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〈らしさ〉を保ちながら、次のステージへ

 『Reset』にはさらなる成長・進化が漲っている。まず、布陣に変動があった。前作から行動を共にしていたCX・キッドトロニック(MC)が友好的に脱退。今回からロンドン生まれのラウディ・スーパースター(MC)が迎えられた。言うまでもなくアレックと、日本とドイツの血を引くニック・エンドウ(ヴォーカル)は健在だ。新作はいきなりロウディが大フィーチャーされ、昔懐かしい80sシンセ・ポップ風の“J1M1”で幕を開ける。

 「マンモス級のシンセ・リフと、人々の一挙一動を捉える監視カメラをテーマにしたラウディ・スーパースターのラップで『Reset』は始まるんだ。ロンドンは世界最大の市民監視活動の本場。ここでニック・エンドウは〈屈するな〉と歌っている。テクノロジーを拒否する必要はない。そいつを逆手に取り、自分自身に有利に働くよう利用するんだ」(アレック)。

 そのほか、先行カット“Reset”には80年代後半に一世風靡したレイヴを思わせる輝きの伴ったメロディーが多用されているし、“Death Machine”“Modern Liars”“Cra$h”“New Blood”で弾かれるクランチーなギター・リフはあきらかにメタリカやパンテラ以降のもので、ATRがそれらの洗礼下にあることは間違いないだろう。つまり『Reset』は〈ATR節〉から一切ブレることなく、より研磨しながら、ところどころに〈古き良き要素〉も入れ込み、見事に共存共栄させている作品だと言っていい。しかもその〈古き良き要素〉を単なる焼き直し風にやるのではなく、完全に現在の空気を纏わせているから流石、センス良しだ。そこから一転して、終盤にとてもエクスペリメンタルな“Erase Your Face”を入れ、雰囲気もヴァイブもガラッと変えつつ、さらにアッパーなダンス・チューン“We Are From The Internet”でふたたび異なる明るい世界観を描いたまま、アルバムは幕を下ろすという作りになっている(日本盤にはこの後にボーナス・トラックが収録)。当然、それぞれの曲で取り上げている警告の題材は違う。

 「“Death Machine”では現代のハッカーは人民警察だと唱え、“Modern Liars”では人生や好機について歌っている。教育制度や社会、親、政府、企業システムなど、君を引きずり下ろそうとするのに用い得るあらゆるものが対象だ。“Cra$h”は街道レースで快感を得ている子供たちに向けた曲。“New Blood”は戦争、暴動、大虐殺、自然災害、圧政に対する激しいテクノ攻撃だ。この曲のメッセージはポジティヴだよ。そしてディストーションをかけたスロウなATR流ヒップホップ“Erase Your Face”では、現代の監視社会状態の危険性と、インターネットの匿名性の原則をテーマにしているんだ」(アレック)。

 監視カメラに着目し、ロンドンは世界最大の市民監視活動の場だと訴えることに始まり、ハッカーは人民警察だと言い切る。普段私たちは見過ごしがちだが、しかしその裏や奥には次なる危険や恐怖が潜んでいることを直接的に言う着眼点、洞察力は凄い。

 なお、4月にATRは来日し、東名阪を巡演する。新作の興奮が冷めやらぬなかライヴを満喫し、思いっ切り感極まる──実に美しい流れではないか。