、今後の音楽の行方を探った論考である。読んでいて社会史、政治史、文化史等に対する著者の広範な知識が音楽史と縦横に結びつけられ、大学の講義を聞いているように頭の中が整理されてゆく。一方で〈ライブ音楽〉と〈メディア音楽〉に対する論考には違和感を覚えた。“第九”演奏史の3/4の歴史を持つ〈メディア音楽〉と〈ライヴ音楽〉は相補う関係に成熟していると筆者は感じるのであるが……。終章での、新しい〈音楽をする場〉を探る論考は、多くの演奏家や聴き手にとって貴重な示唆となることだろう。